3DCG制作ではスレッド数の多いRyzenが有利!?
3DCG制作スタジオ「SAFEHOUSE」がTSUKUMOのG-GEARを 選んだ理由とは︖
2019年03月12日 11時00分更新
リアルタイムレンダーの先駆者エラスマス氏の存在
今回会社を設立したきっかけは、リアルタイムレンダーの動画の先駆者でもあるErasmus Brosdau(エラスマス・ブロスダウ)氏がアーティストとして一緒に仕事をすることになったこと。鈴木氏が興味を持ち、今後これを生かしたCGの世界になると確信したためだという。
由良氏は「僕は音楽の人間ですが、映像制作にはすごく興味がありました。ただ、プリレンダーのパイプラインだとレンダーツールを開発できる人が必要だったり、レンダーサーバーも構築しなければならない。それにはお金も人材もたくさん必要で、ビジネス的には難しいと感じていました。でもエラスマスが入って、まったく話が変わったんです。エラスマス一人でリアルタイムレンダーだとここまでできるということを知り、とてもエキサイティングで、かつ危機感も覚えたんです。ここで日本が成長しなかったら、また乗り遅れることになるって」
日本のためにも技術を伝えなければならない。そう感じた2人が、仕事の価値観や教育要素も合致して設立したという。
鈴木氏は「日本で仕事をするとなっても、若い子を育てることがほとんど。それだと僕自身がアーティストとして伸びないので、エラスマスと会社設立すると言われて、僕が凄いと思う才能を持つエラスマスと一緒にやるほうが成長できると思いました。今後ゲームにおけるプリレンダーは減少していくと思っているので、エラスマスの新しいリアルタイム映像制作を今のうちからやらないと、将来的には生き残れないのではと思っていました」。
プリレンダーとリアルタイムとでは結構違うという。どちらも応用は効くが、新しいものに手を出すという時間も暇もなく、教えてくれる人もいない。日本でもリアルタイムレンダーを行なっているところはあるものの、情報共有がままならず、みんな手探り状態だという。
「エラスマスはもう多分数年先は行なってます。リアルタイムはまだ2、3年前に始まったぐらいですが、それなのにしっかりと制作を行なってるので。エラスマスと話していると、知らないことだらけで、これまですごいお金かけて、すごい才能持ってる人たちや予算のある作品もやってきたけれど、新しい技術や情報をシャットダウンしたらもったいないと実感しています」(鈴木氏)。
制作環境も昔とは一変してきている
プリレンダーとリアルタイムとでは、機材の揃え方も変わってくるという。「プリレンダーをやってるときは、グラフィックボードはずっとQuadroを使っていました。でもUE4(Unreal Engine 4)が出てきて、リアルタイムが成長するにしたがって、GeForceのメモリーが増えて、価格も安くなったため、Quadroという選択肢はなくなりました。コンポジットだと、Quadroのほうが安定していると聞きますが、モデリングして何かを作るとなると、GeForceのほうが圧倒的にコストパフォーマンスは高いですね」(鈴木氏)。
「リアルタイムはゲームエンジンがスムーズに動けば大丈夫なので、GeForceで十分なんです。いまのGeForceはレイトレーシングをやり始めてますが、そういうテクノロジーをリアルタイムでは組み込めるんです。なので、GPUが非常に大事なので、ゲーミングマシン寄りの環境で制作することになります」(由良氏)。
CG映像制作の世界は、エンドユーザーが楽しむプレイ環境に近いほうが、制作環境として良くなってきたわけだ。逆にCPUはそれほど重要ではなく、それよりもストレージとメモリーだという。
「ストレージはSSDですね。1ファイル1GBとか、ファイルのデータが大きくなってきたため、SSDでないとセーブをするのにすごい時間がかかってしまい、コストパフォーマンスがすごく下がるんです。メモリーは、テクノロジーがどんどん進化してきて、いろんなものに特化したソフトウエアが出てきたんです。そのためソフトウエアも分業化し始めていて一度に立ち上げなければならないんです。昔は16GBや32GBでも回っていましたが、今は64GBないと厳しいですね」(鈴木氏)。
もちろん、SSDはM.2接続のNVMe対応のもの。導入されているTSUKUMOのマシンは「G-GEAR GA7A-C181/XT」をカスタマイズした以下の構成だ。SSDは容量1TBだが、1つのプロジェクトで1TBを超えることはないため、プロジェクトが終了したらHDDへバックアップすれば十分だとのこと。
G-GEAR「GA7A-C181/XT」の主なスペック | |
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CPU | AMD Ryzen 7 2700(8コア/16スレッド、3.2~4.1GHz) |
マザーボード | AMD X470 チップセット ATXマザーボード |
メモリー | 64GB (16GB×4、PC4-21300) |
ビデオカード | NVIDIA GeForce RTX 2080Ti(11GB) |
ストレージ | 1TB SSD(M.2 接続、NVMe対応)/4TB HDD(SATA) |
光学ドライブ | DVDスーパーマルチ(DL対応) |
電源 | 定格850W 80PLUS GOLD認証電源 |
サイズ/重量 | 190(W)×475(D)×435(H)mm/約12kg |
OS | Windows10 Pro 64bit |
CPUはAMDのRyzen 7 2700。これはスレッド数が多いほうがいいという判断だという。「CPUの性能を引き出すような作業までたどり着いてないですが、Threadripperのほうがビルドの吐き出しは当然速いんです。CPUの速度というよりも、スレッド数が多いものが有利ですね」(由良氏)。
「前の会社でも、多大なポリゴン数のデータを扱ってましたが、Core i7の割といいやつ使ってましたが、速さよりもコアやスレッドが多いほうが表示は倍ぐらい速かったんです。だから、Ryzen搭載マシンの取り合いになっていました」(鈴木氏)。
今回導入されたマシンのスペックは、エラスマス氏が決めたという。ただエラスマス氏が必要なマシンスペックだと、かなりの費用がかった。
そんなときTSUKUMOもクリエイターの生の声を忌憚なく意見を聞き、それを製品にフィードバックしたいという思いと、多くの日本のクリエイターに最高の環境で使ってもらいたいという思いがお互い一致し、今回のマシン導入にあたって協力をしている。
「いろいろなマシンを使って、最終的にTSUKUMOの「G-GEAR」が一番安定しているという話をよく聞くんですよ。エラスマスに実際触ってもらい、ブラッシュアップして導入されました」(鈴木氏)。
「最初は、ただ速いって感動していたんですが、エラスマスがなぜ速いのかをしっかり説明してくれました。エラスマスは特にハードウエアのスペシャリストではないんですが、ハードウエアは何がいいのかとか、ブランドは何がいいかとか的確に分かってます。テクニカルディレクターに『これじゃ駄目』とか『これじゃ演算が間に合わない』とか指示もできるので。アーティストであってもそういった知識があった方が、強みになると感じています」(由良氏)。
アーティストやクリエイターでもただ与えられたマシンで作業するのではなく、なぜこのマシンが必要なのかを理解した上で作業をすることで、より必要なものが見えてくるということだろう。とにかく、導入したマシンは快適すぎてストレスを感じないそうだ。
現状は満足であっても、また数年後には新たなマシンが必要かもしれない。今後見直すとしたらどの部分かと伺ったところ鈴木氏はこう答えた。「ブラッシュアップするとしたら、マシンよりもネットワークが追い付かなくなる可能性があるんですよね。マシンがいくら速くなっても、インフラが整ってないとデータをサーバーへアップするのに1時間かかっていたら、あんまり意味がないので」。
由良氏は「スピードが追いついたら、クラウドベースのマシンになってシンクライアントで作業できるようになるかもしれません。でも直近ではレイトレーシングへの対応ですよね。Epic Gameがサポートするソフトウエアを出していますが、それを受けとったアーティストがちゃんと活用できるような環境にしなければならないでしょう」。
ちなみに、導入したマシンには光学ドライブも付いているが、これも理由があり、外部とのやりとりで、セキュリティー上まだメディアで渡されることがあるからだそうだ。
アーティストを育てるための環境も構築したい
最後に、まだ起ち上げたばかりだが、今後どうしていきたいのか伺った。「僕としては、会社はアーティストを育てる場所でありたいと思っています。僕もBlizzardでいろいろな人に育てられたという恩もあるので。自分のチームがずっとここの会社にいなくても、僕はあんまり関係なく、彼らの目的に対して、僕がどれだけそこに対して協力できるのかフォーカスしています。僕が10年かけて培ったものを彼らに3、4年で伝授し、あとの6年は僕が行けなかった新しい分野に行ってもらいたいと思ってます」(鈴木氏)。
「僕たちはBlizzardをすごいと思うし尊敬もしていますが、Blizzardが百点満点というわけではないと思っています。いかに自分たちに合った環境をつくれるのか。いまはそういうのにすごい興味があるので、今後もチームや仕事環境の構築に集中していきます」(由良氏)。
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