ファーウェイはスマホ市場で現在世界3位の、中国に本社を置くグローバル企業。日本市場でもSIMフリースマホが好調で「HUAWEI P10 lite」などは人気商品となっているほか、5G研究や基地局施設など日本の通信事業者とも関りが深い。だが、日本から見た場合に中国やその他海外でどのような戦略で動いているのかがわかりづらい点がある。
そこで今回、上海のR&Dセンターにてグローバル全体のマーケティングや販売を統括しているHuawei Consumer Business GroupのPresident,Marketing and Sales ServiceであるJim Xu氏にグループインタビューの機会を得られたので、中国に本社を置く企業ならではの方針やポリシーなどを聞いた。
スマホから基地局まで一貫した品質徹底主義
──近年、ファーウェイのスマートフォン製品がかなり魅力的なものになってきたと思います。どのような販売戦略を取られているのでしょうか。
Jim Xu氏(以下敬称略) ファーウェイでは5年前から自社ブランドのハンドセット製品を製造しています。それまではODMだったのですが、そのとき一番問題となったのが品質体制です。スマートフォン業界にしてみれば、弊社は新参者ですので特に品質には気を遣いました。品質の保証とアフターサービスを強化する。この二点が、消費者が端末購入でもっとも重要視していると考えたからです。
ドイツテレコムではすべてのメーカーの品質を比較した結果があるのですが、弊社はサムスン電子やアップルと比較された中で、弊社の品質が14ヵ月連続で1位となっています。また、日本のKDDIからも品質について素晴らしいということで表彰を受けました。
また、ファーウェイを含むサムスン電子やLGエレクトロニクス、ソニーモバイルといったメーカーがAndroidをベースとする中、差別化が重要です。そこでデュアルレンズを搭載したり、デュアルSIMかつ4Gを同時に使えるようにしました。さらに、電池の持ち時間を向上させました。こういった基本的な部分をしっかりすることが重要と考えています。
グローバル市場での販売については、競合他社が手強い相手なのでブランドが重要です。P9ではライカと業務提携することで、品質を格段に上げました。9月頭にはAI対応チップセットも発表しました。こうした技術を積み重ねることで、相手を超えることに目標を置いています。
海外の多くの国ではオープンマーケット、SIMフリー市場にシフトしています。このとき消費者がまず考えるのは、このスマホが良い物なのか、次に自分が負担できる価格かを考えます。ですので、弊社としてはバッテリーの持ち時間が良く、ソフトのパフォーマンスも上げつつ、手ごろな価格の製品を提供します。そういった取り組みにより、グローバル市場においてのファーウェイの価値を創出することができると思います。
──10年前のファーウェイはB2B市場が中心で、コンシューマー向け市場にはブランド構築が難しいといった理由で参入していませんでした。現在の成功までの苦労をお聞かせください。
Jim Xu ファーウェイは数あるスマートフォンメーカーのなかでも、かなりユニークな存在だと思います。というのは、ネットワークインフラとスマートフォンのどちらも手掛けており、これが我々の起源となっています。これはアップルやサムスン電子との大きな違いだと思います。
10年前に弊社が4Gネットワークを手掛けていた時、消費者にいかにモバイルネットワークを使ってもらうのかという問題に直面していました。そこで、弊社でドングル型のデータカードを出したところ大ヒットになりました。この時の製品は通信キャリアを通じて販売していたものです。
もうすぐ5Gの世界が来るわけですが、ここでも同じように5Gへの移行を促す端末が必要になります。消費者に音声、データ通信、VoLTE、動画視聴、ゲーム、ビッグデータ、クラウドストレージ、これらの機能で基地局を使ってもらうには、ネットワークをきちんと設計し、それに合わせたデバイスを作る。これにより、よりよいユーザーエクスペリエンスを実現できるのです。ここが、ファーウェイと他社が一番差別化ができる独特の強みとなります。
弊社は通信技術の蓄積で先行しておりますので、この相乗効果で世界をリードしていけるのではと思います。ファーウェイの研究所では端末もネットワークインフラも同じラボで研究開発や試験を実施しています。
また、チップセットの分野でも弊社のスマートフォンの技術、CPUやGPU、画像処理やさらにバッテリーといった材料科学まで、ネットワーク側の研究開発と連携をとっています。これは弊社にとって、ライバル企業を超える強みになっていると思います。
世界市場とファーウェイの関係性
──現在、グローバルマーケットで注目している地域はありますか。また、日本のマーケットに期待する点はありますか。
Jim Xu いま世界で使われている端末は13億台から14億台といわれています。そのうち大部分は中国、アメリカ、日本、欧州で使われています。特に500ドル以上のハイエンド端末は先ほど上げた国々に集中しています。ほかの人口の多い国、インドは人口が多いがローエンド主流なので、優先順位としてはハイエンド市場が中心になります。
数年前に、まずは中国市場が一番大事だという方向転換をしました。4年前はサムスン電子が中国のシェアトップで30%を占めており、この中国市場でファーウェイは生き残れるかという問題です。今ではファーウェイがでシェアトップの25%となり、サムスン電子は2%になっています。
また、過去4年間からヨーロッパに対して投資を継続しています。これにより、イタリア、スペイン、フィンランド、ポーランド、オーストリアでは弊社のシェアが1位で、ほとんどの国でシェア20%を超えています。そして今年、ヨーロッパでのスマートフォンの売り上げが56億ドルを超えると見込まれています。ですので、中国市場に続いてヨーロッパでも生き残ることができました。
──それでは日本のマーケットについてはどのようにお考えでしょうか?
Jim Xu 日本では過去にタブレットなどの製品を多く販売していました。現在でも日本を重要な戦略的市場だと認識しています。日本ではスマートフォンが一部でよい業績を収めることができ、口コミ評価も良好です。これは我々にとっても自信がつきました。これにより、日本で最大の市場であるキャリアマーケットへの取り組みを続けられると思います。近いうちにその成果が出てくるでしょう。
──グローバル市場でシェア1位を狙うには、米国市場も重要ではないでしょうか。
Jim Xu 米国市場はハイエンドな市場で、PR面でも最重要だと認識しております。我々も米国を重要視、継続的に努力をしております。実はアメリカの大手マーケットでもMatebookやスマートウォッチ、Mate9などの端末を販売しており、販売成績は悪くないと思います。
ですが、アメリカでは日本と同じくキャリア市場が大きいのです。こちらの取り組みは都合上お教えできませんが、来年になればアメリカの通信事業者からもある程度の実績を出すことができるのではないかと思います。
──スマートフォン市場で1位を目指すため、今必要なものは何でしょうか。
Jim Xu 必要なものは5つあります。今弊社はグローバルで展開していますが、我々が思うに市場のチャンスが我々の能力を遥かに上回っていると思います。また我々は、我々が思う以上に市場から期待されていると認識しています。
ですので、弊社の戦略としてはまず品質を維持するための研究開発を続けていきます。2つ目にチップセットへの投資開発を続けて他社との差別化をはかりたい。これはいずれ他社との大きなアドバンテージになると信じています。
3つ目はソフトウェアのエクスペリエンスです。Androidは使用期間が12ヵ月ほどで効率が20~30%下がるといわれています。ですが、我々はMate9からソフトを最適化し、効率低下までの期間を12~18ヵ月に伸ばすことができました。こういった取り組みを続けることで、2018年にはAndroidで弊社の製品が一番使いやすいものになると信じています。
4つ目は世界の一流企業とパートナーシップを組むことです。これによって機能を強化していきます。たとえばライカと業務提携して、業界の中でもっともいいカメラ技術を実現したり、タブレットではハーマンカードンと協力してオーディオ効果を最大限に引き出したり、またパソコンでもドルビーと業務提携しています。オープンな姿勢で、各業界の優秀なパートナーを見つけることが重要です。
5つ目ですが、エコシステムを構築することです。PCやスマホ、ウェアラブル、スマートホームのソリューションを提供し、消費者により良い体験をお届けすることです。これら5つの努力を続けていきたいと考えています。
いつ競合他社を超えるかの目標は設定していません。大切なことは能力を上げることと、消費者のために価値を作り出すこと。消費者に払った代金の価値を感じてもらい、弊社の製品を楽しんで使っていただくことが大事なのです。ですから、いまはランキングよりも価値を作り出すことに重きをおいています。
製品ラインナップと今後の取り組み
──日本ではMateやP、nova、honorといったラインナップですが、この構成に変更はないのでしょうか。
Jim Xu 日本市場でのボリュームはまだ小さい中、展開するラインナップが多いのではと個人的には思っています。4つの製品それぞれに特徴はありますが、消費者の反応を見ながら絞りこむこともあると思います。
──では、グローバルではいかがでしょうか。
Jim Xu ヨーロッパではPシリーズをメインに販売しています。ヨーロッパでMateはリテラシーの高い方や、こだわりを持ったギークに受けています。Pシリーズは大衆受けのいいモデルですね。
アジア太平洋、ラテンアメリカの消費者は大画面が好きで、バッテリーの持ちを気にする人が多いので、こういった地域ではMateを中心に販売しています
中国では1年に4.5億台のスマホが販売されます。どちらかといえば、女性はP、男性はMateを多く買っている印象です。
そして、PとMateシリーズは世界各国でだいたい3世代ほど販売していますが、あと2世代ほど新製品を販売して市場のパターンを見つけ出したいと思います。それぞれの国や人によって好みがあると思いますので、どういった機種が受け入れられるのか見極めたいと思っています。
ファーウェイの作るAIの未来
──IFAでAIを搭載した新しいチップセットを発表されました。今後、AI搭載によりどのような変化がもたらされるのでしょうか。
Jim Xu 新しいチップセットにはNPU、神経細胞を元に設計したプロセッサーを搭載しました。これはCPUとGPUの性能をさらに向上させることで、より高速で省エネなスマホの開発が可能になります。もうひとつの特徴として、LTE Cat.18に対応しており最大1.2Gbpsのデータ通信に対応します。現在世界でもっとも高速なチップセットと言えるでしょう。
自社開発によるISPという人工知能対応の製品があります。人工知能プラットホームにより、スマホでカメラの画像識別やAIを活用できるようになります。これはサードパーティーにも開放しているので、このチップセットでいろんなAI対応アプリを開発できます。来月には最新のMate10を発表しますので、その際にはより細かな情報を提供できるでしょう。
ホームネットワーク、IoTも海外に向けて展開していく
──AmazonやFacebookなど、サービス系プラットホーム企業との提携についてはどう考えられてますか
Jim Xu パートナーシップに関してはFacebookやAmazon、アリババと業務提携しています。特にAmazonとアリババにはECサイトとしての、消費者との消費行動にまつわるデータが膨大にあります。なので、マーケットインサイトの調査で役に立ちます。今はビッグデータがあるので、これを使うことでどの消費者をターゲットにするか、それぞれの層にどういったアプローチをかけていくのか。我々にとってはこういったデータは非常に役に立ちます。
中国国内ですと、ファーウェイはサードパーティーとともにグリーンアライアンスという組織を立ち上げています。ファーウェイがオープンラボを作り、アプリのテスト通過をしてからファーウェイのアプリストアに置くようにしています。これにより情報漏洩がない、安心してアプリを使っていただけます。
そして、スマートホームのソリューションです。海外でも中国でも、家を買って部屋の中の電気や冷蔵庫、レンジをどうつないでいくかはホットなトピックスです。弊社ではこういった家電製品を作っていませんが、標準的なプロトコルを作って対応チップセットを製造しています。中国では家電業界からサポートを受けており、将来的にはスマホから異なるメーカーの家電を繋ぐことができます。
今ご紹介した二つの事例は来年から海外に向けて展開していく予定です。ですので、グローバルでも多くのパートナーを見つけて推し進めていきたいと考えています。
中国のモバイルネットワーク活用とファーウェイの文化
──それでは、ファーウェイは今後とのような方向に向かうのかをお聞かせください。
Jim Xu 私はいろんな国へ向かうのですが、モバイルに関しては中国が一番活用できているのではないかと思っています。普段の生活がスマホと繋がっています。朝起きてランニングに行くけど、そういったときにスマートフォンかウォッチをつけて走っています。運動の情報はクラウドに記録されます。
出社時は自転車で通勤することが多く、中国の大都市ではシェアサイクルが浸透していて、QRコードをスキャンすることで簡単に自転車を借りて安い料金で使うことができます。モバイル決済はアリペイやWechat Payがあって、どんな小さな商品も財布を持ち歩かずスマホで支払えます。高めの買い物ではクレジットカードが欠かせませんが、その情報もスマートフォンに登録しておけば、NFCを通じでそれだけで買い物ができます。
Jim Xu 車で友人を訪ねに行くさい、駐車場に停めてアプリで停車したスペースの番号を入力して3時間分を支払います。ですが、結局2時間しか止めなかった場合は払い戻されます。いろんな国に行ったんだけども、こういったサービスを利用でできる国は少ないんです。
中国にはゲーテッドコミュニティーと呼ぶ、複数のマンションが一緒になって、まわりをゲートで囲むようなコミュニティがたくさんあります。ここには宅配ボックスが設けられており、中国ECを発展させる原動力になっています。今はネット商品と言えばスマホで購入しています。ネットワークがどう応用されているか、ぜひ見てほしいですね。
我々は技術が非常に大事だと思います。ですが、それよりも大事なのは管理、マネージメントと文化です。ファーウェイは今年で30周年になるのですが、創設者の任CEOも今年で72歳になるんですね。彼は30年間働いて会社を率いてきました。ファーウェイの重要な理念がカスタマーファーストと、一生懸命頑張る人ほど報いるという文化があるのです。
ファーウェイには18万人の社員がいるわけですが、その管理の仕方や文化はできるかぎりシンプルなものにしています。一番重要なのは、みんなが目の前のことに集中することです。人間関係を複雑にしたり、学歴や資格で人を値踏みしたり、年功序列には一番反対しています。何を見るかというと、会社への貢献度を見ているのです。
弊社創設者が明言したハッキリしたルールがあります。本社幹部が海外へ出張するさい、現地の幹部が勤務時間中に空港へ出迎えに来るようなことがあれば即刻クビにするというものです。勤務時間中はお客様のために働くもので、本社幹部のために働くものではありません。
創設者自身も72歳ですが月の半分は海外へ行っていますが、乗る飛行機はビジネスクラスです。ファーストクラスに乗りたければ自腹で費用を支払います。
ファーウェイは1998年に海外へ進出しました。そこから20年近く努力していて、私自身も12年の海外勤務の経験があります。本社は中国にありますが、その視野を広げてグローバル市場を見ています。そして、一流の企業とパートナーシップを結んで学ぶことを目標としています。
20年前からIBMの管理体制や社内フローなどマネージメント方法を導入しました。また、品質管理や品質試験もドイツテレコムやボーダフォン、日本で言うドコモさんやKDDIさんを見習って標準的なものとしてきました。20年の蓄積を経て、品質に対する意識は我々の社内フローや考えに根差すものとなっています。
社内には3人の社員が5人分の仕事をして、4人分の給料を貰うといった言い方があり、私たちは楽しんで仕事をしています。
今後の動きに関しても自信を持っています。ファーウェイは上場企業ではないので、資本関係の影響を受けることはありません。ですので、一度決めた長期戦略がゆらぐこともありません。ですので、これからも消費者、お客様を第一に据えて生き残りたいと考えています。
ファーウェイの成功は偶然ではなく、未来へ向けて一歩一歩未来へ歩み進んでいければと考えています。