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「知らないことが問題」と専門家:

不妊治療 会社に迷惑か

2019年01月18日 09時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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●会社は「休まれると迷惑」というが

 松本亜樹子理事長によれば、働いている人が治療していることをほとんど会社に伝えられていないのが現実です。「言ったら誤解される」「特殊な目で見られる」「『で、どうだったの?』などと聞かれる」「迷惑がられる」などの懸念から、職場では治療のことを隠している人が多いそうです。

 会社や上司が不妊治療を迷惑と感じるのは「明日休みます」「今日休みます」など、突発的かつ頻回の休みが入りやすくなるため。不妊治療のスケジュールは卵胞の育ち次第なので、どれだけ熟練の医師でも正確な予測は困難。そのため働きながら治療をしていると、中長期の予定を入れづらくなりがちだそうです。

 「大事な会議や出張、取引先とのアポを、安易に入れられなくなるんですね。1ヵ月後の出張に行けるかと聞かれ、『行きたいんですがちょっと待ってください』と答えることになる。そうすると『やる気あるのか』『最近たるんでるんじゃないか』『あの人、最近休んでばっかりで困っちゃうよね』という話になってしまうんです」(松本理事長)

 Fineが2017年に実施したアンケートでは、治療のことを上司に話したところ、「(体外受精を)1回で成功させろ」と言われた人もいました。他に、「人が少なくて大変なのわかってるよね」と治療をやめるよう促されたり、「今は(治療は)やめてほしい」とたびたび面談で言われた人もいたそうです。

 ちなみに松本理事長によれば、不妊治療をして出産できる確率はおよそ12%。1回の体外受精で妊娠・出産しろというのは確率としても厳しい話しです。また不妊の原因は約半数が男性にもあるといいます。たとえ原因が男性側にあったとしても、通院するのは女性のほうが多いわけですが、そうした事実を知らずに「不妊は女性の問題だから」と話している人は多いのではないかと思いました。

 このように、不妊治療をしているということを会社や上司が知らない、または知らせても理解を示さないことは治療を理由とした退職にもつながります。Fineはこれを「不妊治療退職」と呼び、見えない社会問題だとしています。

 「会社をやめても子どもができなかった場合は、本当に悲劇です。仕事もなく、お金も失い、時間も費やしたのに、子どもも得られない。会社の友だちとも会わなくなっており、子どもがいる友だちとはなんとなく疎遠になる。一緒に不妊治療をしていた人たちとも治療をやめたところで縁が切れる。孤独です。再就職のために面接に行き、空白期間に何をしていたか聞かれるのもつらいと言います」(松本理事長)

 また不妊治療退職は会社にとっても損失にもつながると松本理事長は言います。

 「2016年のデータでは、体外受精をした人のうち、もっとも多い年齢は40歳。部下がいたりリーダーをまかされていて、その立場になるためにコツコツがんばってこられた方々です。先に周りが妊娠して『今これ以上人が減ったら困るから、わたしはまだやめておこうかな』と妊娠を先送りにされてきた、まじめな方が多いんです」(松本理事長)

 今の40歳前後は就職氷河期世代。男女雇用機会均等法が成立し、男性と女性が同じ条件ではたらくことを奨励され、懸命にはたらく中で、結婚や出産などの選択肢を後回しにしてきた人も少なくないと思います。

 「そんな30代後半から40歳前半のいちばん脂がのって働きざかりのマネジメント層にあたる人材が、5人に1人やめざるをえない状況になっている。これはすごい人材の流出ですよね。彼女たちのような人材をまた確保しようとしたときどれだけのコストがかかるか、考えればすぐわかるはずです」(同)

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