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業務を変えるkintoneユーザー事例 第82回

使う人のことを考え、とことんシステムをカスタマイズする21歳の新入社員

職人気質の会社の悩みをkintoneで解決するため新入社員が大奮闘

2020年06月29日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●大谷イビサ

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 4月16日に「kintone hive fukuoka vol.5」が福岡で開催された。kintoneのユーザーによる事例紹介や活用事例を発表するイベントだが、新型コロナウイルスの影響によりオンラインでの開催となった。今回は、その中から「歩く前に走る 開発をとにかくやってみる」というテーマでオカザキの岡崎光輝氏のプレゼンをレポートする。1999年生まれということで、最年少でのkintone hive登壇となるそう。

オカザキ 岡崎光輝氏

100年企業でkintoneの立ち上げを担当

 オカザキは、岡崎光輝氏の高祖父から102年続いている会社。創立は大正8年で、設立は昭和24年。現在の社長は岡崎光輝氏である父の岡崎大輔氏で、94名の従業員を抱えている。業務としては、空調や換気、排煙ダクトの設計、施工を行なっている。ダクトとは建物の中の空気をきれいに保つために、空気を送るための道の役割をしているもの。施工実績としては、博多の駅ビルや、昨年オープンした熊本の国内最大級のバスターミナルを持つ熊本桜町などがある。現在はヤフオクドームのビルを手掛けているとのこと。

 大まかな業務としては、製造部で材料の鉄板から必要な形に切り分けて、組み立てられるように仕様通りに加工して現場に送る。工事部では送られてきたダクトを搬入して、取り付けをする段取りを行い、天井の裏に取り付けるという流れになっている。

ダクトを取り付ける際の業務フロー

「2018年の語学留学から帰国した私に、祖父から入社の誘いがありました。新しくkintoneを導入するので、そのスタートアップの担当というものでした。これが、kintoneとの出会いです」(岡崎氏)

余計な説明なしで使えることに集中

 業務改善の課題は複数あったが、入社したての岡崎氏にとっては難しかった。そこで、サイボウズのパートナーであるキャップドゥの支援のもと、kintoneを導入することになった。大きな課題としては、製造部から工事部へ運搬するトラックの配車管理、ダクトの制作管理、資材の出庫関係の3つが挙げられていた。しかし、いきなりkintoneを導入すると、従業員は拒否反応を起こす可能性もある。

「弊社は職人業でもあり、従業員には比較的、年配の方が多いです。そうでなくても、スマホの操作が苦手な人が多く、kintoneを導入する壁が高い人が大多数でした。救いだったのは、スマホの所持率が高かったことです」(岡崎氏)

 同社の環境ではアプリ版のカスタマイズが一部効かなかったため、スマホでもPC版を試用しているという。そのため、まずは部会で講義形式で説明を行なったそう。しかし、あえて時間をかけて説明しなかったというのが変わっている。

「業務改善をしていこうとするわれわれは、kintoneの仕組みを理解していますが、従業員のような利用するだけのユーザーからすると、余計な説明とか、今まで自分になかった言葉を強要されると、嫌悪感が出てきて、導入もスムーズに行かないかなと考えからです」(岡崎氏)

 あえて全部を理解させようとせず、使えるようにするということに集中したのだ。シンプルに使えるようにすることに加え、見た目を綺麗にして楽しく操作できるようにも心がけた。ポータル画面にはアプリのショートカットを並べ、手軽に利用できるようにしている。背景には、季節ごとに異なる画像を表示しているそう。クリスマスや正月などにもテーマに合った写真に変える工夫をしているとのこと。

 さらに、アプリを導入する際にはテスト期間を設けるという作戦も立てた。開発は岡崎氏が行なうのだが、完了したら従業員に公開し、どこが使いにくいかといった感想をもらって、その都度作り直すという。そうすることで、最終的に従業員でも使えるアプリが完成するというわけだ。

重要なのは自分のコピー人間を数名作ること

 一番重要なのは、「自分のコピー人間を数名作るということ」と岡崎氏。自分の次の第2のkintone布教者を社内に作るこことで、何回も部会を開いて集まるという無駄な時間を避けられるようになる。

「意外と盲点なのが、開発側が欲しいと思ったり改善しようと思って作ったアプリが、クリック数が多すぎるなど、実際に使うユーザーにとって不便を作り出してしまうことがあることです。開発前に、ユーザーにプラスアルファでメリットがあるかどうかを考えることが必要です」(岡崎氏)

 トラックの配車管理では、現場に出ている社員から、搬入に関する電話の回数が多いという課題があった。事務所にしか、配車を管理するホワイトボードがなかったからだ。しかも、伝票がただぶら下がっているだけという状態だったので、情報の連携がとても大変だったそう。

 そこで、週間ごとの一覧を表示するアプリを作成した。カスタマイズビューで表示する情報量を増やし、そこからデータの詳細に飛べるようにしている。変更がある場合はコメント機能を利用し、連絡できるので電話の回数を減らすことができた。

カスタマイズビューのレコード一覧で、配車の状況を把握できるようにした

 従来、ダクトの製作管理では、各工程の状況を、午後3時のミーティングの前に、段取り責任者が確認していた。エクセルで数量を管理して、どれくらい手間がかかるのかを予想し、残業時間を設定していたのだ。作業場にいる従業員が工程を見るときは、直接他の工程の担当に聞きに行かなければならないといった課題もあった。

 そこで、製造する製品の本数情報や仕様などを細かく記録するアプリを製作した。納期や制作順に並び変えられるようになり、効率がアップ。ただし、簡単に編集できてしまうので、誤入力による段取り工数がずれることが予想されたという。そこで、QRコードを発行し、製作指示書に印刷。それをQRコードリーダーで読み込むことで、直接kintoneのデータを更新し、誤操作を防止できるようにした。

ダクトの製作管理アプリを開発。状況を手軽に確認できるようにした

情報を間違えて編集しないように、QRコードを読み込むことでデータを更新するような仕組みにした

マスタアプリからルックアップするデータを選択するカスタマイズ

 3つ目は資材の出庫について。以前は、出庫する際に紙の伝票を使っており、あとでまとめて、原価システムに手入力していたそう。そこで、kintoneアプリ化して手入力からCSVファイルでの読み込みに切り替えるため、マスタアプリから資材の情報をルックアップで引っ張ってくる処理アプリを開発した。

 しかし、資材をルックアップするとなんと892件もの候補が出てきてしまった。名前が同じでも規格が異なる資材が多いためだ。マスタデータが多すぎるという課題が出て、カテゴリーを分けるプラグインなども検討したそう。しかし、何度もクリックする必要があるので却下。そこで岡崎氏が考えたのが、マスタアプリでデータを選択することだ。

「ショッピングサイトの買い物カートのように、マスタアプリからデータを選択するようにカスタマイズしました。一覧画面からカテゴリで絞り込み、データの詳細から選択することで、数量が入っていきます。最後にルックアップするアプリに自動で飛びます。すると、そこにはすでにルックアップで情報が入っているのです。このように、kintoneの知識がない人やルックアップが使いづらい、という人でも使えるようにカスタマイズしました」(岡崎氏)

マスタアプリ上からルックアップするデータを選択するカスタマイズを実装した

 今後は、実績の可視化にチャレンジするという。制作管理などの数値が溜まっているので、稼働率を自動で計算したいそうだ。加えて、社員とkintoneの距離をもっと縮めたいそう。今は岡崎氏が1人で開発しているが、すべての業務を網羅できるわけではない。第2、第3のkintone布教者を育て、各部署で必要な仕事をkintone化してもらいたいと思っているとのこと。

「業務を引き継げるように、社内用プラグインも開発していきたいと思っています。実際に、資材のカート選択式のプラグインも開発できたので、サポートしていただいているキャップドゥさんで販売しようかとも考えています」と岡崎氏は新しいビジネス構想についても語ってくれた。

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