高額なのがあたりまえのイーサネットに
低価格カードを投入しネットの普及に貢献
インターネットそのものは1990年代に入ってから少しづつ普及してはいたが、今のようにイーサネットあるいはWi-Fiでそのまま接続するのではなく、モデム経由でプロバイダーとつないで使うものだった。また、TCP/IPは自宅あるいはオフィス内で使うには、まだ支障が多かった。
この結果としてNovellのIPX(Internetwork Packet Protocol)をは広く普及することになり、少なからぬUnixシステムがIPXや、その上位プロトコルであるSPX(Sequenced Packet Exchange)をサポートしたりしていた。
ネットワークであるからには当然イーサネットを利用することになる。1980年代においてはこのイーサネットカードが高価で、さらにイーサネットのケーブルそのものも高価かつ扱いが面倒だった。それまでNovellは自社で専用のネットワークカードを用意していたが、こちらもなかなか価格が下がらなかった。
これが変わるのは、1987年にNovellが提供を開始したNE1000というカードである。これはNational Semiconductor(現TI)のDP8390というイーサネットチップを搭載した製品だが、低価格性を追求してバスは8bitのXT Bus準拠とし、転送はDMAを使わずPIOのみに絞ったものだ。
画像の出典は、“Wikipedia”
上の画像に搭載されたDP8390は、8/16/32bitのI/Fを持っており、またDMAチャンネルを2つ持っているので、フルに生かすとそこそこの性能が出るはずのチップだったが、あえて低価格のためにこれを低く抑えた形だ。
1987年2月の発表時の価格は495ドルだったが、これはすぐに下落する。1988年には220~230ドル前後で、やや後になるが1991年11月の広告を見るとNE1000は148.44ドルまで落ちている。
同程度のスペックを持つ、3comの第一世代のイーサネットカードである3C501は、同じ時期に316.09ドルだったので、いかに安価かわかるだろう。
ただ、さすがにDMAを切って8bitのPIOのみでは10Mbit/秒のイーサネットの性能ですらフルに発揮できないということで16bitのISAバスに切り替え、かつDMAをサポートするようにしたのが、IBM-PC/ATにあわせて1988年に投入されたNE2000である。
画像の出典は、“Wikipedia”
コントローラーチップそのものは引き続きDP8390が使われており、ドライバーそのものは共通化できた(実際にはDMAの有無などで多少動作は異なるが)。
こちらも当初の価格こそ高かったが、すぐに価格は下落していく。1991年11月の広告ではNE2000が157.06ドルとなっており、NE1000のわずか9ドル増しでしかない。競合である3comの3C503が257.65ドル、3C507が281.61ドルだったので、100ドル以上も安価に提供された。
加えて、1990年頃からNovellはNE1000/NE2000の設計をロイヤリティフリーで利用可能(ただしNovellによる認証が必要)とし、さらにNE1000/2000のボードやパーツ類を自由にサードパーティーがオーダーできるような方策を採った。これにより、さまざまなベンダーが、NE1000/2000互換カードを製造して販売できるようになった。
ちなみに認証というのは、完成したカードをNovellに送付し、そこでテストに通るとコントローラー部にNovellのシールを貼れるようになるというものだ。当初こそ、シールを真面目に貼ったカードが流通していたが、1990年代も終わりになると、シールすら貼っていないカードの方が大勢を占めていた気がする。
画像の出典は、“Modular Industrial Solutionsの商品ページ”
とはいえ、Novellとしてはイーサネットカードを売ることによる利益よりも、NetWareのクライアントソフトウェアを売ることによる利益の方が遥かに大きかったため、NE2000互換カードが市場に溢れ、低価格化することはむしろ長期的には好ましいものであり、この結果としてNE2000は1990年代後半のデファクトスタンダードになった。
そしてカードが売れるということは、ネットワーク機材もまた売れるということである。イーサネットで最初に登場した規格は10BASE5で、これはド太い同軸ケーブル(直径が1cm近かった)に、これまた大型のタップを挟み込んで、そこからAUIケーブルと呼ばれる、またまた太いケーブルを使ってつなぐもので、オフィスなどでは取り回しが非常に面倒で、しかも高価だった。
NE1000/2000が出てくる頃には10BASE2と呼ばれる、BNCコネクターとRG58といういくぶん細い同軸ケーブルを使った規格が普及を始めていたが、これも取り回しが大変で、1ヵ所ケーブルを切り離すとネットワークが全部止まるなど、いろいろ使い勝手に難があった。
これに代わるものとして10BASE-Tは1987年に標準化されていたものの、当初はハブの価格が高いなどの理由で普及が進まなかった。ところが世の中にNE2000互換カードが溢れ始め、またこれらが10BASE-Tに対応したことで、必然的にハブの需要も増え、価格がどんどん落ちて、これがまた普及を促すという好循環が構築され、1990年台にLANそのものが「高価格な設備」から「ごく普通にあるもの」になった。ここでNE2000が果たした役割は決して少なくない。
※お詫びと訂正:SPXのスペルに誤りがありました。記事を訂正してお詫びします。(2017年2月1日)
この連載の記事
-
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ