辞書はお守り
坂倉:今回の『角川新字源 改訂新版』はもちろん紙の辞書が元になっているわけですが、電子版の辞書の利点について、廣瀬さんはどう考えていますか? たとえば紙と比較して。
廣瀬:電子版の辞書にもいろいろありますが、「いつでも、誰でも、お気軽に」という点で、お守りみたいなものだと考えています。いつでも買えるし、重さもない。必要に応じて改良(アップデート)もできます。データさえあれば音声も聞けるし、動画も見られるという、マルチメディア的な機能があったりもする。その点では便利ですよね。
検索方法についても、本と同じ定番の検索はもちろん、たとえば漢和辞典は部首や画数、読みなどいろいろな方法で検索できますが、それに加えてピンイン(※02)や熟語で検索したり、手書き検索したりすることも可能です。データで実現できる検索方法はとりあえず何でもやってみようと思っています。アイデアがあればぜひお願いします。
※02 普通の国語辞典は五十音順、英和辞典はアルファベット順で検索できますが、漢和辞典はその漢字が読めないということを前提に、部首から探したり、総画数で検索したりする機能が充実しています。『角川新字源 改訂新版』では現代中国語での読み方をピンイン(拼音)で掲示していて、アプリではそれも検索手段として用意されたということです! 中国語学習者にもおすすめ!
坂倉:ちなみに、漢和辞典ごとの個性を感じたことはありますか?
廣瀬:漢和辞典の引き方って、各社あんまり差異がないんですよ。でも、引きはじめてから辿りつくまでの“引きやすさ”には差があるなと思います。店頭で内容のちがいまではわからなくても、ぱっと見て「わかりやすいな」と感じたものを選ぶかもしれない。アプリ化する際にも、その感覚は大事にしたい。たとえば『角川新字源 改訂新版』は、漢字そのものの楽しさやおもしろさみたいなものを知りたいときに、すぐに教えてくれる感じがします。漢字の歴史というか、自分たちの文化の変遷や進歩にここまで触れられる辞書はちょっと他にないんじゃないでしょうか。
坂倉:おおー、ありがとうございます。できるだけ多くの人に手にとってもらいたいのは当たり前として、辞書アプリのお客さんがどういう人なのか意識したことはありますか?
廣瀬:アプリだとそこはよくわからなくて、SNSを通じて知ることができるくらい。感じたのは、まず第一に辞書がすごく好きな方。辞書ってたくさん持ち歩けないじゃないですか。だから「串刺し検索」でわーっと検索されているようです(※03)。
※03 最近、物書堂さんの辞書アプリは、複数のタイトルがひとつにまとまって「辞書by物書堂」に進化しました。これを使うと、複数の辞書をまとめて検索できるのです。たしかに、紙の辞書ではなかなか難しい使い方です。
それに仕事で使われる方。明日からイタリアへ行くからイタリア語の辞書を持っていこうとか、外国語の辞書が多いですね。
そして最近増えたのが、SNSなどで発信するために正しい言葉遣いを知りたい方。誰でも「こんな言い回しで良かったっけ」なんて不安に思ったりしますよね。類語辞典もよく使われているみたいですよ。
坂倉:まず専門家、あるいは辞書好きな人が使うというのはわかります、わかります。三番目のカテゴリは現代だからこそかもしれませんね。多くの人がSNSだったりブログだったりで発信することが多い時代ですし。Instagramに写真をアップしたって文章をつけちゃう。
廣瀬:となると、やっぱり辞書アプリを入れておきたいみたいです。持っているといざというときに安心できる。そういう意味ではやっぱりお守りですね。
坂倉:その点では、書棚から動かすことのできない紙の辞書と一緒ですね。使ってないじゃないか、なんて言われても、いつ使うかわからないから捨てられない。