Amazon Lexとの統合も発表、マイクロサービスで構築されたコンタクトセンター製品の強み
「AIと人間で最高のCXを実現」ジェネシスPureCloud担当幹部
2017年12月14日 07時00分更新
昨年12月にインタラクティブ・インテリジェンスの買収を完了したジェネシス。中堅企業向けコンタクトセンター/社内コラボレーションプラットフォーム「PureCloud by Genesys」を、製品ポートフォリオの大きな柱として成長させつつある。
今年8月、そのPureCloudの新しい最高責任者としてオリビエ・ジューブ氏が就任した。ジューブ氏は、IBM Watson IoTコネクテッド・オペレーション部門のバイスプレジデントを務めていた人物であり、就任時のコメントでも、AIなどの新テクノロジーを積極的に活用していく方針を語っていた。
今回は来日したジューブ氏に、PureCloud成長の要因や、コンタクトセンターにおけるAI活用などの将来戦略を聞いた(インタビュー実施日:2017年11月17日)。
マイクロサービスアーキテクチャ採用で、今年はすでに150機能を追加
――まずはPureCloudの、最近の業績について教えてください。
ジューブ氏:2017年度(2017年1月~12月期)のPureCloudは、これまでおよそ300社の新規顧客を獲得できている。つまり「1日1社」のペースで新規顧客が増えている。売上で見ると対前年度比で500%の伸び、サービスの利用数(ログイン数)は300%の成長を遂げた。さらに、今年度上半期の利用者数は1日およそ3万5000ユーザーだったが、11月になって4万ユーザーを超えている。
地域別に売上を見ると、北米とその他の地域でおよそ半々(50%ずつ)となっている。日本市場の売上シェアは10%だ。日本市場でも今年度、すでに25社の新規顧客を獲得した。
――大きな成長を遂げていますね。その理由はどこにあるのでしょうか。
ジューブ氏:ジェネシスでは(インタラクティブ・インテリジェンスの買収/統合を開始した)およそ1年半前からPureCloudを提供している。コンタクトセンター向けのクラウドサービスとしては“レイトカマー(後発組)”だが、それゆえに最新技術を盛り込むことができている。
そもそもPureCloudはクラウドネイティブなサービスとして、ゼロから開発されたものだ。単にオンプレミス向けソフトウェアをクラウド移行したものではなく、AWSを基盤に、マイクロサービスアーキテクチャを採用して開発されている。
――マイクロサービスアーキテクチャには、サービス開発のうえでどんなメリットがあるのでしょうか。
ジューブ氏:新機能をリリースするスピードを非常に速められることだ。PureCloudでは2017年度、これまでに150もの機能追加を行っている。コブラウズ(顧客とのWeb画面同期)、スクリーンシェアといった重要な機能もリリースした。
ジェネシスでは今年の始めに、競合するプロダクトとの機能比較を行っていた。たとえば競合の一社であるインコンタクトのプロダクトとは、その時点で20の大きな機能ギャップ(機能差)があったのだが、そのギャップはすでに埋まっている。
ジェネシスにはおよそ1200名の開発者がいるが、そのうち400名がPureCloud専任の開発者だ。おそらくクラウド型コンタクトセンター市場では最大規模の開発体制ではないか。アーキテクチャだけでなく、人員体制の面でも、新しい機能を次々にリリースしていくことのできる環境を整えている。
――クラウドサービスということもあって、顧客が最新機能をすぐに使えるわけですね。
ジューブ氏:顧客満足度も高い。クラウドサービスなので解約しやすいはずだが、PureCloudの解約率は3%未満で、市場平均の6~7%と比べて低い。
PureCloudがオールインワンのソリューションであること、カスタマーケアにも注力していることなどが背景にあるだろう。契約からセットアップ、利用開始までの期間も短縮してきており、現在では7割の顧客が「1カ月から1カ月半」で利用をスタートしている。
コンタクトセンターへのAI適用、PureCloudを通じ中堅企業にも
――さて、ジューブさんは前職でIBM Watson IoTを担当されていたそうですが、なぜジェネシスに興味を持たれたのでしょうか。
ジューブ氏:その理由はとてもシンプルだ。AIはあらゆる業種で利用できる技術だが、個人的にはAIを活用してカスタマーサービスを変えていきたいと考えたからだ。
ただし、AIを有効活用するには、当然ながら個々のカスタマーにまつわる「データ」が必要になる。そして、PureCloudプラットフォームにはそうしたデータが豊富に蓄積される。これを基にすれば、最適なカスタマーエクスペリエンス(CX)を実現するAIが出来ると考えた。
AI技術そのものを単独で提供するベンダーはあるが、カスタマーのデータも豊富に持っているジェネシスこそが、その最先端を走れるのではないか。
――コンタクトセンターでのAI活用と言えば、たとえばチャットボットや自動音声応答(IVR)などのイメージがあるのですが、将来的にどんなユースケースを考えていますか。
ジューブ氏:個々のカスタマーデータを生かしたサービスが実現するだろう。たとえば「予測マッチング」。従来のコールセンターは「◯◯の方は1番、□□の方は2番を押してください」と案内して、それぞれの担当グループにコールをつなぐシンプルなものだった。ここに機械学習を適用し、顧客の履歴データなどを活用することで、より最適なエージェントを自動的に選んでつなぐようになるだろう。
もちろん、クロスセルやアップセル、リテンションといった「セールスマーケティングの最適化」も図ることができる。アンケートや自社サイトの閲覧状況などのカスタマーデータを分析し、その顧客が何を意図しているのかをあらかじめ把握することができる。たとえば「今回は解約を考えているのではないか」とわかれば、それに応じた対応ができる。
AIのユースケースはさまざまなものが考えられるが、AIだけでは限界があるのも事実だ。「最適なCX」という最終目標を実現するためには、適切なタイミングで人間のエージェントに応対を引き渡すことも必要になる。そうした部分でも、コンタクトセンターで実績のあるジェネシスは強みを持っている。人間とAI、両者のバランスを取る「ブレンデッドAI」が最も重要だ。
――そのブレンデッドAIには、他社のAIエンジン、たとえばIBM WatsonやSalesforce Einsteinなども取り込んでいく戦略でしょうか。
ジューブ氏:答えとしては「両方」だ。ジェネシス自身も自然言語処理(NLP)に関して強力なIP(知的財産)を持っている。一方で、サードパーティのAIエンジンとはAPIを介して連携できるようになっている。今月中には「Amazon Lex」との連携も発表する予定だ。
(※このインタビュー後、11月27日の「AWS re:Invent」において、ジェネシスはPure CloudとAmazon Lexとの連携機能を発表している。Pure Cloud顧客がLexの自然言語処理機能を使い、会話型のIVRを簡単に構築/管理できるというもの。2018年からの提供開始を予定している)
インタラクティブ・インテリジェンスとの合併によって、ジェネシスは中堅規模以下の企業向けソリューションもラインアップしている。CXの向上という目標は、企業規模を問わず求められるものだ。中堅企業にもAI活用を提案し、広げていくことで、大きなマーケットが獲得できるものと期待している。
2018年は「1日2社」ペースで新規顧客獲得を目指す
――来年度(2018年)のビジネス戦略はどのようなものでしょうか。
ジューブ氏:現在のコンタクトセンター市場のトレンドは3つある。「クラウドへのシフト」「音声応対からデジタル(チャット、メールなど)へのシフト」「AI活用」だ。そして、ジェネシスはこれらすべてに対応できる。
先ほど述べたとおり、2017年度のPureCloudは1日1社の新規顧客を獲得してきたが、来年度は「1日2社」を目指したい。そのためには「スタビリティ(安定性)」と「イノベーション」が大切だと考えている。PureCloudはオンプレミスから移行する顧客が80%を占めているので、クラウドサービスでもオンプレミスと同等の高い安定性を実現しなければならない。また、継続的な開発投資を通じて常に新しい機能を追加していき、高い顧客満足度を維持する必要もある。
日本市場にも大きな期待をしており、この市場で成功することで、よりマーケットを拡大していくことを目指したい。期待していてほしい。