普段は当たり前のように使っている電力などのインフラ。しかし、大規模な災害によって、気付かずに受けていた恩恵を改めて感じる場合がある。一方、その維持には多くの物理的・人的なコストが必要だ。社会インフラにかかるコストは、事業者任せにするのではなく、使う人それぞれが意見を持ち、最適解を探していく必要がある。
米国ではサイバー攻撃対策として、人の持つ知識や、技術的なノウハウの共有を進めるための相互支援も進んでいるが、これを災害・テロ対策と絡めて議論する機会が増えているという。
自然災害の多い日本で、社会のインフラづくりにどう取り組むべきか? マカフィー サイバー戦略室の佐々木弘志シニアセキュリティアドバイザーを取材した。
災害大国の日本では、インフラの冗長化がこれまで以上に重要になる
── 2019年は、大型の台風が首都圏を襲い、様々な被害をもたらしました。千葉県では長期間にわたって停電が続き、災害時のインフラについて改めて考えさせられる機会になったように思います。
佐々木 「『災害が起これば、重要インフラに支障が出る可能性がある』ことを強く感じさせる出来事だったと思います。重要インフラとして思いつくものには、電力・通信・水道などが挙げられますが、特にITの分野で重要なのが電力と通信だと思います」
── このようなインフラを守るために社会や消費者はどのような意識を持つべきでしょうか。
佐々木 「インフラを守るのであれば、まず純粋に冗長化をすべきです。例えば、電力事業者は有線のバックアップ回線に加え、マイクロ波無線を利用した回線を用意するといった多重の冗長化をしているので、仮に有線の通信が通っている鉄塔や電柱が倒れてしまっても、遠隔制御によって対策を取ることが可能です。また、一般のデータセンター・クラウドではデータを異なる地域に複数のデータを分散・冗長化を行って管理をしています。そうすれば、ひとつのデータセンターがダウンしてもデータを復旧することができます。
先日、NTTグループの発表(交換機を撤去することで、全国の局舎で余ったスペースに蓄電池を常備し、災害が発生した際、病院や工場に供給する取り組みを、2020年度から実施するという発表)がありましたが、これも電力供給の冗長性を増やしていく有効な取り組みと言えます」
── 5GやIoTによって通信が世の中にあまねく行き渡ります。こういった回線を活用する手段はないでしょうか。
佐々木 「IoTの分野では“ナローバンドIoT”といって、低速だけれどローコストな通信規格が注目されるようになってきました。こうした回線が、災害時に寄与するかどうかは、現時点では分かりません。しかし、5GやナローバンドIoTの導入が進み、様々な機器がネットワークにつながれば、その中で生きたものを利用し、『代替の通信手段に使う』といったインフラの転用も可能になるかもしれません。いずれにしても、サービス維持の確率を上げるためには、なるべく多くの手段を持つことが大切です。重要インフラになればなるほど、その備えが必要になります」