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自転車ながらスマホ、人命奪い自身も破滅する重大さを肝に銘じよ

2018年09月03日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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街中を歩いていると、毎日のようにスマートフォンを操作しながら運転する自転車とすれ違う。しかし、これがいろいろな意味でいかに危険な行為かご存じだろうか。自転車の「スマホ運転」を巡っては8月、2件の死亡事故が大きなニュースになった。1件は元女子大生の有罪判決、もう1件は男子大学生の書類送検だ。いずれも人命を奪ったが故に重大な刑事事件に発展した案件で、2人の人生にも暗い影を落とす結果となった。なぜこれだけ問題になってもスマホ運転はなくならないのか。その危険性を検証してみる。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

肩書は「前科1犯、無職、元女子学生」

軽い気持ちでつい…の「ながらスマホ」、自転車で死亡事故も起きています。
写真はイメージです Photo:PIXTA

 元女子大生(20)の判決は8月27日、横浜地裁川崎支部で言い渡された。罪状は重過失致死罪、主文は禁固2年、執行猶予4年(求刑禁固2年)だった。

 判決によると、元女子大生は昨年12月7日午後3時15分ごろ、神奈川県川崎市麻生区の歩行者専用となっている商店街の市道で電動アシスト自転車を運転し、歩行者の女性(当時77)にぶつかって2日後に脳挫傷で死亡させた。

 元女子大生は事故前の少なくとも約30秒間、イヤホンで音楽を聴きながら、飲み物を持った右手でハンドルを握り、左手でスマホを操作しながら走行。スマホでメールのメッセージ送受信を終えた後、ズボンのポケットにしまう動作に気を取られ、事故を起こしたと認定された。

 裁判長は判決理由で「周囲の安全を全く顧みない自己本位な運転で、過失は重大」と厳しく断罪。弁護側は「悪質性の低い脇見運転」と主張したが、判決では「前方を注視しないばかりか、危険を察知してもブレーキを掛けられない状態だった。『脇見運転』と矮小化する主張は論外」と受け入れなかった。

 元女子大生に執行猶予が付いた理由は、家族が加入する損害保険で賠償が見込まれる点、公判で「同じ過ちはしません」と述べるなど謝罪し反省している点、そして大学を中退するなど既に社会的制裁を受けている点だ。

 この判決には、実は大きな教訓が3つ含まれている。1つは今回のスマホ運転の罪状が一般的な交通事故に適用される「過失致死罪」ではなく、より重い「重過失致死罪」だった点、もう1つはもし家族が損害保険に入っておらず遺族に賠償できなかったら実刑だった可能性がある点、もう1つは被告が大学の退学に追い込まれた点だ。

 それぞれ平たく言うと、スマホ運転は刑事上で一般的な車の死亡事故などより悪質とみなされ重い罪に問われること。今回は家族に助けられたが1つ間違えば囚人服を着ていた可能性があったこと。そして最近まで青春を謳歌していた女子大生が一転して「前科1犯、無職」になり、事件当時に成人していたため実名報道され、望んでいたような就職もほぼ見込めないという、極めて厳しい現実だ。

無灯火なら、より厳しい処分の可能性

 一方、男子大学生(19)のケースはどうか。

 茨城県警が8月2日付で水戸地検土浦支部に書類送検した容疑は元女子大生と同じ「重過失致死罪」。送検容疑は6月25日午後8時45分ごろ、つくば市の道路でマウンテンバイクを運転中、団体職員の男性(当時62)を正面からはね、頭部強打により翌日死亡させたとされる。男子大学生は送検後、未成年であることなどから、水戸家裁土浦支部に送致された。

 調書や弁解録取などによると、男子大学生は事故当時、マウンテンバイクを運転しながらスマホを操作していた上、無灯火だったとされるが、警察発表によると「そもそもバイクにライトが取り付けられていなかった」という。

 男子大学生は事故当時、両耳にイヤホンを着け、時間を確認しようとスマホを操作しており、前方にいた男性に気付かなかったと供述している。実際に事故後、男性宅を訪れて妻(62)に謝罪し、スマートフォンを見ながら運転していたと正直に説明したという。

 ここで問題になるのは、刑事でも、民事の賠償能力に応じて処分が変わってくる点だ。被害者の男性は松田長生さんで、農業と食品産業の研究開発「国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構」(農研機構)果樹研究所の所長を務めていた。

 生命に「軽い」「重い」がないこと、生命に価格をつけられないのは当たり前だが、司法的には「遺失利益」という概念が存在し、事故で死亡しなければ「その後の生涯でいくらの資産を残せたか」が具現化される。

 前述の元女子大生は民事的な賠償が可能だから執行猶予になったが、この男子大学生はどうか。未成年による事件であるため情報が限定的だが、条件が揃わなければ元女子大生より重い判決になる可能性さえあるのだ。

 そして、無灯火(しかもライト無装着)は情状として厳しい。元女子大生の判決との整合性を考えると、公判請求された場合、罪を軽くするため弁護人にはある程度の説得力がある「ひねりを入れた論旨」が必要になる。

「目をつむって運転」と同じ

 警察庁によると、昨年1年間にスマホなどを含む携帯電話を使用していた自転車事故は明らかになっているだけで全国45件発生。統計を取り始めた2007年の13件から3倍以上に急増した。

 内訳はSNSやポケモンGOなどのゲームによる「画面の注視」が29件で半数以上、次いで通話で4件、着信に対する反応で11件――などだ。筆者も調べたが、最近では東京都豊島区で5月、自転車で電動車いすの50代女性をはね、首の打撲で1ヵ月の重傷を負わせ重過失致傷で10代の男性を書類送検したケースなど、自転車のスマホ運転による事故は珍しくもないことが分かった。

 一方、自転車だけではないが、東京消防庁ではスマホが関わる事故による救急搬送件数が急増している。「自転車」「歩きながら」で取った統計では年々、上昇傾向にある。自転車と同じぐらいに危険なのは鉄道駅で、階段やホームに突き落とされたり、足を踏み外して転落するケースだという。いずれも命の危険に直結しかねない事態だ。

 元警視庁捜査2課刑事で現役時代は主に贈収賄を手掛け、引退後は交通安全協会などで若手巡査を指導する元警部補に以前、話を聞いたことがあった。映画やドラマ「踊る大捜査線」で故・いかりや長介さんが演じた和久平八郎みたいな立場と言えば分かりやすいだろうか。

 実際に、ながらスマホで自転車運転をやってみたらしい。「怖いぞ。目をつむってんのと同じよ」。視野は「気配」以外、分からなかったそうだ。結果、警察の施設内で人生初の“重大事故”を起こしていた。右肩に青あざと擦り傷が残っていた。

 「前科1犯、元大学生」の無職女性は公判で、大学で保育士の資格を取り、社会の役に立ちたかったと夢を語っていた。「そんな悪いことだと思わなかった」という軽はずみな行為は人命を奪い、自身の将来を絶望的なものにしてしまった。

 そして「勉強は続けたかったが、人の命を奪って人の命を預かるような仕事はできない」と声を震わせた。

 この元女子大生の後悔と慟哭が、無自覚で無防備な方々に伝わるよう、そして教訓になるよう、心の底から切に願う。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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