地銀のクラウド化の壁に挑む、ニッセイ情報テクノロジーと日本MS
北國銀行の保険窓販システムAzure移行プロジェクトにみる、地銀の課題とニーズ
2019年03月07日 12時00分更新
北國銀行は、これまでオンプレミス環境に導入していた金融機関向け保険窓口販売支援パッケージ製品「保険販売管理パッケージ インプラス Ver.9」を、Microsoft Azureのパブリッククラウド環境へ移行し、3月から運用を開始した。同パッケージの開発・提供元であるニッセイ情報テクノロジーでは、これを皮切りに、他の地方銀行に対しても同パッケージのクラウド移行を強く提案していくとする。今回の移行プロジェクトを手掛けたニッセイ情報テクノロジーと日本マイクロソフトに話を聞いた。
地銀のシェア5割の保険販売管理ソフトをAzure化
ニッセイ情報テクノロジーの「保険販売管理パッケージ インプラス」は、金融機関が保険商品を窓口販売する業務をトータルで支援するパッケージソフトだ。保険契約データや手数料データを管理するデータベース機能を核に、保険募集活動の登録/契約時のコンプライアンスチェックといった営業店向けシステムから、取扱商品管理/各営業店の販売実績管理/事業報告書作成などの本部向けシステムまでワンパッケージで提供する。現在、銀行55行、証券会社、保険会社に導入されており、特に地方銀行での導入率は5割に迫る。
今回ニッセイ情報テクノロジーは、ユーザーの1行である北國銀行からの要望を受けて、インプラスの基盤をAzure上に構築。これまでオンプレミスのWindows Server環境で稼働していた北國銀行のインプラスをAzureへ移行した。
北國銀行は、Azureを基盤としたインターネットバンキングシステム「北國クラウドバンキング」の構築(関連記事)や、勘定系システム「BankVision」のAzure移行(関連記事)など、銀行基幹システム全体のAzure化を推進している。平行して、基幹システムと連携する様々なサブシステムのAzure移行を計画しており、その第一弾として、ハードウェアの保守切れのタイミングに合わせて保険販売管理システムをAzureへ移行した。
Azure内に勘定系システム、インターネットバンキング、保険販売管理システムなどのサブシステムを配置し、CRMにデータを集約する。インフラの保有・運用コストを削減し、クラウド上に集約されたデータをAzureの機械学習や分析機能を使って活用していきたい考えだ。
IaaS化は完了、次期製品ではPaaS/SaaS化を視野
「インプラスのAzure化は、他の地銀のお客さんからも引き合いが多い」とニッセイ情報テクノロジー 販売チャネルソリューション事業部 金融サービスソリューションブロック 上席プロジェクトマネジャーの康田龍智氏は言う。「銀行が導入している様々なサブシステムは、ハードウェアやOSの保守期限がバラバラで管理が煩雑。プラットフォームの運用管理の負担からクラウドに目を向ける地銀が増えている。ここで、地銀のサブシステムにはWindows ServerやSQL Serverで稼働するものが多いことから、マイクロソフトのサーバー製品と相性がよさそうなイメージがあるAzureが選択肢にあがる」(康田氏)。
今回の北國銀行のインプラス基盤は、AzureのIaaS上に構築し、パッケージのフル機能をのせている。インプラスのクラウド化が初の試みだったこともあり、構築には要件定義や様々な検証を経て7カ月の期間を要した。「Windows ServerならAzureだろうというイメージはあったが、実際、スムーズに構築は完了した。マイクロソフトのサポート窓口が身近にある安心感も大きい」と康田氏は振り返る。
ニッセイ情報テクノロジーは今後、北國銀行のAzureインプラス基盤構築で得たノウハウを、他の銀行の顧客にも展開していきたいとする。さらに、同社が日本生命グループのデータセンターで自社運用しているASP型のインプラスの基盤をAzureへ移行する計画だ。現在インプラスは、パッケージソフトでの提供のほか、日本生命のデータセンターから地銀6行に専用線を経由してASP型でも提供している。ASPの基盤をAzureへ移行することで、同社自身もサーバーの運用・保守コストを50%削減できると試算している。
将来的には、IaaSでのAzure化だけでなく、マネージドサービスのAzure SQL DatabaseやAzure Web Appsを組み合わせたPaaS基盤でのインプラスの運用や、SaaS型での提供も視野に入れている。現在開発中の次期製品「インプラス Ver.10」では、金融機関がインプラスの必要な機能だけをAzure Marketplaceから選択して導入できるようにしていく計画だ。「小規模な地銀ではインプラスのフル機能を導入することにハードルがある。また、銀行の規模に関わらず事業の変化に応じて機能を選んで導入したいというニーズがある。クラウド化によりこれらのニーズに対応していく」(康田氏)。
地銀のクラウド接続に専用線以外の選択肢
銀行の基幹システムやサブシステムをクラウド化することで、サーバーの運用管理コストは圧縮される。その一方で、地銀にとって新たな負担となるのがクラウドを利用するためのネットワークコストだ。金融機関のクラウド利用においては、多くのケースで専用線を使う。今回の北國銀行のケースでも、行内ネットワークとAzure上のインプラス基盤を専用線接続サービスAzure ExpressRouteで接続している。Azure東日本リージョン/西日本リージョンから地理的に離れた場所に拠点を持つ地銀は、クラウドまで専用線を引く費用が高くなりがちだ。
この課題について、日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 金融サービス営業統括本部 金融ソリューションスペシャリストの石田裕幸氏は、「地銀のクラウド利用において、専用線より安価なVPNを使う選択肢が出てきた」と説明する。全銀協は、2025年にISDNサービスが廃止されることを受けて、広域IP網をベースとした新たな全銀プロトコルを公開した。ここでは、広域IP網で銀行・企業間がセキュアに通信するためにL2TP/IPsecやIP-VPNによる閉域網を使うようガイドラインが出ている。
Azureでは、事業拠点とAzure VNET間を自動化されたネットワークでIPSec VPN接続する「Azure Virtual WAN」を提供している。Azure Virtual WANは、ネットワーク回線の冗長化や、ExpressRouteとの相互運用が可能だ。「ExpressRouteを使わないと不安だというお客さんもいるが、要件によって専用線とVPNを使い分けることで、地銀のクラウド利用にかかるネットワークコストを抑えることができる」(石田氏)。