AppleのiMessageがうまく作られている理由が見えてきた
電話番号を重視しているコミュニケーションへの気づきは、特に、テクノロジー系ではない、ファッションやカルチャー、フードビジネスに属する人に顕著だと思いました。
アプリが必要ない分、SNSよりもシンプルですし、番号を知っているかどうか、そして着信履歴の上の方に常にその名前があるかどうかが親密度を表します。共通の友人を見つけたりするなどの効率化は必要ない。
機能の活用のうまさよりもメッセージの中身が重要。そういう点も、ヒップな人たちのコミュニケーションの価値観を反映しているように思います。
電話番号中心のコミュニケーションが存在するなかで、AppleによるiMessageの解釈も深まってきました。
iMessageは、何もしなければ、国番号を含む電話番号がIDになります。そして標準のメッセージアプリで利用できるため、追加のアプリは不要です。しかも、TextなのかiMessageなのかを見分けるには、送信ボタンが緑か青かを確認するしかありません。もし相手がAndroidやフィーチャーフォンなら通常のTextとして送信されるだけです。
加えて、FaceTimeも、電話番号がIDとなっており、通常の音声通話からワンタッチでビデオ通話に切り替えられます。こちらも標準アプリでそのまま利用できる仕組み。iMassageとFaceTimeは、他のSNSがコミュニケーション機能を獲得したのとは異なり、純粋なコミュニケーション手段の拡張でしかないのです。
Appleにとっては、iMessageやFaceTimeに「疲れられたら」困るのです。iPhoneで最も基本的な機能に疲労感を感じたら、iPhoneそのものが嫌になってしまうからです。その点で、iOS 10で(ようやく)ステッカーや装飾機能を追加したのも、楽しさとして許容される範囲を注意深く狙ったように感じます。つまり、やり過ぎないよう注意したということです。
とはいえ、最適化、効率化、そして「予感」への期待
人とのコミュニケーションは、場所による依存が大きいことを、身をもって体験してきた5年間です。それゆえに米国にいるということでもありますが、SNSが筆者を東京に(楽しい気持ちで)つなぎ止めることは難しかったということです。
SNSによって出会った人も少なくありません。Twitter初期にコミュニケーションを活発に交わしていた人が会社にジョインして一緒に働くという機会もありましたし、ブログで同じような視点を持っているなと思って声をかけたら、大学の先輩だったという偶然もありました。
ただ、SNS上の参加人数や情報が過剰になったこと、それによって、人々の生活やその土地で起きていることが見えすぎてしまうことによって、そこに居ないストレスが増大しているのでしょう。
情報と体験の非対称性、とでもいいましょうか。
過去の経験と現在の情報に差異があるから不均衡が起きるとすれば、未来の情報が実際の体験より先にやってくる状態、というのはどうでしょうか。
人のつながりや興味、知識のグラフができあがってくることは、気が合う人、早かれ遅かれ出会うであろう人を先回りして見つけ出すことが可能かもしれない、という期待感もあります。
そう考えると、SNSを積極的に捕らえ直してみたいという気分にもなってくるというものです。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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