最新ユーザー事例探求 第50回
“データドリブン”へのチャレンジ、グループのデジタルメディア事業を支えるTXCOMに聞く
テレビ東京グループのネット/データ戦略強化に「Talend」採用
2018年05月14日 07時00分更新
「テレビ業界はそもそも“オフライン”の産業だったので、番組視聴率以外のデータを活用して何かをやるという文化がありませんでした。ただ、現在はデータドリブンな動きになってきています」
テレビ東京コミュニケーションズ(以下、TXCOM)は、テレビ東京グループのインターネット/デジタルメディアの事業開発と運営を手がける企業だ。テレビ東京およびBSジャパンが放送する各番組の公式Webサイトや連動サービス、ソーシャルメディア、ハイブリッドキャストなど、同グループのインターネット/モバイルサービスを一手に支えている。
段野氏が所属するTXCOMの動画ビジネス部では、動画配信ビジネスにかかる企画提案/システム開発/運用を行っており、その主たるサービスは見逃し番組配信サービス「ネットもテレ東」である。これは番組放送後の1週間、バラエティやドラマの人気番組を、PCブラウザやモバイルアプリから無料で観られるサービスだ。段野氏は2015年4月のサービス開始前から、そのシステム開発に携わってきた。
「テレビ東京グループでは、地上波/BS/ネット配信を事業戦略の“3本柱”と考え、トップメッセージとしてグループ全体で意識を共有しています。ネットに注力していくという姿勢は、他のテレビ局よりも明確ではないかと思います」
なおテレビ東京グループでは、「ネットもテレ東」以外にもアニメ番組の配信サービス「あにてれ」や、経済ニュース/経済番組を配信する「テレビ東京ビジネスオンデマンド」といった有料ネット配信サービスを展開している。こうしたサービスのシステム運用も、TXCOMが担っている。
ネット番組配信を通じて「テレビの広告価値を高める」には
「ネットもテレ東」は、番組を無料で視聴できる代わりに本編開始前には広告主が提供する広告映像(CM)が流れる、つまり広告配信モデルのサービスだ。ただし、テレビとまったく同じビジネスモデルで展開しようとしているわけではないという。
段野氏によると、ネットでの番組視聴件数は毎年1.5倍のペースで伸び続けている。それでも現状はまだ、テレビのほうが圧倒的に視聴者数も広告売上も多い。段野氏らのミッションは、さまざまなネットサービスを通じて「テレビの広告価値を高めること」であり、無料のネット配信サービスも、番組のファンになってテレビで観てもらうためのきっかけづくりという色合いが濃い。
そうした背景もあり、テレビ東京グループでは番組配信において「マルチプラットフォーム戦略」を取っている。自社で運営する「ネットもテレ東」に加えて、ニコニコ動画、GYAO!、TVerと、合計4つのプラットフォームを通じて無料配信を行うことで、なるべく多くの視聴者との接触を持とうという戦略だ。
その一方で、ネットならではの長所を生かした戦略も考え、徐々に実践を始めている。具体的には、さまざまなデータの取得と分析によって、これまでのテレビ視聴率調査よりも詳しい視聴者像(属性)を明らかにし、広告価値を高めるというものだ。段野氏は「(ネット配信では)広告の再生数を増やすだけでなく、その単価を上げることも重要です」と語る。
そしてこの取り組みは、ネット広告の価値だけでなくテレビ広告の価値にもプラスの影響をもたらすという。これまでのテレビ視聴率調査だけではわからなかった詳細な番組視聴者像をつかむことができれば、テレビ広告枠の価値も高められるわけだ。
「たとえば、『ネットもテレ東』で配信している経済系3番組(『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』『カンブリア宮殿』)の視聴者像について、TXCOMで取得したデータと外部データとのマッチングによって『企業の役職者が約6割』という分析ができました。これまでは『推測』でしかなかったものの裏付けが取れ、そうした視聴者にアプローチしたい広告主も多いわけですから、動画広告のセールス資料にも記載しました」
毎日のレポート集計は手作業で1日がかり、マルチプラットフォームの悩み
このように段野氏らは、実践的な取り組みを通じてテレビ東京グループのデータドリブンな動きを促し始めている。ただし、取り組みを始めた当初は困難な場面も多々あったという。
2015年4月、「ネットもテレ東」がサービス提供を開始し、GYAO!やニコニコ動画での動画配信も始まった。システム運用に当たる段野氏らは、各番組の視聴数データを収集して、社内向けレポートを毎日まとめることになった。
「総合的な判断をするために、各プラットフォームからデータを集めて一元化する必要がありました。ところが、プラットフォームごとにデータのフォーマットやデータ更新の頻度、更新のタイミングが違います。そもそもデータを取得する手段も、FTP、Web管理画面、メール通知、API経由とばらばらです。それに加え、広告再生数のデータは別途アドサーバー(広告配信サ-バー)から取ってくる必要がありました」
データの取りまとめ作業は段野氏ともう1人の担当者が交代で行っていたが、手作業のため丸1日がかりの作業となってしまい「昨日の結果(視聴数)が夜になってようやくまとまる」(段野氏)ような状況だった。社内レポートとして鮮度が落ちるのもさることながら、手作業のため集計ミスが起きやすく、何よりこの作業にばかり時間を取られてほかの重要な業務を進めることができない。
この問題をなんとかしたいと考え、段野氏らはいくつものETLツールを検討し、2015年夏に「Talend Open Studio for Data Integration」を導入した。Talend Open StudioはオープンソースのETL/データ統合ツールで、ダウンロードすれば無償で使える。Talendを選択した理由について段野氏は、「当社のやりたいことに最もマッチしていた」ためだと語る。
「当時はまだネット配信事業の立ち上げ時期であり、大きなコストをかけられる状況ではありませんでした。なるべく導入コストが抑えられる、できれば無償で使えるツールが必要だったのです。加えて、データの取り込みジョブやデータフローがGUIで作成、可視化できること、他システムにアクセスするためのコンポーネントが豊富に用意されており、追加コストなしで使えることも評価しました。Javaのコードを書けばコンポーネントを開発できますので、標準のもので対応できなくても『なんとかなるだろう』と考えました」
導入当初は参照する開発ドキュメントが英語のものしかなく、Talendの“お作法”のようなものもわかっていなかったため、なかなか開発効率が上がらなかった。それでも使い続けるうちに理解が進み、独自コンポーネントの開発なども効率的にできるようになってきたと、段野氏は語る。
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