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楽天の携帯参入延期の裏側、競合から「もはや恐れる相手ではない」の声も

2019年09月12日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,村井玲二(ダイヤモンド・オンライン

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三木谷社長は強気の姿勢を崩さないが、「無料サポータープログラム」の実態は携帯参入の先送り
三木谷社長は強気の姿勢を崩さないが、「無料サポータープログラム」の実態は携帯参入の先送りだ Photo by Reiji Murai

10月1日に予定していた楽天の携帯電話事業への参入は、基地局整備の遅れから、事実上延期となった。携帯料金競争が今秋から激化するとみられていたが、肩透かしを食わせた格好だ。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

事実上の「携帯参入の先送り」
基地局建設が間に合わず

 ここまで虚勢を張るのはなぜなのか──。9月6日に楽天が開いた携帯電話事業に関する記者説明会。「10月より携帯キャリア事業としてのサービスを開始する」と発表したものの、三木谷浩史会長兼社長からは、どんな携帯サービスで、幾らの料金体系でスタートするのかという説明は一切なかった。

 代わりに打ち出したのが「無料サポータープログラム」で、10月1日から来年3月31日まで限定5000人に携帯サービスを無料で提供する。東京23区、大阪市、名古屋市の居住者を中心に利用者を募集し、当選者に音声・データ通信が無制限で提供される。

 これは事実上の「携帯参入の先送り」を意味する。基地局の建設が遅れたために商用サービスが始められなかったのである。

 三木谷社長が携帯参入の「延期」という表現を一切使わず、「無料サポータープログラムによる事業開始」という苦しい言い回しをしたのには理由がある。

 これまで楽天が総務省に提出した膨大な文書には「2019年10月のサービス開始」が明記されている。その予定を延期する場合は、その全ての資料を修正する手続きが求められる。

 ただし、総務省によれば「無料サービスであっても事業開始に当たる」。故に楽天は「サービス開始」を強弁したのが実態のようだ。

 09年2月にサービスを開始した高速無線データ通信「WiMAX(ワイマックス)」が利用者限定の無料サービスから開始した例があり、楽天はこれに倣った格好だ。

 だが、ワイマックスの場合は2月末の無料サービス開始前に、有料化の開始時期(同年7月)と料金体系は発表済みだった。これに対して楽天はいまだ料金を発表せず、本格参入の時期についても「1カ月後かもしれないし、年内いっぱいかもしれない」(三木谷社長)と述べるだけで明らかにしていない。常識的に考えても、これで10月から事業を開始するとはいえない。

 基地局整備を巡って楽天は総務省から遅れを指摘されて、8月26日付で行政指導を受けている。20年3月末までに楽天は3432局を設置する計画だ。総務省の「電波利用ホームページ」によると、楽天の基地局は足元で600局弱にとどまっており、あと半年で、5倍以上の基地局を増やさなければならない計算となる。

 三木谷社長は「基地局の建設ペースは当初遅れていたが、順調に回復している」と強気の姿勢を崩さない。また、武田和徳副社長も「3月までの(基地局開設の)目標に十分間に合う」と強弁したが、さすがに信ぴょう性が疑われる。

楽天の最大課題
基地局整備に三つのハードル

 楽天の最大の課題は基地局の建設であることは間違いない。10月1日時点で、東京23区、名古屋市、大阪市の自社の基地局を整備する計画(それ以外のエリアはKDDIの通信設備を借りるローミングサービス)で、この整備が進まなければ、「圏外」だらけになる。

 さらに、6日の記者会見では、重要なことが明かされた。KDDIのローミングエリアから、楽天の自前基地局のカバーエリアに移動した場合、ユーザーの通話はいったん途切れてしまうというのだ。

 KDDIのローミングから脱却するためにも、楽天は自前の基地局エリアを拡大していく必要がある。携帯事業に新規参入する楽天は、文字通り「ゼロ」から、基地局の設置場所を借りる交渉を始めなければならない。これは実に厳しい。

 候補地はビルやマンションの屋上や私有地になるが、「設備工事や人の出入りを敬遠するオーナーが多く、マンションの管理組合の場合は理事会の開催が半年に1度というケースもあり、なかなか交渉は進まない」(業界関係者)のが実態だという。

 そもそも都市部の候補地は、既存の携帯事業者であるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが交渉済みで「空き」はほとんどないようだ。

 苦労して用地を確保しても、基地局と基幹通信設備(コア)を結ぶ光ファイバーを敷設する工事が第二のハードルだ。

 光ファイバーの工事は日本電信電話(NTT)の局舎を経由するため、受付はNTTになる。NTTの関連会社が工事を担当しており、業界関係者によると「接続設定やテストを含めたNTTの工事は半年かかることを覚悟しなければならない」とされる。

 第三のハードルとして、局舎や基地局側の電気工事も時間を要する。つまり、基地局を稼働するまでに、用地確保、光ファイバー、電気工事の三つのハードルを越えなければならない。そのために楽天はオーナー、NTT、電力会社との交渉が絡み合う膨大な作業を強いられる。

 この基地局整備の作業がいかに難しいかは歴史が証明している。

 ソフトバンクは05年に、基地局網を自ら建設して携帯事業に参入する計画を総務省に申請して認定を受けた。その直後、計画を放棄して旧ボーダフォン買収に切り替えた。当時を知る関係者は、「用地交渉があまりに大変だということが分かったので、既存キャリアの買収に切り替えた」と証言する。それほどまでにハードルが高かったのである。

 大手携帯会社のある技術者は「来年3月末までに楽天がまともな基地局網を整備するのは不可能だろう」と言い切る。

 これまでNTTドコモやソフトバンクは、楽天が打ち出す格安の料金プランを見てから対抗プランを出す姿勢を示していた。ところが楽天が事業を始めることすらできない様子から、「もはや恐れる相手ではない」(別の大手携帯幹部)との声も漏れている。

 大手3社は、警戒していた楽天の携帯参入が先送りとなったことで、関心を9月20日に発売となる新型iPhoneの販売の準備に移している。携帯大手3社による寡占の構図はまだまだ打ち崩すのは難しい。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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