今回の業界に痕跡を残して消えたメーカーはネットワーク関連である。ネットワークの筆頭といえばNovellだろう。

個人的にはNovellの功績は2つあると考えている。1つはNetWareというネットワーク環境の有用性をユーザーに知らしめたこと、もう1つはNE2000互換カードを世に送り出したことで、低価格イーサネットカードの市場を立ち上げたことだ。
マイコンメーカーがネットワークサーバー事業に転身
投資先から反感を買い、閉鎖寸前に追い込まれる
Novellは1979年、ユタ州のオレムという町で創業された。位置はユタ州のど真ん中にあるユタ湖の東岸に位置しており、コンピューター業界との関わりは、正直なにも思いつかない。
当初はNDSI(Novell Data Systems Inc.)という社名で、CP/Mベースのマイコンの製造・販売を手がけていたが、あまりうまくはいかなかったらしい。
ここでNDSIは方針を変える。同社の初期の開発エンジニアの多くはERI(Eyring Research Institute)の出身であったが、当時ERIは政府の依頼を受けてIntelligent System Technologyという、ARPANETとも絡むプロジェクトを遂行中であった。
これはARPANETとも絡む話であるが、ARPANETは以前こちら連載342回でも触れたが、拠点間をつなぐパケット通信網と思えばいい。そしてERIが開発を請け負っていたのは、どうも拠点内のマシンをつなぐシステムだったようだ。この結果として、同社はコンピューターシステムそのものから、ネットワークシステムにターゲットを変えることになった。
もっともこの変更は、当初NDSIに投資したファンドにはお気に召さなかったようで、あやうく会社そのものが閉鎖されそうになる。
この際のいざこざで3人の創業者(George Canova氏、Darin Field氏、Jack Davis氏)のうち2人(Canova氏とDavis氏)は1981~1982年にNDSIを去っているが、残ったField氏を中心に会社は存続、さらに1983年からは同社を率いることになるRaymond Noorda氏も入社し、ネットワーク製品の開発を進めることになった。
その1983年に社名をNDISからNovell, Inc.に変更した。Novellが最初に投入したのがShareNet XとShareNet Sという2つの製品である。どちらもネットワークサーバーだが、ShareNet XはIBM-PC/XTをファイルサーバー/プリンターサーバ化するための製品、一方ShareNet Sは機能的にはShareNet Xと同じながら、MotorolaのMC68000をベースとした製品である。
ShareNet Xはスター型の構造で、最大6ユーザーまで接続可能なのに対し、ShareNet Sはトークンリング方式で、最大24ユーザーまでサポートするという違いがあった。
特に競合とみなされていたのはNESTARのPLAN 4000というファイルサーバーで、性能は同程度であったが、1983年当時の価格はPLAN 4000ではサーバー本体が60MB HDDで1万9995ドル、I/Fカードが595ドルだったのに対し、ShareNet Sは20MBのサーバーが8785ドル、I/Fカードが250ドルとかなり安価に抑えてあった。なおIBM-PC/XTを利用するShareNet Xはサーバーが4995ドル、I/Fカードが595ドルとなっていた。
ShareNetはMS-DOS 2.0ベースの環境で動作したので、ネットワーク回りは完全にNovell独自のものとなっている。このShareNetはそこそこの成功を収めたが、筆者が調べた限りではNetWare 2.0以降は独自のサーバーを提供するのを中止し、PC/AT互換機をサーバーとして立てる方向に切り替わっている。
1985年にNetWare 1.0、1986年にはNetWare 2.0が投入されているが、このNetWare 2.0はMS-DOS 3.1に対応した製品となっている。なぜこれが重要かというと、マイクロソフトはMS-DOS 3.1にネットワーク対応機能を入れており、NetWare 2.0はこのMS-DOSのネットワーク機能に対応した初のバージョンだからだ。
ネットワーク機能といってもMS-DOSのレベルなのでそれほどたいしたものではなく、単にネットワークパスとして
\\server\drive\directory...
という表記をサポートしたり、これにあわせて\\serverというパスが来たらそれはローカルでなくネットワークの先のリソースだと切り分ける、といった話だ。
これらのクライアントソフトウェアとは別に、サーバー用ソフトウェアを含むネットワーク環境一式を提供するMicrosoft LAN Managerというパッケージソフトが用意され、そのLAN Managerで利用するNetBEUI(NetBIOS Extended User Interface)というプロトコルが用意された。
やや話が逸れるが、LAN ManagerやNetBEUIは、3comが当時リリースしていた3+Shareというネットワークサーバーソフトウェアの後継となるべく開発されたもので、開発自体もマイクロソフトと3comの共同作業となっている。ただここでネットワークを3comのみに限るような閉鎖的な構造にしなかったことが功を奏しており、実際この後にはNetWare向けの拡張も行なわれている。
話を戻すと、NetWare 2.0はこのMS-DOSのネットワーク機能をうまく利用することで、標準的なMS-DOSのアプリケーションがそのままNetWareの提供するネットワーク環境を利用できる、という使いやすい環境が利用者に提供されることになった。
以後、プラットフォームの進化にともないNetWare 2.23.0/3.11/3.2/4.0/4.11/4.2/4.54/4.61と順調に進化していき、1998年には5.0がリリースされている。少なくとも1980年代から1990年の前半あたりまで、NetWareはNo.1のネットワークソフトのポジションを揺るがすものは存在しなかった、と言っても過言ではなかった。

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