今回のことば
「60歳までの自己採点は28点。やり残したことばかりであり、後悔ばかりである。しかし、これから先は明るい」(ソフトバンクグループの孫 正義代表取締役会長兼社長)
ソフトバンクグループは2017年8月7日、2017年度第1四半期(2017年4~6月)の決算会見を開催した。ソフトバンクグループの孫正義代表取締役会長兼社長は、説明を始める前に少し間を置きながら「今週、60歳の誕生日を迎えることになる」と切り出した。
孫会長兼社長は、1957年8月11日生まれ。今週、還暦の節目を迎えることになる。
「19歳のときに、50ヵ年計画を打ち出した。20代で名乗りをあげ、30代で軍資金を貯め、40代でひと勝負かけ、50代で事業(ビジネスモデル)を完成させ、60代で事業を後継者に引き継ぐ」と、これまでに何度も公表してきた自らの人生計画に触れながら、「この5つのステージで生きてきた。その思いは一度も変わっていない」とし、「後継者に引き継ぐのは60代であり、60歳ではない。60歳なのか、69歳なのか。10年の幅のどこかで後継者を指名することになる。だが、その60代をいよいよ今週迎えることになる」と語る。
言い換えれば、ビジネスモデルを完成させる50代最後の会見がこの日だったわけだ。
これまでの自己採点は28点
その会見で、孫会長兼社長に60歳までの自らの人生を自己採点してもらった。
点数は意外にも低く、「28点」。
孫会長兼社長は「まだまだやれたことはある。やり残したことばかりであり、後悔することだらけであり、自分のふがいなさに地団駄を踏む思いである」と、その点数の理由を語る。
だが、この点数は自らの人生を否定するものではない。むしろ、60歳から先の人生に対して、これまで以上に高い頂を目指すという思いが感じられる。
孫会長兼社長は、「まだ人生は終わったわけではない。先は明るい。楽しみだ。まだまだ攻めていくぞ、という思いである」とする。
「とくにソフトバンクという組織体、生命体としては、少なくとも300年くらいは伸び続けてほしいという思いで、組織体系を作っているつもりだ。いまは、300年に向けた組織体系が始まったばかりである。1981年に創業したソフトバンクにとっては、300年のなかでは約30年。まだ一合目である」とする。
数1000億円の収益に貢献するソフトバンク・ビジョン・ファンド
孫会長兼社長が、今後の「攻め」の象徴するのが、10兆円規模となるソフトバンク・ビジョン・ファンドである。
「今回の決算発表は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを含めた最初のものになる」と、ここでも次なる成長に向けた節目を迎えた会見であることを強調してみせた。
2017年度第1四半期の営業利益は、前年同期比50%増の4793億円。第1四半期としては過去最高を更新。ここにはソフトバンク・ビジョン・ファンド事業として1052億円が入っている。これを除くと、前年同期比17%増に留まる。ソフトバンク・ビジョン・ファンド事業は、今後も数1000億円規模の収益増に貢献することを示した。
「ソフトバンク・ビジョン・ファンドの発表、構築によって、当初から思い描いてきた組織体系のあるべき姿については、少なくとも『構え』ができ、姿、方向性が見えてきた」とする。だが「事業は完成していない。まだまだこれからであると思っている」と続ける。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、サウジアラビア王国のパブリック・インベストメント・ファンドからの出資をはじめとする約10兆円を総額とするファンドで、「ソフトバンクが意思決定を行なっていくものであり、かつて、ヤフージャパンを作ったときのように、日本にジョイントベンチャーを作っていくことができる」とする。
そして「いまはシンギュラリティー夜明け前。これは、インターネット夜明け前と同じ状況である。もし、インターネット夜明け前に、ソフトバンクに資金があったら、いまごろ大変な企業になっていた。インターネットのすべてをソフトバンクが抑えていただろう。だが、シンギュラリティー夜明け前を迎えたいま、ソフトバンクが作りたかった『構え』ができた」とし、ソフトバンク・ビジョン・ファンドにより、今後、積極的な投資を進める姿勢をみせる。
一方で、こんなことも語る。
「なぜソフトバンクが不動産会社に投資をするのか、なぜライドシェアができるタクシー会社に投資するのか。これはITではないのではないかといわれる。古い人から見るととそう見える。だが、世の中の人々のライフスタイルが変わっている。世の中が変わっている。これを理解しない人には理解できないが、これを理解する人から見ると、すごいチャンスだということがわかる」
いま、ソフトバンクが出資している企業のなかには、GPUで圧倒的な地位を持つNVIDIAや、人工知能による総合血液生体検査のGUARDANT、産業用IoTで圧倒的シェアを持つOSIsoft、人工知能による運行管理サービスのnauto、業務用機器の自動運転を実現するbrainなどがある。またソフトバンク・ビジョン・ファンドからの出資ではないが、ソフトバンクが出資するDiDiは中国版Uberともいえるもので、3億3000万人の登録者、2600万人のドライバーを持つ世界最大級のトランスポーテーションプラットフォームになっていると胸を張る。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドによって投資する企業は「同士的結合」というソフトバンクならではの新たなシナジー集団であると表現。「株式の51%を持つとか、ソフトバンクブランドで染め上げるとか、役員を送り込んで子会社をマネージするというものではない。20~40%の資本を持ち、経営に影響を与えながら、グループを形成することになる。事業提携では3~5年で関係が終わってしまう。資本を持つことで『血』がつながる意味は大きい。とはいえわずか3~5%を出資して、利益が出れば株式を売却してしまうベンチャーキャピタルとも異なる。NVIDIAへの出資比率は4.9%しかないが、ベンチャーキャピタルとの違いは、我々は思いを共有しているという点。血がつながり、情報革命への志を持ち、ビジョンを共有する企業群を形成していくことになる」とする。
この日の朝、医者に「咳喘息」と診断され、声が出にくい状況での会見になった。「初期なので心配ないが、大きい声でしゃべるなと言われた。今日は静かに喋りたい」とした孫会長兼社長であったが、最後に「革新的起業家集団を拡大させたい」と宣言する頃には、いつもの孫節が戻っていた。
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