2019年1月21日、リクルートマネジメントソリューションズ(以下、リクルートMS)は、若手営業の育て方についてコンサルタントが説明するメディア向けイベントを開催した。イベントでは営業強化コンサルの的場正人氏が登壇し、従来型の育成の問題点や今までの経験が通じない時代の営業育成について、さまざまなヒントを提示した。
時代錯誤な若手・新人の育て方に「育成の構造不況」あり
リクルートグループのリクルートMSは、経営・人材課題の解決と事業・戦略の推進を支援するコンサルティングファーム。人材採用、人材開発、組織開発、制度構築という4つの事業領域において、アセスメント、コンサルティング、トレーニング、HRアナリスティックの4つのソリューションで解決する。実績の高い適性検査「SPI3」や離職を防ぐ「レコブック」、マネージャー向けのサービスを展開するほか、働き方改革に関する講演や書籍も数多くの実績を持っている。
今回登壇した的場正人氏は営業強化コンサルタントとして、若手やトップ営業の育成のほか、営業組織強化、価値マネジメントなどを支援している。若手営業向けの「リクルートのトップ営業が後輩に伝えていること」や上司・指導者向けの「自分で動く若手営業の育てかた」などの書籍も上梓しており、今回のメディア説明会もこれらの書籍の内容をベースにしている。
冒頭、的場氏は営業現場でありがちな「とにかく訪問しなさい」「失敗を恐れずに挑戦しなさい」「一方的に話さず、ヒアリングしなさい!」「わからないことは気軽に相談しなさい」などの指導は、もはや時代錯誤で若者の納得感や成長につながらないと指摘。この結果として、多くの若手が伸び悩むことになり、入社3年目までに3割が退職してしまうという状況に至る。この背景にはビジネス環境の変化による「育成の構造不況」があると説明した。
困難に克服しなければ時代に経験不足の新人・若手が挑む現状
商品やサービスの優位性が明確だった従来は、営業マンも差別化ポイントをきちんと説明すれば、購入につながっていた。しかし、差別化要因がつけにくい現在は、売る力よりも価値を提供する力を提供する必要があり、営業マンも一匹狼より、組織内での協力が不可避となっている。当然ながら、上司のやり方を学ぶだけでは、課題解決まで行き着かない。「正解がない仕事に挑む、困難に立ち向かうことがかつてないレベルで求められる」という時代だ。
一方、仕事や職場にも変化が現れている。「従来は若手に任せやすいちょうどよい仕事が職場にはゴロゴロあった。しかし、今はコピー取りのような『ぬるい仕事』か、サイズが大きすぎて任せられない『熱すぎる仕事』の二極化が進んでいる」と的場氏は指摘する。同社が調べた理想の上司像も、「周囲を引っ張るリーダーシップ」や「言うべきことは言い、厳しく指導すること」などが要素として減り、「1人1人に丁寧に指導する」「相手の意見や考え方に耳を傾ける」という上司が評価されるという。
また、育成者と若手のコミュニケーションギャップも明確だ。同社の調査によると、「給食を残すと、最後まで食べさせられる」「廊下に立たされる」「親や先生に厳しくしかられる」といった経験を持つ若手は、育成者に比べて明らかに減っている。また、学校や公園で知らない子といっしょに遊んだり、ゲームやおもちゃがない中で自分たちで遊びを生み出すといった経験も減少している。総じて、不安、葛藤、軋轢、不確実性などの困難を、自らなんとかする経験を積めなくなっているというのが現在の若手の傾向がある。これはいい悪いではなく、明らかに時代の変化だという。
一方で、経済的な豊かさや情報化の恩恵、個性を尊重した教育を受けたことで、自己実現欲求や顧客への貢献欲求は強く、正解を探す力も強いという。「かつてないほど困難を克服する経験が必要な仕事環境に、困難克服の経験が不足したまま入社を迎える」というギャップ構造が問題の元凶と的場氏は指摘する。
経験不足とコミュニケーションギャップの課題をどのように変えるか
これに対して、的場氏はまず「社会で求められる力を培う経験の不足」を問題として挙げ、成長につながる仕事のため、「目指す状態」「育成要件」「成長につながる経験」の関係を考えぬくことが必要だと説明する。重要なのは、入社3年目までのステップゴールをきちんと設計すること。そして「導入研修後」「1年目」「2年目」「3年目」など時期を区切って、どこまで一人前になればよいかを明確にゴール化していくことだという。そして、これを実現するためには、ぬるすぎず、熱すぎず、適度なサイズの仕事を若手の成長のためにあてがい、経験を積んで、学習させていくことが重要になる。「経験不足は経験を積み重ねることでしか解消できない」(的場氏)。
もう1つの問題である「世代間の経験の違いによるコミュニケーションギャップ」に関しては、今の時代にあった動機付けが必要になるという。価値観はプライベート重視で、複数の自分を持つ分人化指向を持ち、「まじめで素直」「フラットさ」「内省化」「デジタルや外国語に強い」といった強みがある。やる気の源泉も「意味のある貢献」や「成長につながる学習」、「お互いの助け合い」などだ。単純に結果と行動を管理するのではこうした若手は育たないため、ものの見方を気づかせることで、行動と結果を変えていくのが秘訣だという。
育成者だった的場氏の場合、「とにかく訪問しなさい!」ではなく、若手時代の経験を30分に渡って説明した。「とらばーゆの営業時代、人材募集広告を出しませんか? と営業しても、『どうせ来ないんでしょ』とか、『若い人はすぐ辞める』とひたすら断られ続ける。でも、多くのお客様に同じように断られると、それらのワードが『チャンスキーワード』に変わってくる」「名刺獲得キャンペーンのとき、部下の前で一枚も名刺をもらえなかった僕の失敗を見て、それを見た若手も学んでくれた。でも、メールやケータイが普及した今では失敗を部下から隠すことが簡単にできてしまう」(的場氏)と自らの経験を語り、お客様の生の声を得る重要さについて力説した。メッセージは大きく変わっているわけではないが、単に売るために回れとどやすのではなく、成長につなげるために客先を訪問することをきちんと納得してもらうわけだ。また、仕事をアサインする際は、本人がやりたいこと(Will)、本人ができること(Can)、会社が求めたいこと(Must)の接続を丁寧に行なう必要があるという。
育成のPDCAを組織に装着している強み
若手の育成を効率的に行なっている組織は、優秀な管理職や上司・育成担当に依存せず、組織ぐるみで育成のPDCAを回しているのが特徴だ。説明会では、育成のPDCAが組織として“装着”している事例としてリクルートライフスタイルと三菱UFJ銀行の事例が披露された。
たとえば、サービスのリリースサイクルが早いリクルートライフスタイルでは、短期間で一人前の人材を育てなければならないため、一人前の営業になるためのチェックブックとGM用のマネジメントブックでできることを可視化するとともに、進捗表を壁に貼って若手の進捗を組織全体でサポートしているという。
三菱UFJ銀行では、こうした一人前のチェックブックで日常の行動観察を行なうとともに、月次の面談シートで評価と育成、課題のすりあわせが実施される。また、若手に向けては3年目までに身につけるべき知識やスキルのチェックシートが用意されているほか、指導者に対しても各拠点でのOJT取り組みの事例集や指導担当者研修が提供されているという。
最後、的場氏はIT・AI・グローバルの時代を勝ち残るためには、若手層の活躍が必須であるとアピール。「私がコンサルティングしていると、多くの会社からは『ここまでやらなければならないのか』と言われるが、今の若手は『先行投資型人材』。若手だけでなく、外国人、さまざまな年齢・性別などの人材が活躍するダイバシティマネジメントの時代、価値観の異なる人材の意欲や能力を引き出す力が、これからのリーダーには不可欠になる」とまとめた。