スタートアップが生き残るに必要不可欠な知財戦略とは
「IPナレッジベース」コミュニティーイベントin東京レポート
ASCII STARTUPは2018年11月26日、スタートアップと知財関係者を対象にしたセミナーイベント“「IPナレッジベース」コミュニティーイベントin東京”を、丸の内のStartup Hub Tokyoにて開催した。当セミナーは、スタートアップが知財を活用するための情報提供と専門家とのネットワーク、コミュニティーづくりを目的としたもの。登壇者に、経済産業省特許庁 企画調査課 課長補佐の貝沼憲司氏、株式会社リクポ代表取締役 CEO 木崎智之氏、IPTech特許業務法人 代表弁理士・公認会計士の安高史朗氏の3名を迎え、スタートアップが知っておくべき知財戦略をテーマに、セッションとパネルディスカッションを行なった。
独自のサービス、製品の価値やブランドを守るために必要なのが、特許や商標といった知的財産権だ。こうした知的財産は、スタートアップにとって、自社技術を守るだけでなく、オープンイノベーションや資金調達の武器にもなり、とくに世界展開には欠かせないものだ。経済産業省特許庁では、スタートアップの知財意識を促進すべく、情報提供や専門家とのネットワーキングなどの活動を行なっている。
知財コンテンツ、早期審査、知財アクセラレーションプログラム、海外展開などの支援策
第1部のセッションは、経済産業省特許庁 企画調査課課長補佐 貝沼憲司氏より、スタートアップの知財戦略の状況と特許庁のスタートアップ支援施策について紹介した。
ゼロからスタートするスタートアップが持つ唯一の武器は、斬新な技術とアイデアだ。つまり、スタートアップにとっての企業価値≒知財ともいえる。スタートアップが生き残るには、自社の技術やアイデアを守り、他社と差別化することは欠かせない。
知財によって得られる価値は、独占、連携、信用の3つ。事業の差別化や模倣の防止による独占、事業連携などオープンイノベーションの連携ツール、資金調達や事業評価の際の信用の証になる。
アメリカや中国の注目スタートアップは知財への意識が高く、創業当初から知財戦略に邁進している。しかし、日本のスタートアップの知財への関心は、全業界平均で2割、IT業界では1割弱と意識が低いのが課題だ。
特許庁では、スタートアップ支援施策として、2018年7月に「ベンチャー支援チーム」を設置し、知財コンテンツの提供、審査の早期化、知財アクセラレーションプログラム(IPAS)の実施、海外展開支援――などの施策を進めている。
知財コンテンツとしては、国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集「IP Strategies for Startups」、オープンイノベーションのための知財ベストプラクティス集「IP Open Innovation」、知的財産デュー・デリジェンスの標準手順書「SKIPDD」の3冊のPDFを特許庁のウェブサイトにて配布し、セミナーやイベントでも3冊をまとめたパンフレットを提供している。
審査の早期化では、スタートアップ向けに通常よりもスピーディーに特許権を取得できる「スーパー早期審査」、「面接活用早期審査」を用意。通常審査は出願から権利化まで約14.1ヵ月かかるが、「スーパー早期審査」を利用すれば約2.5ヵ月で権利化が可能だ。貝沼氏のおすすめは、「面接活用早期審査」。審査官との事前面談で、出願の内容、意義、事業戦略上の位置づけなどを相談することで、質の良い特許権をスピーディーに取得できる。さらに、スタートアップは特許料などの費用を3分の1に減額するといった減免制度も用意する。
「知財アクセラレーションプログラム」では、8月30日に支援先企業10社を採択。知財やベンチャービジネスの専門家による知財メンタリングチームを組成し、採択企業への支援を行なっており、IPAS特設ウェブサイトにて、採択企業以外にも情報共有している。3月には、支援内容を一般化した支援モデルとして公表する予定とのこと。
海外展開を目指すスタートアップには「Jetro Innovation Program : JIP(日本発知財活用ビジネス化支援)」を実施。今年度はシリコンバレー、深セン、ベルリン、ASEAN(インドネシア、マレーシア、タイ)の6地域を対象に、日本で集中研修「BootCamp」を実施した上で、海外展示会やピッチイベント等によるビジネスマッチング機会の提供している。
特許庁では、スタートアップと弁理士など専門家とのネットワークの機会を提供するため、月1~2回のペースでセミナーやイベントを全国で開催している。また、スタートアップを適切に評価・支援するための投資家向けの手引書を作成しており、早ければ年度末に公表する予定だ。