14年続くソーシャル・ネットワーキングサービス「mixi」や大人気のスマホゲームアプリである「モンスターストライク」の開発・運営を手がける株式会社ミクシィ。そんなIT企業が千葉ジェッツやFC東京のスポンサーとなり、スポーツの世界へ足を踏み入れました。なぜミクシィはこの市場に参入したのか。
構想する渋谷という地域を巻き込んで成し遂げたい展開やスポーツビジネスに参入する意義、そして2020年の東京五輪について、ミクシィの木村こうき代表取締役社長執行役員に伺いました。
JリーグやBリーグとも協力の姿勢を
――将来的に、スポーツを通してどのようなことを成し遂げていきたいとお考えでしょうか。
近い将来でいえば、スタジアムやアリーナに様々なシステムを導入することで、スマートスタジアム化を図っていきたいです。また、選手のセカンドキャリアの問題を解決していきたいと考えていて、それに対するアイデアもいくつかあります。
特にチケットの電子化はすぐにやるべきではないでしょうか。座席に飲食物を届けるサービスも、システムを介してできるはずです。
また、スタジアムやアリーナにおけるホスピタリティーにも興味を持っており、FC東京や千葉ジェッツと話は進めています。チームだけでなく、今後はJリーグやBリーグとも協力していく意向です。
――JリーグとBリーグの両方をサポートしている中で、違いをどこに感じますか?
Bリーグのほうが規模が小さいということもあり、身軽な印象はあります。アリーナスポーツなので、屋根がある分、映像や音を使った演出は面白いことがやりやすいのではないでしょうか。
Jリーグはすでに歴史があるので、既存のファンやサポーターと対話していく必要があります。ただ、そればかりに耳を傾けすぎると、新規のお客さんを取り込めなくなってしまう可能性が出てきます。そのバランスを上手く取っていかないといけません。
――渋谷にFC東京の拠点を構えるという一部報道も浮上していますが、地域戦略の部分はどのように考えていますでしょうか?
渋谷は私たちミクシィのホームタウンでもあるので、渋谷区とも議論しながら、スポーツで街を盛り上げていければ良いと思っています。
ただ、渋谷だけにとらわれているわけではありません。千葉ジェッツが本拠地としている千葉も盛り上げていきたいと考えています。何かを盛り上げる時には自治体との対話は欠かせないので、協力し合いながら進めていきたいです。
スタジアムやアリーナの“居場所”化。そして東京五輪、2025年へ
――近年は様々な企業がスポーツビジネスに進出していますが、どのようにお考えですか?
スポンサーやオーナーの顔ぶれの変化は、時代を象徴していると思います。私たちも含めて、メルカリや楽天、ライザップなどスポーツビジネスに進出していることは、新興企業の勢いを表していますし、サッカー界にはそういった雰囲気が感じられるようになってきています。
それによって、みんなでスポーツをバリューアップしているという感覚も出てきますし、同業のネットワークの中で共通話題ができるという効果もあります。メルカリの小泉文明社長は、もともと私たちのCFOですが、鹿島アントラーズとFC東京の試合を一緒に見に行こうという話もありました。
企業間のコミュニケーションとしても、スポーツは有効だと思います。
――スポーツ現場の問題点はどこに感じていますか?
観客目線でいえば、観戦する環境はもっと良くしていくべきだと考えています。座席の見やすさもそうですし、もっと余韻に浸って帰れる場所になっても良いのではないでしょうか。試合が終わってパッと帰るのでなく、試合後も余韻に浸れるような環境にすれば、よりスタジアムやアリーナが居場所として使ってもらえると思います。
選手やチームの目線でいえば、十分な控え室やクラブハウスがないように感じられます。施設も充実していくことで、もっと憧れられる業界に変えていけるはずです。
――千葉ジェッツは、演出という面に関しては進んでいると感じられるのではないでしょうか。
千葉ジェッツはアリーナのショーアップにこだわっていると感じられます。北習志野という街にある船橋アリーナで、毎回5000人近くが入っているのはすごいことです。3月にはXFLAGスタジオの冠試合にきゃりーぱみゅぱみゅさんが出演してくれました。今後、船橋アリーナを規模を拡大することがあれば、私たちにもできることはあると考えています。
――海外のスタジアムやアリーナの事例を参考にしたいとは考えていますか?
海外のスタジアムは至るところにテーブルがあって、大きな酒場のように見えます。中にはそこまで真剣に試合を見ていない人もいますが、集いの場として機能している印象がありますし、日本も見習うべき点はあるはずです。
――木村さんご自身は、スポーツのファンをどのように増やしていきたいと考えていますか?
私たちはファンを解体したいと考えています。最近のスポーツ界は、興味や関心がチームに傾きすぎていて、コアな観客ばかりになってしまっている印象はあります。
私たちはそれを「コア化」と呼んでいますが、コアなファンでなくても友だちや家族と楽しめる場所になれば良いですし、スタジアムやアリーナをコミュニケーションの場として活性化していきたいです。
――コアなサポーターばかりが集まると、新規のサポーターが応援席に行きづらくなるという現象も生まれてきそうです。
一見さまお断り感という雰囲気も出てきてしまいますし、アウェイサポーターにも「ここから先は入らないでください」という緩衝帯がありますよね。事情は分かりますが、エンターテイメントとして楽しむ立場としては、すこし怖さを感じてしまいます。
チームがさらに強くなっていく過程では、新規の観客が必ず必要になってきます。幸福の総和という意味でも、もっとオープンな環境になっていくべきではないでしょうか。
――2020年には東京五輪があります。その中で日本のスポーツ界を盛り上げていきたいという想いもあるのではないでしょうか。
東京五輪はもちろんですし、「日本再興戦略 2016」では、2025年までの政策目標として、スポーツ産業市場規模を15兆円に引き上げようという話もあるので、その目標にも関与していきたいです。
今後もスポーツを通じた様々な取り組みを行っていくので、ご期待いただければ幸いです。
株式会社ミクシィ 木村こうき代表取締役社長執行役員
電気設備会社、携帯コンテンツ会社等を経て、2008年株式会社ミクシィに入社。ゲーム事業部にて「サンシャイン牧場」など多くのコミュニケーションゲームの運用コンサルティングを担当。その後モンスターストライクプロジェクトを立ち上げる。 2014年11月、当社執行役員就任。2015年6月、当社取締役就任。 2018年4月、当社執行役員スポーツ領域担当就任。(現任) 2018年6月、当社代表取締役就任。(現任)