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世界の有名事例に学ぶ「最良のブランド」を作るタイポグラフィー選び

2017年02月02日 23時00分更新

文●Andrew Tiburca

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ブランディングに大きく関わるデザイン要素といえば、ブランドフォント。どのフォントを選ぶべきか、マーケターの視点も踏まえて考えます。

言葉や文字を表現するには書体という服を着せてあげなければなりません。そして人間のファッション業界と同様、タイポグラフィーの世界にもトレンドや有名デザイナー、ダサいファッションがあります。

会議にクロックスを履いていったり、ライクラ(ボディスーツ)を着ていったりするのがおかしいのと同じように、履歴書をSchoolbellやComic Sansフォントで書くというのもTPOから外れた場違いな行為です。

自分自身が意識しているかどうかは別として、私たちが読むものにはすべて、誰かが決めたビジュアル・スタイリングのフィルターがかけられています。さらに、私たちがそのメッセージを読んで持つ感情は、ビジュアル・スタイリングによって常に影響されています。人びとが書類をざっと目でスキャンする方法から特定のフォントが思考を左右する能力を持つメカニズムまで、タイポグラフィーが持つ影響力を分析した研究は数えきれないほどあります。ほとんどの場合フォント選択は私たちの認識に影響を及ぼすという結果が出ています。

マーケター兼タイポグラフィー愛好家として、私はフォントと意思決定プロセスの複雑な関係にずっと興味を持っていました。

ほかにも同じようなことを考えている人がいることは知っていますが、これから紹介する3つの裏技を知らない人も多いのではないでしょうか。

1. 余計なものはなくていい

MediumTeamweekDevTasker(私が制作に関わったWebサイトです)といったWebサイトは、タイポグラフィー的観点から言えばまるでヨガスタジオといった感じです。

Medium

こうしたWebサイトの情報表示方法は、意識しているかどうかは別としてKISSのデザイン原則(「Keep It Simple Stupid」の略で「愚直であれ」という意味)に乗っ取っています。そのため、書かれている情報を非常に簡単に把握できます。

しかし、シンプルと言っても、退屈でしかも何度も同じことを繰り返すようなスタイルは避けたいものです。フラットデザイン、ミニマリズム、Helveticaが人気上昇中なのでデザイナーも能力のミニマリズムに走ったのか、無難なデザイン技術に落ち着いていますが、たいていの場合デザインを妨げています。

紙幣の印刷量を増やしても貧困解決にはならないのと同じように、情報量やテキスト量を増やしたところで明確性に欠けたメッセージが明確になるわけではありません。ブランドの持つ最大の資産は、明確さと単純さです。

自分自身で一流のコンテンツ作りを目指しているかどうかに関わらず、コンテンツが見た目に美しくなければユーザーの関心を引けません。コンテンツの共食い現象をもっともよく体現しているのはSocialMediaExaminerです。コンテンツとして質の高い革新的な記事を投稿していて読者数も数百万人を誇るものの、情報としてはちょっとうるさい感じです。

SocialMedia Examiner

いろいろなフォントで書かれたコンテンツがあらゆる場所から飛び出してくる、まさに「コンテンツ・インフレーション」状態が起こっています。

ここから学び、実行に移せるアドバイスは「より少ないコンテンツでより多くを伝えようとすること」です。それが難しい、またできないと感じるのなら……。「簡潔に説明できないというなら、自分自身それをよく理解できていないということだ」というアルバート・アインシュタインの言葉を肝に銘じましょう。

If you can't explain it simply, you don't understand it well enough. - Albert Einstein

2.ユニークなブランド・エクスペリエンスを作る

タイポグラフィーはブランドメッセージを発信するもので、ブランディングでは大切な要素です。タイポグラフィーを見ただけで、言葉そのものを読まなくてもブランドを識別できることは非常によくあることです。

有名ブランドは世界のどこでも読めてしかも自己発信できるようなフォントを追求しています。ブランドのフォントには性格があり、6歳児や8歳児にも分かるようなものでなくてはならないということです。サイズやフォーマットを問わず、印刷物・デジタル媒体どちらにも使えるようなフォントでなければなりません。

革新的なフォントとユニークなブランド・エクスペリエンスを制作するのは本当に大変です。26個のアルファベットと英数字だけ考えていれば良いのではなく、いろいろなシステムや言語に対応できなくてはなりません。

非常に正直に言ってしまうと、スタートアップやローカルブランドの場合、オリジナルの書体を作ろうなどと考えるべきではありません。フォント制作をするにあたってのロジスティックスは単純に大変なものだからです。サムスン(SAMSUNG)が良い例です。

サムスンがオリジナルのフォント「SamsungOne」のデザインを通じて考えていたのは、各種プラットホームやフォーマットでのビジュアル・ブランディングの統一でした。そのため、SamsungOneもサムスンのビジュアル・パーソナリティとして消費者にリーチし、その意識に植え付けることを目的に作られました。

Samsung font

オリジナルフォントを制作した企業はサムスンだけではありません。グーグルのRobotoは有名ですし、アップルも18年にもわたって会社の書体として使用しているApple Garamond、つまりITC Garamondを採用しています。

ドナルド・トランプでさえ「Tiny Hand」と呼ばれる独自フォントを持っています。Tiny Handは同氏の手書きを真似して皮肉ったBuzzfeedによって作られたフォントです。

ブランディングとタイポグラフィーについてもっと詳しく知りたいなら、Designhillのフォローがおすすめです。質の高いブランド・エクスペリエンスの作り方についてすばらしいヒントを発信しており、グラフィックデザイン市場を探すにも心強い存在です。

3.実用的で、分かりやすく

信じるかどうかはさておき、HelveticaやTimes New Romanの代わりにGaramandなどインク使用量の少ないフォントを選択することは、お金の節約にもつながります。いわゆるお役所で働いている、または毎日大量の書類を印刷しているなら、インクは香水よりも高いという事実を認めたほうが良いかもしれません。

デジタルドキュメント時代において「紙の印刷がそこまで問題になるなんて」と思うかもしれませんが、EPAの最近の調査によると、米国の会社員の1年の平均印刷量は1万ページにもなるそうです。

プリンターのインク1リットルが約5000ドルであり、シャネルの5番の香水1リットルより高額であるという事実を考えると、カートリッジのリフィルを購入するよりも新しいプリンターを買うほうが安いことが多く、悲しいことです。

A graph showing the ink efficiency of various fonts.

フォントの選び方で出費がかさばることも

しかし、フォントや文字を拡大しても、必ずしも読みやすくなるとは限りません。

読みやすいということについて、Jeremy Loydは次のように語っています。

言葉や文章を、読者の目でコンテンツを楽に探せるように、そしてしっかり意味を成すように配置すること。組み合わせとしての成功例があり、時間をかけて磨かれてきたもはや芸術の一種である。

実用的なアドバイスとしては、読み取り速度を最適化するにはフォントサイズを10ポイント以上にするのがおすすめです。そうした意味ではArial、Verdana、Times New Romanが良い仕事をしてくれます。

マーケティング的観点から言えば、飾り気はないけれど速く読める、しかも読みやすいフォントをしっかりと選ぶべきです。下手をするとマーケターの大敵、目的の検索結果にたどり着けずに行ったり来たりしてしまうポゴスティッキングや直帰率の高さにつながるからです。見込みクライアントを、ビジュアルを見てから最初の数秒でランディングページや広告に関心を向けさせなければなりません。

Devtasker

また、フォントとメッセージを抜群のセンスで組み合わせているナイキも良い例です。Futuraのような重めのフォント(ロゴやロゴのバリエーションにも使用)のキャッチコピーを上手に活用し、オーディエンスが、メッセージが読みづらいと考えたり、注意持続時間が短くなったりという要素を排除しています。

Force: Nike typography

最後に

最適なフォント探しは小難しい科学的なアプローチでもなく、魔法の公式や秘伝のソースなども存在しません。その代わり、自分のブランド、キャッチコピー、メッセージを一番正確に体現できるぴったり合うフォントを見つけるために、最良のフォントを見つけてテストしていくということなのです。

(原文:4 Killer Typography Tips from the World’s Biggest Brands

[翻訳:加藤由佳/編集:Livit

Image: solepsizm / Shutterstock, Inc.

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