フィンランドの首都・ヘルシンキのバーチャルマップを制作するプロジェクトが行われている。これはフィンランドの行政と3Dコンテンツを手がけるUmbra社が共同で取り組んでおり、約78平方キロメートルという面積を3Dモデルにする計画が進行中だ。
ヘルシンキの3Dモデルは、2015年から航空写真を用いて制作が続けられてきた。その理由は昨今アメリカのシリコンバレーなどを中心に話題となっている「ARクラウド」。一言で説明すると、「現実世界のデジタルなコピーを作り、それを基盤にして、AR(拡張現実)をより正確かつ複数人数で同時に体験できる」ようになる技術だ。現在もGPSによって現実の位置測定等はある程度の精度で可能になっているが、将来ARクラウドが実現した際には、スマートフォンのカメラを向けるだけで、AR機能を使い、対象の情報を現実に重ねられるようになるとされている。例えばあるモニュメントや看板にデバイスを向ければ、ARアプリが関連する情報を教えてくれるというわけだ。
ではなぜこれを行政が主導するのかと言えば、それは「ARクラウドの独占」が起きないようにするためだ。仮にひとつの企業がこれを独占すると、ARアプリの情報に莫大な影響を及ぼすことになる。行政側はARクラウドをオープンなものにしようとしており、ヘルシンキは作成中のデータについて、誰もがアクセス可能かつ、その3Dデータを利用したアプリの開発も可能にする予定だとしている。
当初は莫大なデータ量という問題に突き当たったものの、Umbra社と協力することで素早く巨大なデータを処理できるようなシステムを作り、プロジェクトは着々と進行している。Umbra社のUmbra社の戦略責任者、Shawn Adamek氏は「我々は、都市の3Dスキャンデータをきちんと公開している。その都市や開発者にデータの所有権を与え、自社でデータを使ったりライセンス提供したりはしない」と、行政側の意図を忠実に守っているようだ。
昨今はアップルやグーグルのスマートフォンにおけるAR機能の実装や拡張に関する競争もあり、ARには投資家からも熱烈な視線が集まりつつある。このような状況下でヘルシンキの取り組みが実を結ぶのか、じっくりと見守っていきたい。