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完全ワイヤレスイヤホンの投入も間近、来日したCEOに聞く

あなただけの「正確な音」を、ヘッドホンのパーソナライズに取り組むAudiodo

2020年02月23日 19時30分更新

文● ASCII

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来日したAudiodoのCEO・Jenny Stromberg 氏(右)と、セールス担当のバイスプレジデント・Tord・Nyblues氏(左)

 「パーソナル・サウンド」を標榜する、スウェーデンの企業、AudiodoのCEO・ジェニー・ストーンバーグ氏が来日。2月18日にメディア関係者の質問に答えた。

 Audiodoは、2015年の設立。人によって異なる聴力に合わせて、適切な音楽の再生ができるパーソナライズ技術に力を入れている企業だ。ソニーエリクソンなどで経験を積んだ技術者が参加しており、数十年に渡る研究の成果が盛り込まれている。

Crusher ANC

 昨年9月には、米Skullcandyのヘッドホン「Crusher ANC」に同社の技術が採用され、話題を集めた。また、詳細は明らかになっていないが、ほかのブランドとの調整も進めており、同社の技術を採用した完全ワイヤレスイヤホンが近く市場投入される計画もあるようだ。

個人の耳にあった音は、オーディオ業界の次のトピック

 パーソナライズは、ヘッドホン/イヤホン分野で少しずつホットになりつつある領域だ。

 人間の耳には個人差があり、年代によって聞こえる周波数帯域に差が出てくることもよく知られている。パーソナライズ技術はこうした聴力の個人差に配慮し、それぞれにあった適切な再生音を出す点に主眼を置いている。最近では、アップルが「AirPods Pro」に“アダプティブイコライゼーション”という機能を付けたが、これも人によって異なる耳穴の形状に配慮し、適切な音を届けようとする試みのひとつである。

AirPods Pro

 パーソナライズという言葉が示す範囲は広く、様々なアプローチがある。例えば、耳型を取って、ピッタリと合うイヤホンの形状を作るカスタムイヤホンや、好みの音にするため周波数特性を調整できるイコライジングも広義で言えば、パーソナライズだ。

 とはいえ、現在主流になっているのは、スマホアプリなどで音声のテスト信号を再生し、聞こえにくい周波数がないかを調べ、その結果をヘッドホンの再生音に反映する(聞こえにくい周波数帯の音を大きくする)というものだ。日本市場向けにも、NuhearaやNuraphoneといったブランドの製品が投入されている。

脳の認識に最適化したアルゴリズムを提供

 Audiodoの技術もこれらに似ているが、目的や精度を上げるためのアプローチに違いがある。市場に出ている製品の多くは、加齢などで高域などが聞き取りにくくなった人をターゲットに聞こえない部分を補うのが目的だ。一方、Audiodoは耳の聞こえに特に支障がない人でも、再生音を微調整することで、音源が持っている情報(ディティール)をより的確に伝える点に主眼を置いている。つまり、音楽ファンにプレミアムな音楽体験を提供することを意図した技術なのだ。

 また、アルゴリズムについても単純なイコライジング調整ではなく、こういう音が鳴れば、より人が認識しやすくなるという脳科学の成果(測定結果と脳の認識の関係性)を反映したものになっているそうだ。Audiodoによると、聞こえにくい周波数帯を持ち上げ、単純に同じ音量に揃えるだけでは、脳が適切に認識できず、かえって音が悪く感じるのだという。また、補聴器などよく用いられる、ダイナミックレンジ圧縮(コンプレッション処理)なども用いていない。

 細かな内容については、企業秘密ということで公開していないが、他社にまねされたくないという意図から、特許申請すらしていないという徹底ぶりだ。

 人間の耳の形状は、同じ人でも左右で異なる。これと同様に特性についても異なっている。それでも周囲の音やその位置関係がバランスよく聴こえるのは、耳の特性を加味して、脳が補正しているためだ。逆に言うと、この脳の負担を減らせば、より一層、音楽の細かな情報が認識できるはずという考え方なのだろう。

一度フィルターを書き込めば、プレーヤーを替えてもOK

 Audiodoは、自社で製品を開発することはいまのところしておらず、自社で開発したソフトウェア技術を、ソースコードではなくオブジェクトコードの形で、ヘッドホンメーカーに技術供与するモデルを取っている。搭載製品には“audiodo PERSONAL SOUND”のロゴを付与し、ヘッドホンメーカーとともに付加価値を持った製品であると訴求していく。

Crusher ANC用のアプリを使った測定の結果

 その技術は現状では、Bluetoothヘッドホン用に特化している。有線モデルに向けた技術の開発は予定していない。

 理由はBluetoothチップで受信した信号に対して、専用のアルゴリズムでリアルタイムにフィルターを適用し、最適化(補正)した再生をする必要があるためだ。また、ファームウェアを書き換えて、BluetoothチップのDSP処理をカスタマイズする必要があるため、利用できるBluetoothチップも、書き換え可能なフラッシュメモリーを持った、クアルコムやアイロハの高級クラスの製品のみになるという。ソフトウェア処理であれば、スマートフォンやハイレゾプレーヤーの再生アプリで処理を走らせることもできそうだが、負荷の関係で難しいとのことだ。

 ただし、ヘッドホン側で最適化の処理をする利点もある。それは一度パーソナライズしてファームウェアに記録してしまえば、接続するプレーヤーを問わず、パーソナライズの結果が反映される点だ。

AirPods Proで市場の認知が上がってきたが……

 補正の際には、あらかじめ計測しておいた、6つの帯域の聞こえ具合を考慮し、滑らかな周波数特性のカーブを作る。この際、左右の耳に対して、別々のカーブが作られる点も特徴だ。このカーブについては、上述したように、単に人の声を聞きやすくするためだけでなく、より広帯域な音楽再生を想定したものとなっている。使い始める際に必要な、テストトーンを使った計測も、かなり小さな音の聴こえまでチェックするようになっており、高精度にこだわった技術であるのがうかがえる。

 パーソナライズのためのテストはかなり静かな環境で実施する必要があり、自動で音の調整が実施されるアップルのAirPods Proなどと比べて煩雑に感じる面もあるが、より精度の高い計測のためには必要なのだそうだ。

 ストーンバーグCEOは、パーソナライズを認知し、市場を広げるという意味で、AirPods Proの存在は歓迎すべき存在だが、あくまでも耳穴の形だけをとらえる技術であり、脳の理解にまで踏み込み、長年のパーソナルサウンドに対する研究を積み重ねたAudiodoの技術には優位性があるとした。

まずは300ドル以上のプレミアム市場から

 すでに述べたように、使用するBluetoothチップはやや高コストのものとなる。また、メーカー側としても、パーソナルサウンドという付加価値を加えた製品への搭載が主流になると考えられる。Audiodoのパーソナルサウンド対応機種は、冒頭で書いた完全ワイヤレスイヤホンを含め、当面プレミアム価格帯の製品が中心になりそうだ。例えば、スカルキャンディーの「Crusher ANC」も4万円弱で販売されている製品である。

 Audiodoとしては、今後は技術の精度を高めるとともに、スピーカーやゲーミング、スポーツ、そしてカーエンタテインメントなど、さまざまな分野への応用を期待しているのこと。来日の目的は、日本メーカーへの技術PRで、徐々に関心を持ってもらう機会が増えている感触もあるそうなので、将来的には、国内ブランドから搭載製品が登場するかもしれない。

 ストーンバーグCEOは、Crusher ANCを手にした日本のユーザーが掲示板に書き込んだ「世界でたったひとつのヘッドホンが手に入った」という言葉に感銘を受けたそうだ。人によって異なる「聞こえ方」に注目して“脳の理解”にまで踏みこみ、「ヘッドホンをあなたのためのものにする」ことを目指したAudiodoが、プレミアムヘッドホンの市場でどのように評価されるかは注視したい。

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