ネットギアの10ギガNAS+スイッチで中小オフィスでも快適なファイルサーバーを(後編)
10ギガNAS環境の実力を480回のベンチマークで調べてみた
2018年05月18日 08時00分更新
前回記事では、ネットギアの10ギガビットEthernet(10GBASE-T)対応NAS「ReadyNAS 524X」と10ギガアップリンクスイッチ「GS110EMX」の組み合わせで、小規模オフィス向けの安価な“10ギガNAS環境”が構築できることをご紹介した。10万円はオーバーしてしまったが、15万円の予算ならば十分に収まるという結論だった。
だが、一般的な小規模オフィスに敷設されているネットワーク(有線LAN)環境は、まだまだ1ギガビットEthernet(1000BASE-T)が主流だ。「ほんとうにコストをかけてまで10ギガNAS環境にする価値があるのか?」「実際どれほどの実力があるのか?」と疑問に思う読者もおられるにちがいない。
そこで今回の後編記事では、実際にReadyNAS 524XとGS110EMXの組み合わせ環境を用意してベンチマークテストを実施し、10ギガNAS環境がどの程度の効果を持つものかを調べてみたい。
さまざまなパターンでReadyNASへのファイルコピー時間を計測、比較
今回のベンチマークテストで知りたいのは、NASとスイッチを「1ギガで接続した場合」と「10ギガで接続した場合」の差だ。それを具体的に示すために、以下に挙げるパターンを切り替えながら「PCからReadyNASにファイルをコピーする(書き込む)秒数」をそれぞれ計測し、その差を調査する。
○コピーするファイル容量:3パターン(500MB/1GB/3GB)
○ReadyNASとスイッチの接続:2パターン(1ギガ/10ギガ)
○同時アクセスするPC台数:2パターン(1台/4台)
テストに使用するWindows PCは、社内で借りてきた4台のノートPCだ。ネットワークインタフェースはいずれも1ギガ対応(1000BASE-T)だが、業務で使われていた中古PCでありメーカーも搭載CPU/メモリ量もOS(Windows 7または8.1)も違うので、それぞれのコピー秒数にはかなりばらつきがあるはずだ。そこで各PCを「マシンA~D」と名付け、マシンごとに結果の変化を見ていく。
さらに、それぞれのパターンでファイルコピーが1回だけだと、何らかの理由で「たまたま遅くなった」ケース(PC上で別のシステム処理が動いていた、パケットロスが生じたなど)に大きな影響が出てしまう。その影響を抑えるために、各パターンで10回ずつファイルコピーを実行し、最も速い/遅い2回を除く8回の平均値を求めることにした(以下、この平均値を「コピー秒数」とする)。
これにより、合計で480回のベンチマークテスト(ファイル容量3パターン×NAS接続2パターン×同時アクセス2パターン×コピー10回×PC4台)を実行することになった。なかなか大変だ。
悲しいかな、作業をするのは筆者1人なので、コピー秒数を正確に計り、なおかつ4台のPCで同時にコピーも開始できるように、ReadyNASへのファイルコピーと秒数計測/ログ記録を行うバッチファイルを作成して各PCに配置し、1台のマスターPCからリモートで(WindowsのPsExecを使って)各PC上のバッチを実行することにした。
テスト:ReadyNASとスイッチの接続を1ギガ/10ギガで切り替えると?
それではベンチマーク結果を見ていこう。まずは、ReadyNASとスイッチを一般的なオフィスネットワークと同じ1ギガで接続し、1台のPCだけでコピーを実行してみた。
前述したとおり、マシンA~Dのスペックはばらばらなので、コピー秒数にも大きな差が出た。ここでは大まかに「マシンAとCは遅い」「マシンBとDは速い」ということを確認しておいてほしい。
ちなみに、各マシンでコピー秒数(平均を取った8回)のばらつきを示す「標準偏差」を計算してみたところ、おおむね1.0未満だった。コピー秒数が長くなるとばらつきも大きくなるが、筆者が事前に予想していたほどではなく、そこそこ信頼できるテスト結果になりそうだ。
続いて、ReadyNASとスイッチを10ギガ接続に切り替えた場合のコピー秒数を計り、1ギガ接続の場合と比較してみる。ReadyNASと接続しているスイッチのポートを、1ギガから10ギガにつなぎ直しただけだ。
そもそもPCとスイッチは1ギガ接続なので、理論的には1台だけがアクセスするならばNASとスイッチの接続回線(リンク)が1ギガ接続でもボトルネックになることはなく、ここを10ギガ接続に変えても結果は変わらないはずだ。
実際の計測結果を見ても、ほとんどのケースで1ギガ接続と10ギガ接続のコピー秒数はほぼ変わらなかった。ここまでは理屈どおりの結論だ。
※注:なお、マシンAで3GBファイルをコピーしたテストケースのみ、1ギガ接続よりも10ギガ接続のほうが大幅に遅くなっている。10ギガ接続時の10回のテストを精査すると、最速回が74.64秒、最遅回が269.10秒、残る8回の標準偏差も38.29と極端なばらつきがあった。また、1ギガ接続でも標準偏差が11.39と高い。断言はできないが、このマシンの内蔵ドライブやメモリ容量(キャッシュ)の構成が、3GBの大容量ファイルを扱ううえで悪影響を及ぼしている可能性がある。
テスト:4台のPCでReadyNASに同時アクセスすると?
それでは、4台のPCが「同時に」ファイルコピーを行うとどうなるだろうか。これもさまざまなパターンを切り替えながらコピー秒数を計測して、その差を見てみよう。まずはReadyNASとスイッチを1ギガで接続して、さきほどの1台のみの結果と4台同時にコピーした結果とを比較してみる。
当然だが、全体に1台のみの場合よりもコピー秒数は長くなっている。特に、速いマシンであるマシンB、Dでその影響が顕著だ。もともと遅いマシンA、Cもコピー秒数が長くなっているが、マシンB、Dほどの影響ではない。
その理由を考えてみると、やはり「ネットワークのボトルネック」ということになる。前述したとおり、1台のみがアクセスする場合はReadyNASとスイッチ間が1ギガ接続でもボトルネックにはならなかった。だがPC4台(1ギガ接続×4)が同時アクセスすれば、1ギガの帯域では間に合わず、データ転送の待ち時間が生じる。
特に、先にコピー処理が終わる速いマシンB、Dは、コピー処理の間ずっと遅いマシンA、Cのトラフィックに影響されるため、影響がより顕著に出たわけだ。せっかく速いマシンを導入しても、ネットワーク内の遅いマシンに引きずられて処理が遅くなるというのはかなり残念だろう。
では、10ギガ接続に切り替えてみるとどうなるだろうか。このとおり効果はてきめんである。
ボトルネックが解消されて、どのマシンでも1台のみの場合と変わらないスピードでコピー処理が終わっている。速いマシンB、Dが遅いマシンに引きずられて遅くなることもない。これならばイライラすることなく快適に業務ができそうだ。
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以上、今回は10ギガNAS環境の効果を簡易的なベンチマークテストで調べてみた。正直なところ、テスト前は「PCがたった4台のSOHOレベルの環境だと、10ギガ接続の効果は出ないのでは?」と疑っていた筆者だが、実際には明確な効果が出た。PCの台数がさらに多ければ、ReadyNASへの同時アクセスの確率も高まるので、その効果もさらに実感できるだろう。
特に、高速なマシンほどその恩恵を受けられる(ほかの遅いマシンによる“巻き込み被害”を受けにくくなる)という点は面白い発見だった。大容量ファイルを扱うために高速なマシンを導入しても、ネットワークが従来のままだと、実は少しずつ損をしているかもしれない。ぜひとも10ギガNAS環境の構築を検討すべきだろう。