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6000超の保育現場に導入 社会のインフラとして課題解決を目指す「スマート保育園」サービス

ユニファ株式会社 代表取締役CEO 土岐 泰之氏 インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンクhttps://ipbase.go.jp/)に掲載されている記事の転載です。


 ITやAIの活用で保育現場の課題を解決する「ルクミー」サービスを展開するユニファ株式会社。6000施設以上に「ルクミー午睡チェック」や「ルクミーフォト」といったサービスを提供し、複数のサービスを統合した次世代保育園「スマート保育園」の社会実装を推進している。社会インフラとしてサービスを維持していくため、2019年より法務体制を強化。ユニファ代表取締役CEOの土岐 泰之氏と同社 法務課 課長の山本 智晴弁護士に知財戦略への取り組みを伺った。

ユニファ株式会社 代表取締役CEO 土岐 泰之氏
2003年 九州大学卒業後、住友商事に入社。リテール・ネット領域におけるスタートアップへの投資及び事業開発支援に従事。その後、ローランドベルガー、デロイトトーマツコンサルティングを経て、2013年にユニファ株式会社を創業。2017年には第1回スタートアップ・ワールドカップの世界大会で優勝。

保育園の「社会インフラ化」に取り組むユニファ

 昨今、待機児童問題や保育士不足が深刻化するなかで、保育の現場でも働き方改革が求められている。ユニファは、ITやAIなどのテクノロジーをを活用することで保育士の負担軽減と保育の質を向上する「スマート保育園」の実現を目指すスタートアップだ。

 保育園向けに、園内の子どもの写真や動画をオンラインで購入できる「ルクミーフォト」を皮切りに、乳幼児のお昼寝を見守る「ルクミー午睡チェック」、検温と記録が数秒でできる非接触体温計「ルクミー体温計」などのサービスを提供しており、全国の保育園およそ6250施設が導入済みだ(2019年8月時点)。

 2013年の創業後、ユニファが最初に手掛けた「ルクミーフォト」は、写真撮影と販売作業を自動化するサービスだった。園内の日常写真を撮影するデバイスと、オンライン販売サービスを組み合わせたもので、保育士による撮影や販売の手間が省ける。また、独自の顔認識技術で我が子が写っている写真が自動的に上位表示されるので、保護者も購入しやすい。現在は、撮影した画像データを用いて、ひとりひとりの子どもの行動特性を解析して教育へ活用する研究にも取り組んでいるという。

 保育園における写真撮影、選別、販売といった従事者の手間を省力化する部分から始まった形だが、そもそも土岐氏の目線は、保育という社会を支えるインフラ自体の社会課題を解決するところにあったという。

「ルクミーフォト」をきっかけに、実際の園における課題を解決させる形でサービスを推進させていった。例えば保育施設では、乳幼児の午睡(お昼寝)中の死亡事故を防ぐため、5分おきの目視チェックと記録が業務の中に入っている。また、毎朝登園時には園児の体温を測定して記録している施設が多い。複数の園児の世話をしながら頻繁に全員の睡眠状況や健康状態をチェックし、手書きで記録を続けていくのは大きな負担となる。 

 そのようなニーズに対して開発された、お昼寝中の園児の体の向きや体動を5分おきにチェックする「ルクミー午睡チェック」や体温を数秒で測れる「ルクミー体温計」で計測したデータは、タブレットに転送されて自動記録されるので、保育士の手書き入力が不要になる。さらに、蓄積された検温と体動データを解析して、子どもの体調変化を事前予測する機能を開発中だ。

 体動センサーや非接触体温計、自動撮影カメラといったプロダクト自体は、さほど珍しくはなく、体温計やカメラ、写真サービスは大手とも競合する。にもかかわらず、スタートアップのユニファが6000施設を超える保育現場に受け入れられた理由はどこにあるのだろうか。

「プロダクト自体に価値があるかどうかがすべてです。ブランディングをしても価値がないものは使ってくれません。例えば、5分おきの午睡チェックは保育士さんたちの心理的な負担があった。IoTでダブルチェックをすることで、先生方の負担を一部でも取り除けたのが大きかったと思います」(土岐氏)

 導入しやすさもポイントだ。センサーや体温計に園児の名前ラベルを貼り、SIMカード入りのタブレットを用意しているため、Wi-Fi環境の整備や設定の手間がなく、すぐに使える状態で提供しているそうだ。

 ユニファでは、これらのサービスをトータルで導入した次世代型保育園「スマート保育園」を推進するため、2019年9月には埼玉県と連携してモデル実証実験を実施。現在は本格始動に向け全国でモデル園を募集中で、すでに全国100以上の施設から応募があったそうだ。

「スマート保育園の導入により、保育士の業務負荷や心理的な負担が軽減され、実際に保育士不足の解消に繋がるのかが重要です。自治体や研究機関、大手企業とも連携しながら導入を進めていきます」と土岐氏。

 今後は、一般家庭向けへの体動センサーの販売などのサービスへと展開していく計画だ。

社会インフラとしての責任を果たすには知財を守る必要がある

 特許や商標など、土岐氏が知財を意識し始めたのは、創業から2年ほどたった頃だった。2015年にロボットによる写真撮影システム「MEEBO(ミーボ)」(販売はすでに終了)を企画し、ロボットの写真撮影システムと画像管理についての特許を出願している。

「知財戦略が必要になるタイミングがくるとは考えていましたが、創業期は資金繰りや売り上げに追われて知財について考える余裕がなかったのが正直なところです。2015年頃から競合が増えてきて、ようやく動き始めた形です」(土岐氏)

 2017年には午睡チェックに関する特許を出願。ただし、当時のユニファは法務部門がなく、外部の特許事務所と相談しながら特許を管理していたそうだ。

 2019年には本格的に知財戦略に取り組むため、法務体制を強化。きっかけは、サービスが6000施設以上に導入され、いよいよ社会インフラ化が見えてきたことだ。

「社会インフラとなると責任が増してきています。単純な民間のビジネスではなく、公的なサービスに近づいてきたため、技術をしっかり権利化して守っていく必要性が出てきました」

 ユニファとしては上場準備を進めているタイミングでもあり、バランス感覚を持って戦略的に意思決定ができる人材を求めていた。企業法務に関する弁護士としての経験が豊富で、かつ子育て中の女性で保育園に対する理解がある人物を探したところ、条件にぴったりだったのが弁護士の山本智晴氏だった。

 山本氏は、国内の大手法律事務所に勤務後、ニューヨーク州の司法試験に合格し、ロンドンのローファームに勤務、という華やかなキャリアの持ち主だ。しかし、帰国後に2人の子供を出産、仕事と子育ての両立の難しさから2年間の育児休暇後に退職することに。当面の復帰は考えていなかったところ、知人からユニファを紹介されたという。

「まだ子供が小さくフルタイムでは働けないので職探しはしていませんでした。週3.5日、仕事は持ち帰らない形であれば、とお話ししたら、むしろ育児をしながら仕事をしていくことに心から共感してくださって。ここでなら働きたいと思い、入社を決意しました」(山本氏)

 入社後、山本氏が知財を見直したところ、商標に出願漏れがあることが発覚した。「一昨年、『ルクミー』ブランドがひらがなからカタカナ表記に変わったのに、カタカナの『ルクミー』が登録されていないことが判明して、急いで出願しました」(山本氏)

 また「スマート保育園」は同社が商標登録済みだが、最近はメディアへの露出が増えたこともあり、一般名称化のように使われてしまう恐れがある。

「ユニファの考えている『スマート保育園』はトータルなもの。単純にITを導入しただけの保育園も『スマート保育園』と呼ばれるようになると意味が変わってしまう。『スマート保育園』が登録商標であることをアピールするため、🄬表記の徹底を社内に周知しているところです」(山本氏)

 今後は、幼稚園やこども園にもサービスを展開していく計画で、「スマート幼稚園」、「スマートこども園」の商標も昨年9月に出願し、「スマート保育園」のブランディングを進めていくという。

 ちなみに午睡チェックサービスだけでも競合が数社あるが、同サービスに関連する特許を取っているのはユニファ1社だけだ。同社が特許戦略に力を入れる理由は、保育園を社会インフラにしていく決意の表れでもある。

「社会インフラは安定的・永続的にサービスを提供するもので、突然ストップすることは絶対にあってはいけません。仮に他社の特許を侵害して差し止め請求をされると、責任が果たせなくなります。他社の模倣を防ぐというよりも、まずはユニファが安定的にサービスを提供するために特許を押さえています」(土岐氏)

 午睡チェックサービスのほか、保育士のシフト自動作成サービス「ルクミーシフト管理」の特許も昨年11月に出願、その他にも新しい未発表の複数のサービスに関する特許も出願済み及び今後出願予定とのことだ。

職務発明審査会、報奨制度など特許の管理体制を整備

 さらに山本氏は、社内の特許の管理体制の整備を進めている。

「これまでは現場の温度感で特許出願すべきものができていなかったり、小さな技術が出願されていたり、とばらつきがありました。統一的に特許を管理していくため、社内に職務発明審査会を組成し、報奨金制度も設けています」(山本氏)

 現在、特許を出願する際は、社内の職務発明審査会で発明者がプレゼンして、開発費用、出願費用、当該特許を製品化したサービスの社内における重要性、販売期間、競合他社が類似サービスの提供を欲するか等の諸要素を協議したうえで、特許出願するか否かを決定する形をとっているとのこと。

「これまで知財に関しては行き当たりばったりで、基本戦略が明確でありませんでした。山本が入ってからは、戦略に関わる部分が少しずつ動き始めている。知財戦略が仕組み化され、判断がしやすくなったのは、ものすごく大きなことだったと思います」と土岐氏。

 子どもの健やかな成長を望むマーケットは世界中にある。将来的には、「スマートチャイルドケア」として世界へ展開していく計画だ。進出先が確定次第、海外の特許も押さえていくとのこと。

 最後に、これから知財戦略に取り組むスタートアップへのアドバイスを土岐氏に伺った。

「特許や商標は目的というよりも手段。ユニファは社会インフラをつくるという目標に対してどのように活用していくかを考えています。まずは目標を定めて、どのように戦略的に活用していくのかという視点を持つこと。目標の先には、競争が待っています。その戦いのなかでも特許や商標は戦略的に使えるので、リスクを含めていったん検討し、状況に応じて手を打っていくべきでしょう。ただし経営者ひとりでは難しいので、経営者、法務担当者、R&Dやプロダクトの責任者と一体となって、権利を守り、拡張していくことが大事だと思います」

 

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