ビットコインは、自身を安全に保つ仕組みに織り込まれている根本的な問題を抱えている。中央銀行のための中央銀行といわれる国際決済銀行(BIS)の新しい調査報告書(PDF)は、ビットコインが分散台帳の安全性を確保するために使用するプルーフ・オブ・ワークという方法が原因で、支払手段としてのビットコインには限界があると結論付けている。
まず、イーサリアム・クラシックに対する攻撃で最近見られたように、プルーフ・オブ・ワーク・システム(ビットコイン以外の多くの暗号通貨もこの方法に依存している)の半分以上の採掘能力を獲得できる者は、その計算能力を使ってトランザクションを巻き戻して、実質的に同じ暗号通貨で2回支払いができてしまう。二重支払い攻撃と呼ばれるこの攻撃では、攻撃者が他人に暗号通貨で支払った後、その支払いがまったく発生しないブロックチェーンの代替バージョンを作成するのだ。
ブロックチェーン内でのトランザクションが深いほど、そのトランザクションが含まれない代替ブロックチェーンを作成するために必要な計算能力は高くなり、二重支払い攻撃が発生する確率は低くなる。だから、ビットコインを支払いとして受け取った業者は、その支払いが含まれているチェーンの後ろに数個のトランザクションのセット、つまりブロックが追加されるまで待たないと購入された商品を譲渡できない。
だが、BISのエコノミスト、ラファエル・アウアー博士の主張によれば、二重支払い攻撃者が利益を得ることが実際に不可能になるほどブロックチェーン内のトランザクションが深くなるまで、そのトランザクションは本当に完了したとは言えない。アウアー博士が「経済的支払いの完了」と呼ぶこの状態を達成するためのネットワーク・コストはきわめて高い。
2番目の経済的な制約は、ネットワークを安全に保つためにネットワークが採掘者に支払う方法に関連している。ビットコインでは、チェーンに新しいブロックを追加する採掘者(マイナー)が「ブロック報酬」と呼ばれる所定の数のビットコインを稼ぐ。採掘者は、個人のビットコイン・ユーザーが新しいトランザクションを送信するときに提出されるトランザクション報酬も稼げる。この報酬は、採掘者が利己的に二重支払い攻撃を試みる代わりにネットワーク全体の利益のために行動するインセンティブになっている。だが、ビットコインでは、システムがブロック報酬を段階的に減らすように設計されているため、ブロック報酬は徐々に減少していく。
ブロック報酬が減少すると、本当の支払い完了状態を達成するのに必要な時間がますます長くなるため、トランザクション料金だけではシステムのセキュリティの崩壊を食い止めるのに不十分になるとアウアー博士は話す。報酬がゼロに達すると、支払いが取り消し不能になるまでに数カ月もかかるようになる可能性があるとアウアー博士は書いており、「唯一の基本的な改善措置はプルーフ・オブ・ワークからの決別」と結論付けている(「経済学者も注目し始めた「ビットコインの価値」の本質的な限界」参照)。
暗号通貨ネットワークのソフトウェアにこのように大きな変更を加えるには「おそらくある種の社会的調整または制度化が必要となるでしょう」とアウアー博士は指摘する。
だが、ビットコインは、技術的な意思決定を巡る内紛や行き詰まりに苦労した歴史を持っている。一方、イーサリアムはプルーフ・オブ・ワークからプルーフ・オブ・ステーク(proof of stake)と呼ばれる代替方法に切り替えようとしており、イーサリアムのコミュニティは社会的な観点からこれがいかに難しいかを実感している。