Active PFCで有効電力を皮相電力に近づける
――ちなみに「PFC」という部分は何をしているのでしょう?
鈴木氏:PFCとはPower Factor Correctionの略でして、電源の力率を改善する回路なんです。Power Factorというのは電流と電圧の位相がどれだけ合っているのかというのを示していて、これが「1」に近づけば近づくほどロスが少ないという値になります。コンセントから供給される交流電圧と交流電流の積を皮相電力というんですが、これは見かけ上の電力でして、実際に出力されているのはそれよりも低い電力だったりするんです。
――有効電力ってやつですか?
鈴木氏:はい。例えば、力率が「0.90」の場合は、見かけ上100W使ってる回路でも実際に出力されているのは90Wという意味になります。PFC自体はどの電源ユニットにも付いているものなんですけど、基本的にはコンデンサーとコイルを使用した回路です。また、ちょっといい電源ユニットですと、Active PFCというタイプを採用していて、コンデンサーとコイルに半導体の電子回路を加えて力率を改善しているものもあります。SeasonicはActive PFCタイプですね。
――ちなみに、PFCが付いていない電源ユニットはあるんですか?
鈴木氏:PC用の電源ユニットはたいてい付いているものですが、携帯電話用の充電器なんかは付いていないですね。そもそもの要求電力が小さいので、力率を高めてもメリットが小さいからだと思います。例えば、5V/1Aの充電能力だと5Wで、PFCを使って「0.80」を「0.90」にすると、有効電力は4Wが4.5Wになります。しかし、無効電力は0.5WとわずかなのでPFCを採用してコストを上げてまで搭載するメリットは薄いんです。ところが、PC用だと1000Wが「0.80」で800W、「0.90」にすると900Wと100Wも変わるので、安定動作に必要不可欠な回路になっているわけです。
――そういえば、「-12V」は何をしているんですか?
鈴木氏:昔は出力バッファーの形態で±12Vで動かすというのがあって、オーディオボードとかで使われてましたが、最近ではあまり使われてないですね。今でも高い製品では使われているかもしれませんが……。
保護回路は一体何から保護してるの?
――保護回路のお話もうかがいたいのですが、スペック表を見るとOPP/OVP/UVP/OCPとか、それぞれなんのことなのかわからなくて……。
鈴木氏:OPPはOver Power Protectionの略で、電源全体の発熱を抑えるためにあるワット数を超えたら止める電力監視回路ですね。OVPはOver Voltage Protectionの略でOPPの電圧版です。ある一定の電圧を超えたら止めるなど、電圧の監視回路になります。その逆がUVPで、Under Voltage Protectionの略になります。こちらは電圧が低くないか監視する回路です。そして、OCPがOver Current Protectionの略で電流監視回路です。過電流になったら止める役割を持ってます。
――それぞれ機能の略称だったんですね。OTPとSCPも意味を教えてください。
鈴木氏:OTPはOver Temperature Protectionの略なんですが、こちらは過電圧/過電流状態じゃなくても、電源ユニットの温度が上がりすぎたら止める回路ですね。SCPはShort Circuit Protectionの略で、出力が短絡した場合に止める回路になります。
――「短絡」というのはどういった状態ですか?
鈴木氏:例えば、コネクターを挿し間違えたり、マザーボードの上に金属物を落としてショートしたりすることですね。
即時対応の長期保証がオウルテックのウリ
――大変勉強になりました。最後に、御社が取り扱っている電源ユニットの強みを教えてください。
鈴木氏:弊社で取り扱っている電源ユニットはいつでも新品交換保証なところですかね。12年保証の製品なら、たとえ11年目に壊れても新品を無償で交換いたします。他社さんですと、残りの保証期間に準じた金額の製品との交換になるとか、代替品も送らずに修理で1ヵ月も待たせるなんてところもあるみたいですが、弊社では故障品を引き取ってから2~3日で新品をお送りできます。
――しかし、10年以上の長期間保証になると生産が終了している製品もあると思いますが、その場合はどうされるんですか?
鈴木氏:後継モデルの同等品と無償交換になります。そもそも壊れない製品をメーカーさんと協力しながら作ることはもちろんですが、万が一故障してもユーザーさんを待たせたり、がっかりされたりするような対応は避けたいので。ただ、弊社は新品交換の際に壊れていないか一度開封チェックしてからお送りしているのですが、過去にそこを(中古と)勘違いされた方からお電話をいただいたことがありまして……。きちんと説明してご納得いただきましたけど、そんなこともありましたね(笑)。
――長期保管しているとそこは確かに心配ですよね(笑)。
鈴木氏:あと、うちは販売代理店でメーカーではないのですが、Seasonicはうちがパッケージにも手を入れて、がっつりローカライズしていますね。製品検証や日本語説明書もうちが手がけています。日本専用モデルこそないんですが、新製品開発時は年に何回か行なっている打ち合わせで結構要望を出しています。
――要望というと?
鈴木氏:日本だと電源ユニットを基本的に100Vで運用することになってますが、海外製なので下限電圧が110Vの製品もあるんですね。うちは100Vを保証するために下は90Vから動く製品しか扱わないようにしています。SeasonicやFSPのワールドワイドモデルには下限電圧が90Vを保証していない製品があって、「もし設計変更するなら下は90Vからにしてくれ」と要望を出していますね。
――そもそもコンセントの交流電圧は100Vで安定していないものなんですか?
鈴木氏:結構変動しますね。一般的に日本の家電製品は交流100Vに対して±10%の90~110Vで動くように設計されています。