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心臓外科手術を成功させたのは「執念」と「覚悟」だった

DX後発だったファミリーマートが挑んだ「ファミペイ」立ち上げの舞台裏

2020年02月20日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2020年2月19日、ビッグデータ分析やデジタルマーケティングを手がけるブレインパッドはプライベートイベント「DOORS -BrainPad DX Conference-」を開催。冒頭、DXの事例としてファミリーマートの植野大輔氏が登壇し、DX戦略とその一合目と位置づける「ファミペイ」の立ち上げについてユーモアを交えて聴衆に説明した。

ファミリーマート シニアオフィサー 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野大輔氏

DXは心臓外科手術 やらないと余命は3年

 冒頭、植野氏は「実行している企業が6割」という調査結果にもかかわらず、DXの成功例として日本企業が挙がらないという「ギャップ」について指摘。「デジタルばかりに焦点が当たり、『トランスフォーメーション』について理解をしていないのではないか?」と疑問を投げかけた。

 植野氏の前職のコンサルティング企業では、トランスフォーメーションに関して明確な定義があった。まずはコスト削減で原資を生み出し、未来のビジネスに投資する。そして、これを実現できる新しい組織を時間をかけて構築するという3つだ。この3つに対して、デジタルを適切なタイミングでぶつけていくのが、植野氏にとってのデジタルトランスフォーメーションの定義だという。

 DXは今の日本企業においては待ったなしだ。「DXは外科手術のようなもの。やらないと余命は3年だし、術中に3割は戻ってこないかもしれない。なので、覚悟と執念が必要」と植野氏は指摘。そしてファミリーマートのDXは、まさにそんな外科手術だった。アプリの会員数やTwitterのフォロー数など大きく競合に水を明けられ、あきらかに後発だったファミリーマート。しかし、「うちもデジタルだ」と自ら新聞紙面に出たトップの号令を受け、DXの基盤となる「ファミペイ」のシステムは、たった8ヶ月でオープンまでこぎつけたという。

後発のファミペイが目指したのはお財布レス

 植野氏はDXにおいて重要なメンバーによって、まずはデジタル戦略室を組織化。社内の人材だけではDXは難しいため、特定分野に長けた外部人材を1本吊りで招聘した。時間単位での顧問契約により、DX戦略の設計・立案に必要な”ドリームチーム”が実現したという。

 こうして生まれたファミリーマートのDX戦略は、従来から手がけてきたTポイントにこだわらず、dポイントや楽天ポイントにまで開かれたオープン戦略を掲げた。その上で、決済・サービス基盤であるファミペイは自ら構築し、収集したビッグデータを元に新たに広告と金融という2つの新規事業を生んでいくというものだった。植野氏は、年間132回(!)の全国行脚や動画ニュースなどのインナーマーケティングを繰り返し、アルバイトのメンバーにまでDXの必要性や戦略を説明したという。

 DXの最初の施策であるファミペイで目指したのは、「キャッシュレス」ではなく「お財布レス」だった。「FamiPay」による決済機能が中心ではあるが、ポイントカード、クーポン、スタンプ、回数券などをお財布にあるものを、すべて1つのバーコードで実現できることを目指した。いわゆる板(カード)は採用せず、スマホアプリの統一したのも大きな特徴だ。

 開発期間はきわめて短かったが、商品マスターなどのDBとの連携が必要になるため、ウォーターフォール型での開発になった。「アプリのフォントの大きさも、最初の仕様で決めなければならなかったので、パワポで作ってスマホの画面で確認しました(笑)。POCやアジャイル開発できるところは、うらやましい」と植野氏は会場の笑いを誘った。

 完全にゼロリセットのスタートということで、ファミペイ開始に向けた鼻息は荒かった。大盤振る舞いの88億円を投入したキャンペーンを張り、くまのゆるキャラ「ファミッペ」も作った。また、ファミマの顔として定着しつつある香取慎吾のCMやYouTuberとして有名なはじめ社長の動画広告まで仕込んだ。もちろん、1万6500ものリアル店舗では、のぼりや広告をジャックし、「トイレにまでQRコードを貼った」(植野氏)という。そして、社長のオーダーで紙のチラシも作り、QRコードでアプリをダウンロードできるようにした。

総力戦で挑んだ初日は通信障害 半年後の結果は?

 まさに総力戦で挑んだ2019年7月1日のオープンだったが、アクセス集中により通信障害が発生し、サービスにアクセスできないというほろ苦いスタートとなった。もちろん、SNSは炎上。コールセンターには苦情が殺到し、現場からは続けるのか、いったん止めるのかの判断を迫られた。しかし、サービスの継続を決断。システム部門の努力の結果、数日でサービスは復旧し、リリースから1日で161万ダウンロードを達成した。

 初日の通信障害に加え、店頭での現金チャージしかなかった点も揶揄されたが、植野氏は意に介さない。「店に来てもらい、まずはアプリをダウンロードしてもらい、クーポンやポイントについて説明して、現金チャージしてもらう。5回くらいかけて、ようやく現金チャージ。ここまで丁寧に対面サポートできるリアル店舗の強み」と語る。

 キャッシュレス・スマホ決済が乱立する中、「17番目のペイ」と後発だったファミペイ。しかし、2019年10月時点でのダウンロード数は370万を突破し、名だたる競合を抑えて「アプリ オブ・ザ・イヤー 優秀賞」(フラー)も受賞した。最後、植野氏は、「DXの1合目くらいは行けたのではないか。結局、心臓外科手術を受ける覚悟と執念がよかった」とまとめた。

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