このページの本文へ

『機動戦士ガンダムNT』BD&DVD発売記念 福井晴敏インタビュー

「ガンダムNTでは“ランバ・ラルが居ない時代”の大人像を描いた」

2019年05月13日 12時00分更新

文● 渡辺由美子 撮影●高橋智 編集●村山剛史

提供: 株式会社バンダイナムコアーツ

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

(C)創通・サンライズ

ファーストガンダムだけが持っていた「受ける」要素

―― え。そうなんですか。「宇宙世紀」ものはどうして育たないと思われていたのでしょうか?

福井 プラモデルを売る方法論として、ミリタリズムに寄り過ぎてしまったからかな、と思います。ミリタリズムって男の子はみんな好きな部分がありますけど、そこを強く求めていく層というのは一握りだったのかもしれません。つまり、(ガンダム人気の象徴として思い起こされる)「デパートの前でガンプラを買うべく行列していた小学生たち」のボリュームが減ってしまっていたのです。

 この苗(宇宙世紀)は育たない。だからアナザーガンダムを広げていきましょうというのが、当時の宇宙世紀に対する評価でした。僕が自衛隊ものを書いてデビューしていることもあってか、(企画段階では)極端な話、自衛隊ガンダムでもよいのではという意見もありました。それぐらい、ふわっとしたところから『UC』はスタートしたのです。

 でも僕には、『いや、この畑って、種によってはすごく良い作物が育つよ』という思いがありました。

 だから「ぜひこの畑を貸してもらいたい」と。ファーストガンダム(=『機動戦士ガンダム』)から始まって『Z』『ZZ』『逆襲のシャア』で描かれた宇宙世紀を、「そもそもガンダムってなんだったんだろう?」というところまでさかのぼって、根幹から全部を総覧し、全体を包含するような話を作れたらいいなと。そうするとビジネスとしても、『Z』以降の市場がもう一度全部立ち上がってくると思いました。

―― 宇宙世紀を総覧的に捉え直そうという動機が、福井さんが手がけた『UC』『NT』につながっていったのですね。では、「そもそもガンダムとはなんだったのか」をさかのぼって考えてみたときに、どんな気付きがありましたか?

福井 ちょうどその頃、別のラインで作っていた劇場版『機動戦士Ζガンダム』劇場版三部作が完成して、1作目は特に良く売れたそうなんです。それはなぜかというと、(『機動戦士ガンダム』の主人公とそのライバルである)アムロとシャアが再登場したからだという。やっぱりみなさんファーストガンダムの残り香みたいなものには圧倒的に惹かれるんだよなと思いました。

 では、ファーストガンダム以降の続編にはなくて、ファーストガンダムだけが持っていたものはなんだろうと考えると、将来的な展望に対する期待や希望という、人々に受ける普遍的な要素を持っていたことに気づいて、『UC』ではそこを踏襲しようと。

 『Z』以降で描かれてきた出来事をふまえつつ、“これだけひどいことが起きた歴史がありながらも、人類は死なずになんとか生きながらえてきた。そこに将来の希望になる一粒の種がある。それがニュータイプである”――という描き方をすれば、現代を生きる大勢の人たちに届くメッセージになると思いました。

(C)創通・サンライズ

ニュータイプは「Wi-Fiにつながったタブレット」である

―― ニュータイプを人類の希望の種として描くことが、物語を飛び越えて現実の私たちに刺さるものになると思われたのですね。ニュータイプと言えば、アムロたちがモビルスーツで戦うときに、敵の攻撃を察知する能力というイメージがありますが……。

福井 『UC』『NT』では、ニュータイプは我々の世界から見えない1つ上の次元、高次元に行った人として描きました。高次元はララァが言っていた通り、“時が見える”世界なんです。ニュータイプになっている瞬間というのは、過去も未来もなく、宇宙のはじまりから終わりまで頭に入っている状態。

 だからアムロのようにビームが来ても簡単に避けられるんです。『UC』『NT』では、アムロたちの100歩先に完全覚醒する段階があり、完全覚醒すると腕の一降りであらゆる兵器をバラバラにできるような、ほとんど神様のような力を持ってしまう。それは人の手に余る力でもあり、人類がその力を奪い合うことの危険性も描いています。

―― ニュータイプにも段階があり、「完全覚醒」すると、普通の人には知覚できないような域に達するのですね。

福井 完全覚醒したニュータイプというのは、高次元にアクセスした状態です。例えるなら、人はWi-Fiにつながっていない(SIMなしの)タブレットのようなもの。タブレットはWi-Fiにつながることでインターネットにアクセスし、世界中の知識を運用することができますよね。

 『UC』『NT』での描き方としては、高次元には電流のような太いエネルギーの流れがあって、全ての生命はそことつながっている。じつは、人は誰もがエネルギーの流れとつながってはいるのだけれども、普通の人は「つながっている自分」を認識できない。ところが、宇宙に出ると五感が研ぎ澄まされて感覚が広がる。研ぎ澄まされた五感で自分が「つながっている」ことを発見することでニュータイプとして覚醒する、ということです。

―― 『NT』で、主人公のヨナとミシェルが、行方不明の親友リタと離れていても会話できるのは、3人がニュータイプだからなんですね。

福井 はい。『UC』『NT』の時代である宇宙世紀0096~0097年というのは、人間が宇宙に進出するようになったことで「つながれる」人が増えてきた時代です。

 ガンダムの世界では、人間は死ぬと「魂」になり、魂になると高次元に行けると描かれています。ニュータイプとして覚醒すると、その魂――死んだ人とも会話ができるようになり、『UC』のユニコーンガンダムと『NT』で登場したユニコーンガンダムの3号機 フェネクスは、「サイコフレーム」を通して人間の意志を一時的に蓄積することもできる。ガンダムの中に、死んだ人も含めて人の魂が機体の中に反映されるんです。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

ASCII.jpメール アキバマガジン

クルマ情報byASCII

ピックアップ