2017年の運用型広告を振り返ってみると、AI(および機械学習)、アトリビューション、プライバシー保護、薬機法や景表法と言った法律の遵守などさまざまなトピックが話題となった1年でした。
運用型広告の運用者にとっても機械学習の精度が上がったことで、入札の作業より、クリエイティブや戦術を練る、または目標達成のための戦略立案に携わることのほうが多くなってきたのではないでしょうか(役割にもよりますが、むしろ、2018年のこの時点でその実感がない場合は時代に乗り遅れてしまっている可能性が高いです)。
テクノロジーの進歩によって運用型広告の運用も進歩した2017年から2018年に移り変わりましたが、本年はどんなことが起きそうか、また、運用者としてどのように向き合っていくべきかを考えてみました。
テクノロジーに寄り添えさえすれば成果が出し続けられる?
前段でも触れたテクノロジーの進歩のお話です。
自動入札では人が把握しきれないデータやアトリビューションを踏まえてくれますし、ユニバーサルアプリキャンペーンやスマートディスプレイキャンペーンではアセットを登録すればすべて自動的に動いてくれます。ショッピング広告や動的検索広告もキーワードの追加が不要になっています。これらをうまく活用さえしていればこの先の広告成果も安泰だと思ってらっしゃる方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
本当にそうなのでしょうか? 2017年の動向から考えてみます。
広告は広告ではないものから影響を受け始める
薄々感づいている方もいると思いますが、2017年を振り返ってみると、実は2017年にはすでにテクノロジーだけでは解決できない問題が発生してきています。それは、インターネットユーザーのプライバシー保護、法令、スキルセットやインフラといったものです。
1.ユーザーターゲティングvsプライバシー保護
2017年9月に提供されたmacOS High SierraやiOS11に搭載されたSafariに搭載されたITP(Intelligent Tracking Prevention)機能によって、コンバージョンの計測に漏れが発生するというのは記憶にも新しい話題です。
参考:Google アドワーズ、SafariのITP機能の影響下でも、より正確に計測できる3つのコンバージョン計測方法を発表|アナグラム株式会社
ITP機能はデバイス側でしかも個別に働くものですので、広告プラットフォーム側での対応が必要で、広告主や運用型広告運用者では何もできないという構図となりました。これに対してはいち早くGoogleが対処し、他のプラットフォームやツールベンダーも順次テクノロジーを使って対応してきています。
しかし、テクノロジーの進歩は激しいという点で見ると、ITPに対する対策の対策が出る可能性だってあるわけです。プライバシー保護の機運が更に高まってくればくるほど、ITPに代わる保護機能が出てくるのは容易に想像できます。それがいつで何なのかはまーったくわかりませんが。
ITP機能が実装された背景でお話しすると、「知らぬ間に、知らない誰かに、何かのデータのトラッキングがされるのが気持ち悪い」ということと「そのデータを使っていつまでも広告が追従してきてウザい」というものがチリ積になった結果なので、これはやりすぎた広告を出稿する広告主側や、ユーザー体験を壊すほどに広告枠を設置するメディアが放置されてきてしまったことにも一端があります。
運用型広告運用者としては、ITPのために一部のコンバージョンが測れなくなりました…だけではなく、背景から仕組みまでを理解した上で説明できるべきですので、こういったプラットフォーム外で広告に影響を及ぼしそうな技術や事項があればウォッチしておくことをオススメします。
ITPの導入によって広告運用は今後どのように変化するのか? についてコメントを寄せていますのでご参考くださいませ。
参考:ITPの導入によって広告運用は今後どのように変化するのか? 5人の識者に聞いてみた | Unyoo.jp
2.広告表現vs法令遵守
ビジネスによっては広告で謳える表現にルールが設けられているのは周知の事実ですが、とくに医療、健康食品、化粧品といった人の健康に関わる分野では、より厳しい目で見られるようになってきています。つまり広告文を考えて入稿する運用者は当然のごとく関連する法規は知っておくべきですし、知らなければなりません。
その他、トラブルになりやすい広告表現としては最低購入回数が定められている定期購入です。通常の価格よりも安い価格設定だったので購入してみたら実は定期購入だった、しかも最低3回は購入する必要があるというものです。ランディングページには当然その旨の説明はありますが、注意書きが小さいなどで読まれにくいケースも散見され、トラブルが絶えません。
定期購入の購入回数縛りが必ずしも悪であるとは思いませんが、ユーザーの見過ごしを狙うかのごとくの注意書き表示などは、消費者を欺いていると思われても致し方ない部分ではありますので、法令遵守しているからいいやという考えもよくありません。自分事に置き換えてみましょう。
参考:「お試し」のつもりが「定期購入」に!?第2弾-健康食品等のネット通販では、契約内容や解約条件をしっかり確認しましょう-(発表情報) 国民生活センター
これらのビジネスに携わる運用型広告運用者であれば、とくに次のガイドラインや法規は最低限おさえておきましょう。
- 医療広告ガイドライン
参考:医療法における病院等の広告規制について |厚生労働省 - 医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律(薬機法)
参考:医薬品医療機器等法の広告規制 東京都福祉保健局 - 不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)
参考:景品表示法|消費者庁
また、Yahoo!では審査に落ちてしまったがGoogleでは落ちていないので大丈夫! という気運が一部でまだ残っているように感じますが、Yahoo! の審査は基本的に国内法にも照らし合わせて判断してくれるケースが多く、ここで審査に落ちるということは国内法にも抵触している可能性が高いということがいえます。
対してGoogleはすべての広告を国内法にもとづいて審査をしてくれるわけではありません。ですので、Yahoo!でNGとなった広告やランディングページは、Googleの審査は通ったとしても、国内法には抵触している可能性が高いため、すぐさま掲載するのではなく、いったん再考すべきです。
参考:リスティング広告を配信する前にチェックしておきたい、 広告の不承認を防ぐためのポイントともしもの時の対処フロー|アナグラム株式会社
3.広告クリエイティブvsデータベース
ショッピング広告の商品フィード、動的検索広告のページフィード、動的リマーケティングや広告カスタマイザにおけるビジネスデータフィードなどデータフィードを活用した広告が台頭してきています。
特にショッピング広告や動的リマーケティングにおいて、広告のクリエイティブとなる要素はすべてデータフィードに含まれており、これらは管理画面で操作できるものではありません。つまり、これらの広告クリエイティブを変更しようとするならばデータフィードの修正が必要です。
データフィードには商品や求人情報や不動産、ホテルといったビジネスに欠かせない情報が集まったもの(マスターデータベース)を広告用に加工(中間処理)して活用します。マスターデータベースの構造は三者三様で広告主によって共通な構造であることはまずありません。同じ企業内でも部署が違えばデータの持ち方が違うケースだって珍しくはありません。
つまり、運用型広告運用者がデータフィード広告のクリエイティブを変更したい場合は、マスターデータベースや現在のデータフィードの構造までを理解し修正の指示まで行う必要があります。これは広告の運用スキルとは別なスキルセットです。
これからは、広告文を考えて入稿するだけではなく、マスターデータベースの情報を広告アセットのひとつとして捉えたときに、どのように活用できてどのように表現できるか? といった部分で運用型広告運用者が頭を使うケースが増えていくのは間違いありません。
参考:FeedTech2016:いま取り組むべきショッピング広告&動的リマーケティング、成果を出し続けるために必要なポイントとは? セミナーレビュー|アナグラム株式会社
最後に
ここまでお話してきた内容を総括すると、テクノロジーは万能薬ではないということです。もちろんテクノロジーによって作業が減ることはあるでしょう、と同時に、世の中の動きは人でないとできないことに価値がシフトしていきます。
テクノロジーによって空きができた時間を広告のプランニングに使うのも悪くはありませんが、広告に関連する周辺領域に対しても積極的に時間を割いていきましょう。これからはビジネスの理解だけではなく、(あらゆる)仕組みとルールの理解、広告運用のスキルを兼ね備えたT型人材が重宝される時代になります。
2018年は他の運用型広告運用者が持ち合わせていない分野を学ぶことで、運用型広告運用者としてのエッジが立つような行動を起こしてみてはいかがでしょうか。
おまけになりますが、2017年11月に社内向けに行ったプレゼンテーションの資料をSlideShareにアップしておきました。前述までの内容とほぼ同じなのですが、興味ある方はどうぞ。
※この記事は「運用型広告の運用者に伝えたい、2018年に起きるであろう3つのこと」の転載です。
タイトルおよびリード文はWPJ編集部によるものです。