事例に厚みが増したAWS Summit 2017レポート 第8回
宇宙の「リアル」を伝えるビデオ配信とクラウドの仕組み
NASAとAWSが挑んだ宇宙からの4Kライブ中継の舞台裏
2017年06月19日 07時00分更新
AWS Summit 2017の初日、国際宇宙ステーションからの4Kライブ中継をAWSがどのように支えてきたかを解説するユニークなセッションが行なわれた。AWS Elementalのカワジャ・シャムス氏は宇宙の「リアル」を共有できる4Kライブの魅力とテクノロジーについて詳細に語った。
小型のElemental LIVEのエンコーダーをISSに持ち込む
「未来へのつながり:史上初・宇宙からの4Kライブストリーミングを実現させたテクノロジーとワークフロー」と題されたセッションに登壇したシャムス氏は、宇宙に魅せられてきた人類の歴史と、動画と宇宙開発との関係について振り返る。
1969年7月20日、人類はアポロ11号によって初めて月面着陸の偉業を成し遂げ、アームストロング船長は「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとって大きな飛躍である」という有名な言葉を残した。そして、このときなにより人々を熱狂させたのは月から送られてきた動画だった。「当時はモノクロカメラで、しかも1秒間に10フレームだった。しかし、40万km離れたところから送られてきた映像に多くの人々は熱狂した」とシャムス氏は語る。
現在は、5カ国の宇宙開発機関が運営する国際宇宙ステーション(ISS)からの地球の映像を、われわれはほぼリアルタイムで観ることができる。そして今回、NASAとAWSが取り組んだのは、宇宙からの4K映像をライブ中継するというプロジェクトだ。アポロ11号に搭載されたカメラと最新の4Kカメラの解像度を比べると、解像度に大きな違いがあるという。しかもカラーなので、約3Gbpsという帯域が必要となる。今回のライブ中継では、このストリームを18Mbpsにまで圧縮する必要があった。
動画ストリームをリアルタイムに圧縮を実現するエンコーダーとしては、シャムス氏が籍を置くAWS ElementalのLiveアプライアンスが利用できる。しかし、通常のアプライアンスはサイズも消費電力も大きいため、ISSに搭載するのは難しかった。そこで今回は小型・軽量で、消費電力も小さいマシンにElementalソフトウェアを搭載するという方法がとられた。エンコーダーと4Kカメラは2016年12月に打ち上げられたJAXAの「コウノトリ」によって、ISSに持ち込むことができたという。
4Kビデオだから実現できた高精細が宇宙の「リアル」を伝える
実際の4Kライブはラスベガスで開催された放送関連イベントである「NAB」のカンファレンスで行なわれた。ISSでの映像はエンコーダーで圧縮がかけられ、衛星を経由して、地上に送られる。ラスベガス側のスタジオの映像も、逆方向でISSに送られ、双方向のライブが実現した。
配信用の映像はTVスイッチャーから、Elemental LIVEエンコーダーを介して、冗長化した経路でAWSの2つのリージョンに送られる。1つ目はオレゴンリージョン、2つ目はカリフォルニアリージョンで、Elemental DELTAでデコードされたデータは、ELBとRouteDNSを介し、エッジキャッシュとCloudFront経由で全世界に配信されたという。
その後、シャムス氏はAmazon Primeでも視聴できるという4Kライブの模様を映像で参加者に披露した。NAB会場で司会したElemental CEOのサム・ブラックマン氏が質問すると、約11秒のタイムラグの後、ISSの2人の宇宙飛行士が応答する。また、水をボールに見立てたピンポンや、空中に浮く水に着色料を加えたり、無重力状態ならではのさまざまな実験も披露された。シャムス氏は、「4Kだからこそ、これだけの高精細なビデオを観ることができた」と語る。
そしてこの10年来、NASAとAWSが取り組んでいるのは火星探査機「Rover」との動画伝送だ。Roverが火星で得たさまざまな動画を分析すれば、人間が降り立つ前に火星でなにが起こっているのか調べることができる。課題は光の速度でも20分かかるという火星とのタイムラグ。「科学者達がRoverが次をなにをすべきか、迅速に判断できるスピード感が必要になる」とシャムス氏は指摘する。シャムス氏はメガピクセルのパノラマ画像をつなぎ合わせる画像解析プロセスにおいて、AWSで活用されている事例を披露。今後の宇宙開発においてもAWSのテクノロジーが大きく寄与できることをアピールし、クラウドの可能性を魅せたセッションを終えた。
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