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SeasonicやFSPを販売するオウルテックに訊いた

理想の容量や80 PLUSは?本当はもっと吟味すべき電源ユニット選び

2019年04月19日 11時00分更新

文● ジサトライッペイ

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+5Vと+3.3Vは+12Vから作られている

――そもそもPCにおける電源ユニットは家庭用コンセントに来ている交流電流(AC)をどうやってPC用の直流電流(DC)に変換しているんですか?

鈴木氏:一般的な家庭のコンセントでは最大15Aまで使用可能で、電圧は100Vになっています。それに対して、PCに必要な電圧は+12V、+5V、+3.3V、-12V、+5V SB(サブ)があるんですけど、電源ユニットはまずAC-DCコンバーターという変換回路で+12Vと-12Vを作るんですね。で、その+12VからDC-DCコンバーターという変換回路で+5Vと+3.3Vを作ってるんです。

――+5Vとか+3.3Vは+12Vから分割されているんですね。ようやく電源ユニットのDC出力表の意味がわかりました。電圧系統の種類で電力を足していくと、合計値が定格電力に足りないのでなんでかなと思っておりました。

鈴木氏:そうなんです。+5Vとか+3.3Vは上流の+12Vと電力を共用しているので、足してしまうと計算が合わなくなるんですよ。ちなみに、-12Vは+12Vと同じタイミングで作られるので分かれています。あと、+5V SBは±12Vのさらに上流で分かれているので、これもまた別の計算になります。

――え! +5V SBはさらに上流なんですか?

鈴木氏:+5V SBはスタンバイ状態のときに使うものでして、主にマザーボードのスタンバイ機能だけに供給しています。PC自体の電源はついておらず、電源ユニットのメインスイッチだけが入っている状態ですね。

定格電力が1000WのSeasonic「Prime 1000W GOLD SSR-1000GD」のDC出力表。各電圧系統(+3.3V~+5V SB)の電力を足すと明らかに1000Wを超えるが、これは+12Vで+3.3V、+5.5Vの電力を共用しているためだ。また、+5V SBはメイン電源が入って±12Vが作られる前のスタンバイ状態で使う系統なので計算に入れない。

シングルレーンとマルチレーンの違い

鈴木氏:分岐の話で言うと、+12Vも1系統しかないシングルレーンというものと、+12Vが複数系統あるマルチレーンというものがあります。これはビデオカードなどのPCパーツに使うもので、回路構成としてマザーボードで使われている+12Vのレーンに影響を受けないように分けられているんです。

――ビデオカード用補助電源の6ピンや6+2ピン専用の+12Vになるんですね。

鈴木氏:はい。例えばビデオカードに供給している電力が跳ね上がると、シングルレーンの場合は回路を共有しているので、マザーボードに供給している電圧もその影響で不安定になる可能性があります。しかし、マルチレーンの場合は回路構成として上流で分かれているので、お互いに影響が少ないんです。

――マルチレーンは構成的に安心なんですね。でも、最近の電源ユニットはシングルレーンが大半ですよね?

鈴木氏:ええ。最近の電源ユニットでは、シングルレーンでも電圧変動を高い精度で制御できるようになったからですね。SeasonicやFSPの製品は特に精度が高く、マルチレーンにしなくともいいのです。もともとATXで規定されている負荷電流に対する電圧変動幅は±5%までなんですが、SeasonicやFSPは基本±3%で、PRIMEシリーズなどではもっと精度が高くなります。

――あ、「MTLR」(Micro Tolerance Load Regulation)ってやつですね。

鈴木氏:そうです。MTLRを採用した最近のSeasonic PRIMEシリーズですと、±0.5%まで制御できるモデルもあります。なので、原理的にはマルチレーンのほうが影響が少ないのは確かなんですが、シングルレーンの製品でも十分大丈夫なモデルもあるんです。あと、マルチレーンだと使い方を考えなければいけないので、そこがやっかいだと思うんですよね。

――というと?

鈴木氏:例えば、+12Vに70A供給できる電源ユニットの場合、シングルレーンならそのまま全部使えて、マザーボードだけで940Wぶんの電力が使えます。しかし、例えば+12Vが3系統あるマルチレーンだと電流を分割して、マザーボード用の+12V1が30A、ビデオカード用の+12V2と+12V3が20Aずつというふうになるとします。そうなると、+12V1が360W、+12V2が240W、+12V3が240Wになり、各系統で使用できる電力が制限されます。そうなると、高い電力が必要なビデオカードに交換したいときなど、不都合が出てくるんです。

――なるほど。オーバークロックなんかも影響出そうですね。

鈴木氏:そうですね。というわけで、シングルレーンのほうが融通が利くぶん、製品が多いのかもしれません。もちろん、各系統で使用する電流に適した製品を選択すれば、マルチレーンのほうが構成的に安心ではあるんですけどね。昔はマルチレーンが結構多かったですし。

――ちなみに、シングルレーンの製品はいつ頃から増えてきたんですか?

鈴木氏:確かHaswell(=Intel第4世代Coreプロセッサー)あたりからだったと思います。CPUの省電力ステートがさらに下にいけるようになって、その時にマルチレーンではうまく最小電力の範囲に収まらないモデルが出てきて、無駄なく最小電力が供給できるシングルレーンが注目されたのがきっかけだったと思います。

ホワイトボードで説明していただいたマルチレーンの構造。+12Vが複数の系統に分かれている。

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