このページの本文へ

業務を変えるkintoneユーザー事例 第36回

「kintoneファーストでがんばればなんとかなる」

“口だけ”と言われた星野リゾートの情シスが3ヵ月で決済システムを作った話

2018年07月24日 09時00分更新

文● 柳谷智宣

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 2018年6月14日に開催されたkintoneのユーザーイベント「kintone hive tokyo」。事例発表のトリを務めたのが、星野リゾート グループ情報システム 前田文子氏。テーマは『「やるやる詐欺」の情シスが3ヶ月で作った海外マーケット用決済システム』だ。

3ヶ月くらいと答えた上司は会議で黒焦げに

 星野リゾートは1914年長野県軽井沢の温泉旅館として開業。104年の時を経て、2018年現在はホテル・旅館の事業会社として経営を行なっている。運営している拠点数は、国内が35ヵ所、海外が2ヵ所の37拠点となる。

 前田氏は2013年8月に星野リゾートに入社。その時は、嵐山にある「星のや京都」に配属され、3年ほど接客業務に携わったそう。客室の清掃からフロントのチェックイン業務、夜は夕食のサービスやバーでウイスキーを作ったりしていたという。その後、2017年12月に情報システム部門に異動した。

星野リゾート グループ情報システム 前田文子氏

 星野リゾートは運営施設にスタッフのノウハウを提供するビジネスモデルで、売上はオーナーに渡し、その中から運営費をもらうという仕組みだ。そして、その集客のために、いくつかの予約チャネルを利用している。自社サイトに加えて、一休やじゃらん、楽天といった予約サイト、電話、旅行代理店経由などがある。

 「この自社の予約サイトの利用率が上がっており、施設によっては6割を超えるほどになってきました。このサイトは、星野リゾートの宿泊施設を予約できる専用のサイトで、私たち情報システム部が運営しています。さらに、獲得率を上げるために弊社のマーケティング担当から、使い勝手を改善したり、機能を追加したい、という要望が我々に寄せられました」(前田氏)

 しかし、前田氏が異動した時は、会社の施設数がどんどん増えていっており、情報システム部はマーケティング部門の要望に応えられないほど忙しい状態にあった。情報システム部にはたったの5人しかおらず、社内の人事、労務、経理、予約サイトの運営、新しい施設のPCの設定、ネットワークの整備など、すべての業務をカバーしようとがんばっていたのだ。そんな時、「やるやる詐欺事件」が発生してしまう。

マーケティング担当から自社の予約サイトの改善や機能追加を求められる

 マーケティングの担当者から「予約サイトにこの機能を入れられますか?」と言われ、情報システム部の担当者は「(工数は)3ヵ月くらいです」と応える。もちろん、システム開発は着手してから3ヵ月かかるのだが、一般の人はこの会話の後から3ヵ月後には完成していると思ってしまう。これは、ほかの会社でもよく起きるあるある事例だ。しかも、このときの情報システム部はいつから着手できるのかさえわからない状況だった。

 「予約サイトの拡張や機能の拡大は売上をあげるために必要な機能なので、会社の獲得戦略としても大切なものでした。しかし、お願いされた機能追加がまったくできず、マーケティングの不満が溜まっていくことになります。それが、とうとう星野代表の耳に入り、ある会議で上司が詰められて黒焦げになってしまいました。その時から、我々はやるやる詐欺と呼ばれるようになってしまいました」(前田氏)

銀行振り込みの機能を3ヶ月で開発せよ

 なんとかしないと、と異動してきたばかりの前田氏に「依頼された機能を3ヵ月で入れるように」と指示が飛んできた。その機能とは、予約サイトに銀行振り込みで事前決済をするというもの。情報システム部が運営している予約サイトは個人向けと代理店向けの2つがあり、代理店向けサイトがカード決済だけだと限度額の問題が発生してしまう。そのための銀行振り込み機能が求められたのだ。

 前田氏はまず予約サイトを開発・運営していたところに見積を取ったところ、12人月かかりますと言われてしまったそう。3ヵ月という期限には到底間に合わない。そんな時、上司がkintoneの役割を増やしてはどうか、と言ってきた。

 当初は、予約システムと請求書を自動で発行してくれる「MFクラウド」をつなげて、請求書をエージェントに送ろうとしていた。kintoneには、システムをログを溜めておく程度と考えていたのだ。

 「ただ、今からまたシステムの構成を変えるの!? と正直不安でした」と前田氏。上司が考えていたのは、予約システムと「MFクラウド」が直接つながらず、kintoneを介すようになった構成だった。この形であれば、手間のかかる予約システムの改修が不要になるのでは、と考えたのだ。

当初開発しようとしていたシステム図

kintoneの役割を増やしたシステム図

 「この図を持って、以前別の案件で仕事をしたジョイゾーさんに相談しに言きました。そうしたら、ちらっと図を見て、「多分大丈夫かと思われます」とおっしゃってくださったんです。それでほっとして、お願いすることになりました」(前田氏)

kintoneファーストで伝えておきたい3つのこと そして新たな挑戦へ!

 そして3ヵ月後にシステムは無事完成する。予約システムが取った顧客情報がkintoneアプリに自動で書き込まれ、必要な情報をMFクラウドに飛ばすことで、自動で請求書が作成される。MFクラウドから入金があったときの消し込みもこのアプリに登録されるようになった。

前田氏が作った予約ステータスの管理アプリ

 「カンカンに怒っていた代表も、システムをリリースすると「本当に待ってた」と言ってくれて、心が少し軽くなりました。また、このアプリをリリースしたらすぐにフィードバッグがあり、たった1ヵ月でさらに拡張することになります。経理からは突合の精度を上げてくれればたくさんの施設で銀行振り込みを展開できると言われ、代理店さんからは請求書がわかりづらいので修正してほしいと言われました」(前田氏)

 再度、ジョイゾーの協力を仰ぎ、アプリを追加した。もともと予約情報が入っているアプリに対して請求書を作るアプリを作成し、突合精度を上げるために仮想口座番号アプリも作った。なんと、フィードバッグをもらって1ヵ月でリリースしたという。

経理や代理店の要望に合わせ、さらにブラッシュアップした

 「いろいろな施設に銀行振り込み機能を入れたことで、どんどん予約数が増えています。これで、やっと代表から「いいね」と言われまして、ほっとしております。今回の事例で紹介したいことは3つあります」と前田氏。

 1つ目が、短期間でシステムを作るためには、kintoneファーストがいいのではないかということ。kintoneはほかのシステムとつながりやすい特徴を持っており、3ヵ月という短期間で銀行振り込み機能を作ることができたという。

 2つ目が、要件が不確定な案件にもkintoneファーストなら対応できるということ。リリース後すぐに機能拡張の依頼が飛んできても、即応性が高いkintoneの特徴を活かして、1ヵ月で対応し、結果として、代理店と経理のユーザービリティーを担保できたのだ。

 3つ目が、ユーザー自身がシステム開発に参加できたこと。複数のシステム間をつなぐ部分はジョイゾーなどのプロに任せ、前田氏はアプリの作り込みを行なった。業務のことを一番わかっているのは、当然現場にいる前田氏。プログラミング技術はなくとも、システム開発の役割の一翼を担えたのはkintoneならではというところ。

 「一難去ってまた一難。頼りにしていた『MFクラウド消込』サービスが秋に終了することになりました(笑)」と前田氏は笑いを取った。しかし、短期間でシステムを開発できるkintoneファーストを掲げる前田氏は、最小限の動揺で済んだという。kintoneファーストで頑張ればなんとかなると、どっしり構えられるようになったのが、今回kintone開発をしてよかったポイントだそう。

kintoneでシステム開発する3つの大きなメリット

 「このように星野リゾートではkintoneを業務に活用しておりまして、社内で作ったアプリは700個くらい。これからも、kintoneを核に置いて新しい業務を作ったり業務を改善しようとしています。一緒にお仕事をしていただける仲間、パートナー様を募集ししています」(前田氏)

会場にいるパートナーを紹介する前田氏と、サイボウズの伊佐政隆氏

 12人月の見積だったプロジェクトを3ヵ月でサクッと終わらせて、改修も1ヵ月のスピード対応。kintoneファーストを掲げる星野リゾートの情報システム部はこれからどんどん活躍していくことだろう。

カテゴリートップへ

この連載の記事