評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。12月に聞きたい優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
2019年の掉尾を飾る素晴らしいハイレゾ作品だ。チェンバロ:桒形亜樹子、録音:深田晃による録音。フランス・コルマールの美術館収蔵のチェンバロを弾く、だ。深田氏の個人レーベルdream window Treeの第3弾作品だが、これまでの第1弾「メディテイション~フローベルガーの眼差し~」、第2弾「J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻BWV846-869」の2作も桒形亜樹子のチェンバロ録音だ。いかに名匠、深田が桒形亜樹子に傾倒しているかが分かろう。今回はクラウド・ファンディングを使い、フランスのウンターリンデン美術館で収録。チェンバロは、1624年アントワープ、ヨハネス・ルッカース製作による2段鍵盤。カナダ製の新弦を張った伝統と現代が融合した銘器だ。「張り替えて数年、馴染んでいい音がする」と、桒形亜樹子が言った。
深田録音は、以前の『passage パッセージ - ショパン: ピアノ・ソナタ第3番』(藤田真央)の時も感心した。「過剰にホールトーンが入り込まないのも、明瞭さを意識した深田録音の美技」と、そのインプレッションに書いたが、本作も圧倒的なクオリティだ。豪奢で、華麗なチェンバロサウンド。素晴らしい音色とソノリティだ。一般的なかぼそく、繊細というイメージではまったくなく、ゴージャスでリッチ、剛直だ。
音色のカラフルさにも驚く。会場の響きがとてもきれい。響きは深いのだが、ひじょうに透明で、音の粒子があちこちに反射しながら伝播していく様子が高解像で、目に見えるよう。深田録音はいくら響きが多くても、楽器の音を実にクリヤーなのが特徴だが、まさにその美質が最大限に発揮されている。DXD(352.8kHz/24bit)の音もたいへん情報量が多い。カナダ新弦の音も豪華で繊細。彩度感が高い。
「深田さんは会場に入ると、まわりを見て、すぐにマイクを配置されるのです。普通は手を叩いて会場の響きの具合をチェックするものですが、深田さんは何もしないで、会場を一瞥するだけで、会場の響きの様子がすべておわかりなるのです。感心しました」と、桒形亜樹子が言っていた。2019年6月10~14日フランス、オー=ラン県首都コルマール市ウンターリンデン美術館で録音。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:352.8kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit
dream window Tree、e-onkyo music
『アコースティック・ウェザー・リポート2』
クリヤ・マコト/納浩一/則竹裕之
2016年11月のファーストアルバム、「アコースティック・ウェザー・リポート」に続く第2弾。「編集なしのDSD録音」がセールスポイントだ。DSDは編集不可能。ならば、それを逆手に取って、間違えなど発生しようがない実力ジャズメン3人の完璧な演奏を録音すれば、アナログのダイレクトカッティングと同様の音楽的、音響的鮮度が得られる。これはうちのUAレコード合同会社と基本的に同じ考え方だ。
確かに「無編集DSD2chダイレクト・レコーディング」の威力は凄い。ピアノの音色はひじょうにフレッシュで剛性が高い。ドラムスもひとつひとつの構成要素がひじょうにクリヤーで、音が立つ。 ベースもリッチなスケールにて、弾力感、キレが抜群だ。3人のスリリングなインタープレイを、並外れたサウンドで堪能できるのは、まさにDSDの幸せだ。ボーナストラックのクリヤ作曲によるBS-TBSの報道番組のテーマ曲はサックス、トランペットの色気と力感、そして突きぬけ感が素晴らしい。2016年6月2日&13日 ソニー・ミュージックスタジオで録音。
DSF:2.8MHz/1bit
Sony Music Labels Inc.、e-onkyo music
『白鳥の歌 オーボエとギターのための作品集』
池田昭子, 福田進一
映画「マチネーの終わり」で注目の福田進一と、N響のオーボエ池田昭子の共演。
「フレーズの歌い口やアーティキュレーションの方向性が自然とあるべきところに落ち着き、やはりこの2つの楽器が共有する”木質の響き”が、それを深々と包み込む……。まさにこんな形容が似つかわしい演奏を聴かせる」との木幡一誠氏の解説が秀逸だ。たいへん美しい音だ。近接マイクにて直接音をしっかり収録したギターと、みなとみらい小ホールのソノリティを豊かに収録したオーボエの調べとのアンサンブルが素敵だ。楽器の持つ独特の音色、ニュアンス感が細大漏らさずに録られている。この並外れた美音は、マイスターミュージックのワン・アンド・オンリーの価値、デタリック・デ・ゲアールマイクのキャプチャリングによるところが大きいだろう。音楽が自然に空間から湧き上がるという雰囲気。選曲もいい。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit
マイスターミュージック、e-onkyo music
海外の物まねではなく、日本語を乗せるロックとして、日本語でどれだけオリジナリティを出すかにこだわった四人囃子。名盤「一触即発」発売から 45 周年を記念したリマスターアルバムだ。アナログマスターを96kHz/24biにデジタル変換した後に、マスタリング。四人囃子からりリクエストが「最新技術を使って今のサウンド」にして欲しい、だった。その結果が低音が立体的、高音がくっきり、しゃっきりとした音だ。「1.[hΛmaebeθ]」では効果音がひじょうに鮮烈、鮮明。「2.空と雲」では、楽器のひとつひとつが明瞭に見える。「3.おまつり(やっぱりおまつりのある街へ行ったら泣いてしまった)」のむせび泣くギターのセクシーさ、輪郭がしっかりと屹立するすがすがしさ、ドラムスの明瞭さ、ベースの緻密な音階感……どれも、45年前とは思えないフレッシュな音調だ。それほど昔にこの音楽性を作ったと思うと、確かに伝説の名バンドという声価も正しい。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
VICTOR STUDIO HD-Sound.、e-onkyo music
『イベール:フルート協奏曲 & ドビュッシー:交響詩「海」他』
工藤重典、パスカル・ロフェ、兵庫芸術文化センター管弦楽団
マイスターミュージックによる大編成録音だ。オーケストラ録音では、最近は世界的にホールトーンを豊かに収録するケースが多いが、イベール:フルート協奏曲 では、ホールトーン偏重ではなく、オーケストラとソロフルートがダイレクトに発するサウンドをそのまま素直に収録している。まさにかぶり付きで、眼前で聴いている雰囲気だ。会場の響きも含めた直接音+間接音の足し算がリアルだ。一方、ドビュッシー:交響詩「海」は、ホールのソノリティを豊富に採り入れている。ある距離を保ちながら、会場の後ろで響きを楽しんでいる風だ。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit
マイスターミュージック、e-onkyo music
二重に面白い。まず井上陽水の音楽活動50周年を記念したトリビュート・アルバムということ。トリビュートするのが、ステイタスが井上陽水と同じシンガーソングライターの15人(グループも)。切り口が斬新な企画だ。ユニバーサル・ミュージックに訊いたところ、すべて新録という。
「1.ヨルシカ・Make-up Shadow」は、疾走感に溢れ、進行力が強力だ。ヴォーカルもバックも輪郭が明瞭で、パワーも強い。「2.槇原敬之・夢の中へ」は、ラジオのチューニングズレの効果を狙っている。50秒まではアウトチューニング状態で、そこから、ノイズのないミックスになる。ヴォーカルが目立たなくほど、バックの音数が多い。ヴォーカルは豪奢なバンドの一員のようなポジションだ。「4.椎名林檎・ワインレッドの心」は、椎名的な気だるい表情がいい。バンドネオンとピアノのタンゴ編曲だ。音像も明瞭。音場の見渡しもよい。「5.宇多田ヒカル少年時代」はオンマイクで、プレスがクリヤー。バックは弦楽。「13.オルケスタ・デ・ラ・ルス ダンスはうまく踊れない」のラテン編曲は、まさにこの曲にジャストフィット。アーチストの多彩さと、その歌のバラエティさ、編曲の面白さが本アルバムの愉しみだ。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
2018年のメジャー・デビュー20周年を経て、取り組んだ通算14枚目のオリジナル・アルバム。48kHz/24bitというベーシックなパラメーターだが、ヴォーカルもバックも音がクリヤーに立ち、明瞭な輪郭を持つ。「2.killer tune kills me(feat. YonYon)」のベースのグルーブが気持ちよく、かなりリバーブが深いが、音調はクリヤーだ。都会的なサウンドのストリームが心地好い。
FLAC:48kHz/24bit、MQA:48kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
『ZINGARO!!![Hi-Res FULL version]』
尾池亜美、Ensemble FOVE
Ensemble FOVEはビル1棟で、ライブするアバンギャルドな音楽集団。ミュージシャンはステージ上に一堂に集まるのでなく、バラバラにインスタレーションし、それを観客は歩きながら聴くというユニークなライブだ。その主宰者、作曲家の坂東祐大(ばんどう・ゆうた)が設立した個人レーベル、FOVE Recordsの第1弾アルバムは、ジプシー音楽だ。ソロ・ヴァイオリンの尾池亜美はEnsemble FOVEのコンサートミストレス。「1.Lo Zingaro」はイントロダクション。「2.ツィゴイネルワイゼン」はまるでジプシー楽団のような粘っこさと、大向こうを意識した派手な弓使い。ポルタメントが鳴かせる。中間部のむせび泣くヴァイオリンがたいへんセクシーだ。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
FOVE Records、e-onkyo music
Days of Delightは岡本太郎記念館の館長の平野暁臣(ひらのあきおみ)氏のレーベル。本作はその岡本太郎のアトリエでサックスの土岐英史とピアノの片倉真由子の共演を録音した。 クリヤーで輪郭がくっきりするモダーンピアノと異なり、輪郭が丸く、しっとりと落ち着いた音色の古風なピアノと、音が太く、セクシーな輝きを持つサックスのデュオは、心地好い。クールに突っ走るのではなく、暖かく、円熟の味わいの音楽の対話が、親しく聴ける。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
デイズ オブ ディライト、e-onkyo music
『This Warm December, A Brushfire Holiday Vol. 3』
Various Artists
最近のサーフミュージックとはかつてのノリノリではなく、ゆったり系の音楽のことを、言うらしい。現代のサーフミュージックを代表するブラッシュファイアー・レコーズのクリスマスアルバム。音楽的な音調は、浜辺でハンモックの上でうとうとするイメージ。心地好く、南国の空気が流れていく。音が抜群によい。ヴォーカルもバックの楽器もひとつひとつがひじょうにクリヤーで、輪郭が明瞭だ。「1.New Axe」はまるで眼前でコーラスを聴いている雰囲気だ。
FLAC:44.1kHz/24bit、MQA:44.1kHz/24bit
Brushfire Records/Universal、e-onkyo music
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