インテルとAMDではTDPの定義が違うため
AMDの方がやや数値が大きくなる
さて、3つ目の質問であるがインテルとAMDではTDPの定義が違うのか? であるが、これはその通り、という答えになる。
先にインテルのTDPの定義の中に「インテルが定義する複雑なワークロードを実行した場合」という文言が入っていたが、インテルはこの定義を公開していない。
ではAMDは? というと、以前はTDP=最大消費電力であった。資料が古いが、K10ベースのOpteronのPower and Thermal Datasheetからの抜粋である。
OS1352WBJ4BGH(Opteron 1352:クワッドコア、2.1GHz駆動のOpteron 1P)のTDPはシングルプレーンで114.1Wとされるが、電圧は1.15~1.25V、電流は89.8Aとなっており、掛け算すると103.27~112.25Wということで、TDPはこの最大値を超えるところに設定されているのがわかる。
画像の出典は、“AMD Family 10h Server and Workstation Processor Power and Thermal Data Sheet”
もっともK8、つまり65nmプロセスのBarcelona世代で、あまりに消費電力が多いということで2007年頃にAMDはACP(Average CPU Power)なる定義をひねり出したものの普及せず、そうこうしてる間に45nm世代のShanghai世代で大幅に消費電力を減らせたため、再びTDPに戻ったという経緯もある。
では最近はどうだろうか? Ryzenのデータシートが公開されていないので断言できないのだが、基本的には「最大消費電力≒TDP」路線を踏襲しているようだ。したがって、インテルと比較した場合、AMDの方がややTDPの数値が大きくなる傾向があるのは間違いない。
もっとも設計者からすると「TDPが大きい=より大きな冷却能力が必要」とうわけで、特に昨今のノートPCのように、ぎりぎりまで追い込んだ設計をしたいというケースでは、もう少し現実的な数字がほしい、という要望が当然あがることになる。
これを受けて、2013年頃にはSDP(Scenario Design Power)なる数字を使っていたこともあった。ある特定のアプリケーションを動かすというシナリオに沿って利用した場合、どの程度の消費電力になるかを示したものだ。ただし、これもACP同様、あまり広く利用されずに終わってしまった。
以上のことから、インテルとAMDのTDPの間には、依然としてギャップがある(AMDの方が数字が高め)、ということは念頭に置いておいたほうがいいだろう。
この連載の記事
-
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ