化石燃料、特に石炭産業の復活を掲げて当選したトランプ政権が、洋上風力発電の推進に方針を転換した動きを見せている。洋上風力発電が10万人単位の雇用を生み出しているため、むげにはできなくなったのかもしれない。
大統領就任前、ドナルド・トランプは洋上風力発電を高く評価してはいなかった。自らがスコットランドのアバディーン・ベイ近郊に所有する高級ゴルフ場の景観が損なわれるとして、風力発電プラントの建設に反対したのは有名な話だ。大統領候補時代には英国の有力右派政治家、ナイジェル・ファラージ欧州議会議員と面談し、英国の風力発電所開発に抗議するよう促す発言をした。
しかし、トランプ政権の現在の動向を見てみると、大統領の考えはどうやら変化したようだ。気候研究機関クライメート・セントラルが指摘しているように、米国内務省は米国東沿岸海域のうちかなりの広範囲をリース契約の対象とし、新たな契約が交わされた場合、一般市民にも知らせると明言している。スペイン企業アバングリッドにノースカロライナ州沖合の約494平方kmを900万ドルで貸し付ける契約を結んだ後、 ライアン・ジンキ内務長官は「これは大きな勝利です」とコメントした。
何年ものあいだ議論されながら、決して手が届かないかのように見えた米国の洋上風力発電は、昨年ついに実現した。
米国初の実用的な洋上風力発電所は、ロードアイランド州の小さな島、ブロック島の住民に電力を供給するだけに過ぎず、操業開始後も何年にもわたって建設を続けながらどんどん規模を広げてゆく欧州の施設に比べると、特に目覚ましい設備とはいえない。しかし、事業拡大のきっかけにはなったようだ。ブロック島の風力発電事業を手掛けたディープウォーター・ウィンドはその後、ニューヨーク州ロング・アイランド沖に、さらに大規模な洋上風力発電プラントを建設する許可を得た。また、内務省は最近、ノルウェーのエネルギー企業スタトイルとドイツ企業PNEウィンド米国支部の要望に応じ、ニューイングランド州沖の海域約1619平方kmのリース契約を計画していると発表した。
気候変動否定論者をEPA長官に、石油王を国務長官に任命したことで話題となり、低迷が続く国内の石炭産業の復活を繰り返し強く宣言していることで知られる現政権が、洋上風力発電の事業開発を促進するのは少し奇妙にも思える。おもな理由はふたつある。
ひとつめの理由は、トランプ大統領が指名したエネルギー省のリック・ペリー長官の存在だ。ペリー長官は石油産業との結びつきにも関わらず、テキサス州知事時代にローン・スター・ステイト(「ひとつ星の州」、テキサス州のニックネーム)を風力発電の拠点に変える事業 を後押しした。ペリー長官は、同様の事業を東沿岸海域で展開するメリットも理解しているのかもしれない。
もうひとつの、おそらく、より重要な理由は、風力発電業界の雇用市場が活況を呈している事実だ。クライメート・セントラルが書いているように、風力発電部門は10万人の雇用を生み出しており、労働統計局は、風力発電関連の雇用は今後2020年代にかけて急速に増加し続けるだろうとしている。雇用拡大を公約の一部に掲げて当選したトランプ大統領にしてみれば(たとえその眺めが気に食わなくても)風力発電事業は支援しておくのが賢明だ。
(関連記事:Climate Central, Forbes, “テキサスで大成功の風力発電 どこも真似できない例外事例,” “米国で始まる風力発電ブーム 費用もポテンシャルも高め”)