ほぼ12ヵ月で完成した
PowerPC 601
さて、最初に商品化されたのがPowerPC 601である。これは設計開始からほぼ12ヵ月という非常に短い期間で製品化された。ベースになったのはPOWER1のRSCであるが、命令セットはPOWER ISAではなくPowerPC ISAベースであり、またアドレスも32bitになっている。
画像の出典は、“wikipedia”
ただこのPowerPC 601はPowerPC ISAに完全準拠ではなく、一部POWER ISAも含むやや中途半端なものになっていた。またAIM連合にMotorolaが加盟するにあたり、Motorolaが既存の88K(正確にはMC88100)とのバスの互換性を求めた関係で、バスに関しては互換性がない。
さらに言えば、RSCには搭載されていなかったマルチプロセッサー対応が追加されている。このPowerPC 601はIBMだけでなくMotorolaからもMPC601として出荷されており、翌1994年にはプロセスを微細化して高速化したPowerPC 601+もリリースされている。ちなみにパイプライン構造は1命令のインオーダー構成で、パイプライン段数は4段に過ぎない。
多岐にわたる
PowerPC 601の後継
これに続く世代がけっこう分岐した。まずIBMはこのPowerPC 601をベースに、構造の簡素化と若干の機能追加、PowerPC ISAのフルサポートなどを盛りこんだPowerPC 603と、これのプロセスを微細化したPowerPC 603eを開発する。
こちらはノートなどの省電力向け製品と組み込み向けのベースである。といっても段数こそ4段のままながら2命令同時解釈、3命令同時実行のアウトオブオーダー構成のパイプラインとなっており、大幅に性能が向上している。その一方、FPUは倍精度をサポートしない(単精度のみ)といった簡素化もされている。
もう1つの進化はPowerPC 601の高性能化で、これが同じく1994年に出たPowerPC 604である。アウトオブオーダーで4命令同時実行のスーパースカラーを搭載し、また1次キャッシュを命令/データで分離(PowerPC 601はUnified L1構成だった)、パイプライン段数も6段に増強され、より高速動作が可能になっている。
このPowerPC 604も、PowerPC ISAをフルサポートした。RS/6000のローエンド機種はこのPowerPC 604を搭載したものがいくつかある。こちらもMotorolaではMPC604として製造された。
このPowerPC 604のキャッシュサイズを倍増(16KB→32KB)させるとともにプロセスを微細化して高速動作可能にしたのがPowerPC 604eとなる。
これと並行してIBMで開発されていたのが、PowerPC 604コアとx86コアを搭載し、Pentium互換のソケット形状で提供されるPowerPC 615であるが、こちらは発表こそされたものの出荷されずに終わっている。
IBMはインテルとクロスライセンス契約を結んでいるのでx86コアを出荷する権利はあるし、Blue Lightningシリーズなどのx86コアも保有してはいるが、それとPowerPCを組み合わせたからと言って競争力が増すわけではないのは少し考えればわかることで、消えて当然の製品だったと言える。
もう1つ、徒花的に出現したのがPowerPC 620である。ここまではCPUコアの設計はすべてIBMであり、Motorolaは設計済みのコアをIBMから提供してもらい自社で製造するだけだったが、PowerPC 620はMotorolaの設計によるものである。
もともとPowerPC ISAそのものは64bitへの対応も定義されており、ただし当時はまだPC市場は32bit全盛期だったため特に実装はなされなかったわけだが、なぜかMotorolaはPowerPC 603をベースに64bit PowerPC ISAを実装し、PowerPC 620を作り上げた。ただ、仏Bullのワークステーションに採用されたのが唯一の採用例というあたりで、商業的には失敗作である。
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