リアクションすると失格
いままでのバラエティの常識は通用しない
リアクションが大きい人を「芸人みたいだ」と言うことがある。リアクション芸人などという呼び名もあるぐらいだ。世間は、お笑い芸人に対してリアクションを求めているといえるかもしれない。つまり、おもしろいリアクションができる人が、ヒエラルキーの上位に行く可能性が高いような仕組みだ。逆に、反応がない人間は「おもしろくない」とみなされる。
その観点からみると、Prime Original『HITOSHI MATSUMOTO Presents FREEZE(フリーズ)』(以下、「FREEZE」)は異色の内容といえるかもしれない。なぜなら、彼らはリアクションを取ることを禁止されているからだ。
Amazon Prime Videoの人気シリーズ「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」に続く本シリーズ。参加者8名が「氷の塔」へ集結し、この塔の中で参加者を襲う数々の仕掛けに「驚くことなく、戸惑うことなく、微動だにせず耐え抜いた者」が優勝するというバラエティ企画だ。
タイトルの「FREEZE」を聞くと、まずイメージがするのは“氷”だろう。しかし、この単語は“止まれ”、“動くな”を意味してもいる(海外ドラマや映画などで「Freeze!」と叫ぶ警察官を見たことがないだろうか)。この番組でも「FREEZE」と掛け声がかかったら、参加者は何があっても一切の動きを停止しなければならない。
仕掛けに耐え抜き、静止状態をキープできた人のみ次のステージへ進める。最後まで動かなかった参加者が優勝となり、賞金100万円を獲得する。挑むのは、岩尾望(フットボールアワー)、クロちゃん(安田大サーカス)、しずちゃん(南海キャンディーズ)、鈴木奈々、ダイアモンド✡ユカイ、藤本敏史(FUJIWARA)、ボビー・オロゴン、諸星和己の8名。
この斬新な取り組み、力量を問われるのはやはり参加者だ。彼らはバックボーンやキャリアは違えど、基本的には(テレビ番組では)リアクションを取ることが求められていたはず。ところが、どんな状況になっても一切「動くな」と言われているのだからたまらない。
松本人志は「FREEZE」に関して「笑いというのは、“緊張”と“緩和”から生まれるものだと思いますが、今回の企画はその最たるものかもしれません」とコメントしている。ちなみに松本人志も敬愛する落語家・二代目桂枝雀は「緊張の緩和」が笑いを生むとする理論を提唱しており、お笑い好きなら思い起こすフレーズかもしれない。
よって、その内容は実験的。見ている方としても「これはどういうことなんだ?」と戸惑うこともあるだろう。そのあたりに、作り手の狙いがあるのかもしれない。参加者たちが思わずリアクションしてしまいそうな数々の展開は、既存の笑いのシステムにはない隙間を突こうとしているようにも思える。中でも見ごたえのあるシュールな3つの仕掛けを紹介しよう。
“動いてはいけない”という本質をあぶり出す「ピストル」
バラエティ番組において、出演者が危なそうなものに対して「何だ? 怖い!」とリアクションさせるのは常套手段だ。ピストルが参加者に狙いを定めるこの仕掛けも、似たような展開をテレビで見たことがある人もいるはず。しかし、動いてはいけない「FREEZE」の世界においては、参加者の度胸(?)を試す究極の罠になる。
まさしく欧米社会のように「Freeze!」と指示されて銃を向けられたとき、人はどのような反応を示すのか? 実際にピストルが動作したときに、何が起きるのか? 視聴者側も息をのむ瞬間だ。
シンプルながら参加者の不安をあおる「スイカ割り」
こちらは参加者の中央にスイカを置き、目隠しした人が割ろうと試みるもの。いたって普通のスイカ割りなのだが、何しろ「FREEZE」では声が出せないので、指示ができない。よって、「もしかして、自分が叩かれるのではないか?」という不安にもさらされることになる。
スイカが割れた瞬間でも、もちろん、リアクションすることはできない。「ただスイカを割るだけなのか? 裏があるんじゃないか?」と、見ている側も気になってしまう、シンプルながら番組の実験性をうまく表している仕掛けだ。
言葉が通用しない怖さ「ロボットアーム」
「FREEZE」では、仕掛けは人間や動物(!)だけではなく、機械が出てくることもある。このロボットアームは、さまざまな動きをして、あの手この手で参加者を反応させようと試みる。操作者の顔が見えないので、ちょっと不気味ですらある。まさに、機械と人間のディスコミュニケーション。
来るべきAI時代に警鐘を鳴らす……などという考えはおそらく微塵もないだろうが、次に何をしでかすかわからない機械の冷たい動きは、見ている側でさえも「大丈夫だろうか」とその動作に釘付けになってしまうだろう。ちなみに、個人的にはこのロボットアームの仕掛けが、参加者のリアクション(をしない動き)がもっとも個性豊かにあらわれていたように思う。
「FREEZE」の極限状態から
芸人/タレントたちの意外な素顔も見えてくる
「動かないほうが強い」という視点から見れば、ダイアモンド✡ユカイや、諸星和己といった、テレビ番組とは違ったステージを経験している人たちが有利なのかもしれない。彼らは仕掛けに対しても一切のノーリアクションを貫き、周囲の人たちを驚嘆させる。制作側の思惑通りにうっかりリアクションすることがおもしろいのかと思いきや、まったく動じないシュールさに、視聴者側が思わず笑ってしまうこともある。極限状態が生み出す笑いの世界……そんな表現を使ってもよいかもしれない。
つまり、反応しないことも、シチュエーションによってはおもしろさになりえるということだ。たとえば、かしこまった場所でふと自分だけがおかしい状況に気づいたとき(上司の肩に虫が止まっているとか、相手のズボンのチャックが開いているとか)、緊張感のある雰囲気がますますおかしさを増幅する、といった具合に。「FREEZE」はそのような笑いのかたちを提示し、視聴者に模索させているようにも見える。
編集部のバラエティ大好きな若手 ふじくんによるオススメコメント
「FREEZE」の魅力を知るには、実際に視聴してみるのがわかりやすいだろう。今のネット番組に精通している若い世代は、どのような思いを抱くのか……と、さっそくASCII編集部の若手、動画班のふじくんに「FREEZE」を見てもらった。
これぐらいやってほしい!
実験的な「FREEZE」の魅力
予備知識なく一気に見たんですけれど、おもしろかったですね。Amazon Prime Videoなので、「過激なのかなー」と予想していたんですけれど、やっぱりそうだった側面もあります。想像を超えるような「こうくるー?」というびっくり感もあって、確かにネットじゃないと無理だな、と感じました。どうせなら、これぐらいやってほしいと思っていました。
ただ、それだけじゃなくて、地上波にはない「実験感」があふれているのがいいですよね。丸められていないというか、完成度を小さくまとめないで、実験的なことをどんどん試している感覚があります。だから、バラエティ番組好きな人はもちろん、日頃からネット発のコンテンツに触れている人も見てみると発見があるかもしれません。
次に何がくるかわからない、という点で、続きが気になります。一風変わったコンテンツですし、人によって向き不向きがある内容かもしれませんが、自分としては最後まで見届けたいですね。
未知の“ぶっちぎり感”を楽しめる
Amazon Prime Videoで「FREEZE」を見よう!
「FREEZE」を知った人は、まず「ネットだから、テレビで見られない過激さを追求している」というイメージを持つかもしれない。しかし、内容を見てみると、ただただアブノーマルな映像が続くわけではない。むしろ、リアクションを取らせないことを通じて、ネットで配信することを活かした実験性を探求している番組ではないだろうか。Amazon Prime Videoならではの未知の“ぶっちぎり感”を楽しめる企画といえる。
あらゆる試練に耐え、一切動かないでいられるのは誰なのか。精神的にも肉体的にも追い詰められたとき、人はどんな“リアクション”を取るのだろうか。誰もが経験したことのない領域のバトルをチェックしてみてはいかがだろうか。
なお、ファイナルの配信開始は10月17日。究極の我慢大会の結末、気になるところだ。
Amazon Prime Videoについて
Amazon Prime Videoはプレミアムなオンデマンド・エンターテインメント・サービス。プライム会員向けに日本オリジナル作品『仮面ライダーアマゾンズ』『クレヨンしんちゃん外伝』『バチェラー・ジャパン』などが見られる。Amazonスタジオ制作によるオリジナルの『マーベラス・ミセス・メイゼル』『トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』といったラインナップも用意。
観たいチャンネルを選んで登録し、コンテンツが視聴できるプライム会員向けのサービス「Amazon Prime Videoチャンネル」も提供。J SPORTS、時代劇専門チャンネルNET、BBCワールドニュースなど30以上のチャンネルを別途のアプリやチューナーを使わず視聴できる。
映画やテレビ番組のレンタルや購入もでき、数万本の新作映画やテレビ番組をオンデマンドで楽しめる。
©2018 YD Creation
(提供:Amazon Prime Video)