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スープ作家・有賀薫さんインタビュー:

家事多すぎ、時間足りなすぎ。最低限の家事を考える実験「ミングル」

2019年05月24日 09時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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●スープという「最低限の食」

 有賀さんはもともとスープを通じて「最低限の食」を提案してきました。

 受験生の息子さんが朝に食べやすいようにと作ったスープをSNSにアップしたのが始まりですが、スープを作りつづけるうちにフォロワーたちから『本当に家事が大変で、このスープに救われました』という声が届くようになったといいます。

 「スープってラクチンだな、と。わたし自身、みそ汁とかは習慣としてあるものだと思ってたから、『ラクチン』なんて考えたこともなくて。スープは具を変えてやっていたけど、何の苦労もなかった。けど、朝にたっぷり作っておけば昼夜と自分を助けてくれるし、一日の食事がうまく回る。スープがあると生活はラクになるよねというというのは、お伝えする価値があるのかなと」

 有賀さんの世代では、スープは味噌汁のようにあくまで添え物。食卓でメインディッシュとみなすことはありませんでした。しかし最近若い世代のあいだで食の価値観が変わりはじめていると感じ、生活を支える最低限の食としてのスープを提案するようになったといいます。

 「うちの夫なんかすごくて、ビーフシチューも『汁物』なんです。ボリュームの問題ではなく『(白ごはんを食べるための)おかずは?』と聞かれます。佃煮や漬物でもいいんです。ごはん、汁物、おかずという一汁一菜、二菜の食べ方が身についてしまっているんですね。けど、最近スープストックトーキョーなんかに行くと、若い親子が普通にごはんとしてスープを食べていますよね。これがありなんだ、変わってきているんだなとふんわり感じて、それを意識したスープを作っていたんですね」

 スープのような汁物料理を食の中心と考えると、料理自体も変わってきます。共働き家庭の場合、帰ったらすぐ料理という忙しなさが心理的負担になりますが、たとえば鍋物のようなスープが中心にあれば負担が軽くなります。

 「鍋の時間割って、普通に家に帰ってきてごはんを作る時間割と違うなあと。煮るところ、よそうところも普通のごはんと違うし、調味も自分でやっちゃう。料理って調味という意思決定もすごく大変なんですよ。その部分をゆるめられる鍋は楽ですね。それならもう年がら年中鍋をやればいいじゃんと」

 毎日みんなで鍋を煮立てて食べれば楽だし、料理も一緒にできる。そのためにはどんなところでスープを作るのがいいのだろう──そんなことを考えるうち、家事そのものへと視野が広がり、考えられたのがミングルだったわけです。

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