リスボンで開催された2016年のWebSUMMIT(Webサミット)には166カ国から5万3056人もの人びとが来場しました。世界最大のスタートアップイベントかどうかは分かりませんが、かなり大規模なものです。
私は世界中のスタートアップイベントに参加していますが、ただの資金調達目的だと思われるものもよくあります。Webサミットのテーマは多岐にわたっているので多くの人が関心を持ちやすく、テクノロジーやデザイン、倫理観、未来主義などについて議論する場ともなりました。
現在は「スタートアップのピーク」に達しているように感じられますが、Webサミットで多くの出展者と話して、ほとんどピークに近づいているか、過ぎたように感じました。準備段階のアイデアや、スタートアップを始めるスタートアップを提供するスタートアップであったり、説明が分かりにくいものもあり、中身のない内容(いまはスタートアップのアイデアがあるだけのスタートアップに向けたブーストレーニング)をひたすら話す人もたくさんいました。
時間を使って注意すべき価値のあるスタートアップは騒々しさに埋もれてしまっているので、この記事では注目に値する、または注目に値しないものも含めてトレンドやトピックをできるだけたくさん取り上げて紹介していきます。
新しいナビゲーション&入力方法
大学の卒業プロジェクトで取り組んで以来、私は博物館のデジタルガイドに関心を持ち続けています。最近のポータブルデバイスと拡張現実(AR)は新しいレベルのインタラクションを可能にし、ミラノ発のarm23は場所、音声、映像、画像認識を合わせて1つのパッケージにしたアプリケーションプラットホームを提供しています。
私は最近Lenovo Yogabookを愛用して新しい入力方法をたくさん試し、Windowsのタブレットで使われる入力方法によく目を凝らしていますが、さらに先を行っている入力方法がメキシコ発のHypenです。HypenはBluetoothで人の動作を読み取って通信するペンの形をしたデバイスを開発しています。実用化はまだ検討中ですが、このデバイスでどのような創造的な追求ができるか今後目が離せません。
モーショントラッキングは新しいコンセプトではありませんが、Heptasenseは動画編集処理をクラウドベースのAPIに移行しているので、開発者はデバイスがなくても処理でき、新しいトレンドやチャンスにもマッチできるように更新もできるようになっています。
それから、遊び感覚で手を揺り動かして音楽を作ってみる、というのはどうでしょうか。Kaguraを使えばなかなかの音楽が作れます。
実践的なIoTアプリケーション
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)は急速に成長していますが、ありふれていたり、あまり役に立たない、あるいは安全ではない事例もたくさん見受けられます。実際にIoTを採用して実用化されている分野は商工業です。
Watgridはセンサーを使って燃料やワインなど、さまざまな産業の液体特性をモニターできます。
消費者向けIoTデバイスの大きな論点は、競合デバイスプロトコルですから、Muzzleyのようなツールを使えば積極的に競合状態を解消できます。
こうした企業が独自の特殊なIoTサービスを開発しているのと並行して、開発者向けのプラットホームも独自開発が進んでいます。多くのプラットホームが似たような機能をプライベートベータ版で提供しているので、違いを評価するのは難しいです。あえて言うなら、IoT分野に驚くような新しいなにかをもたらさない限りは、すでに入り込む余地はない状況です。
ちょっと変わったものがよければ、look appを試してみてください。ほかの人のカメラを利用して、イベントや場所だけでなく、ソファに座ったままで見たいものが見られます。
教育
この記事を読んでいる人は、学習のメリットを理解しているはずです。コーディングの教育は過去2~3年は大きなビジネスでしたが、営利のベンチャー企業はもっと革新的なさまざまなプロジェクトを進めています。もし教育分野での新事業に興味があるなら、教育関連のコンポーネントがほかのテクノロジーとどう結びついているか調べてみる必要があります。単にコースを配信するだけでは、もう注目されないのです。
「I am the Code」はアフリカ人の少女たちにコーディング教育を提供するだけでなく、最初のレッスンで生徒達はRaspberry Piベースのコンピューターを作るようになっています。
Kuboはブームになりつつある「学習ロボット」の1つで、子供たちがコーディング方法を学ぶのに役立ちます。次の動画は私が説明するより分かりやすいので見てみてください。私はこうしたアイデアが大好きなので、内容をまとめて紹介しようと思います。
Webサミットのスタートアップの大半は北の先進国からで、中南米諸国からは10企業程度、アフリカとインドからはほんの一握りでした。なぜこうした大きな国々で、興味深いプロジェクトや人たちが多くいるにも関わらず、表に出てくるのはこんなに少ないのかと不思議です。純粋にコストやビザの問題なのか、またはなにかほかの理由があるのでしょうか?
興味深いことに、発展途上国の多くでは、画像、GIFアニメーション、ショートビデオの中で、新しい共通語が生まれているということを雑談の中で耳にしました。つまりこうしたフォーマットをサポートするアプリが求められているということなので、興味があればぜひこのトレンドについて調査してください。
チャットボット
Webサミットのあちこちで、クライアントとメッセージ通信ができるチャットボット、チャットボットの作成サービス、補完サービスがありました。やはりほとんどが似たようなものだったのですが、その中にちょっとおもしろいアイデアを見つけました。
Unbabelはリスボンのサクセスストーリーの1つにあげられますが、それもそのはずで、必要な場所ですぐに翻訳ができるchat windowを世に送り出しました。UnbabelのプラットホームはSalesforceやZendesk、そのほかのAPI経由のツールに直接つなげられ、サポートスタッフとカスタマーのお互いが母語で話せるように機械と人間による翻訳を組み合わせたサービスを提供しています。
自分でチャットボットを作るにはどうしたらよいでしょうか? 方法はたくさんありますが、特におすすめめなのはrecast.aiで、既存の開発プラットホームとうまく組み合わせられ、プログラマーでなくても視覚的なドラッグ&ドロップでチャットボットを作成できるようになっています。
アプリとその次にくるもの
Webサミットではたくさんのアプリが紹介されていましたが、実用的なアプリはなかなかないという認識が強まりました。起業家や開発者は、これまでのアプリに代わる新しいもの、特にクロスプラットホームやWebベースのものを探しており、開発に時間がかからず、かつ優れた追跡と解析ができるものを求めています。この記事では、新しく発見したクロスプラットホーム対応のオプションについて延々とあげるのは割愛しますが、いま広がり始めている、特にAndroidやグーグルのWebアプリを使った新しいトレンドについてのリサーチをおすすめします。
グローバリズムの向こう側
有権者を震撼させた大統領選挙のニュースで前の晩は騒がしかったので、水曜日は憂鬱な気分で始まりましたが、世界で広がっている閉塞感について、テクノロジーの力でなんとかできないかという議論を耳にしました。世界のあちらこちらから集まった人たちの励みになるような話を聞いて私の気分は良くなりましたが、アフリカ、インド、中南米など、まだ存在感の薄い国々においてもテクノロジーの未来はあるのかと、ふと疑問に思いました。さらに先を知りたい人がいたら、企業がスポンサーとなった宇宙探査がすでに進行しているので調べてみてください。宇宙飛行士が小惑星で資源を採掘し、宇宙で3Dプリンターを使ってそれを部品にできることを知っていますか?
開発は一大ビジネス
職場での開発者の影響力は増しているので、開発に役立つサービスはさらに成長し続けています。こうしたたくさんのサービスを査定する人たちもいます。開発者は気まぐれな人たちで、すぐにアイデアを変えたりするので、自分のアイデアが新しい斬新なものか確認するために、幅広くリサーチすることをおすすめめします。
ビジネスに役立つサービス
ここではデータストレージ、セキュリティ、プライバシーなど、あらゆる関連カテゴリーを紹介します。多くのスタートアップはプライベートクラウド、安全な転送サービス、インフルエンサー、解析のネットワークなど、独創性のないソリューションで課題を解決しようとしていて、革新的な手法でこうした話題を扱っていないように考えられます。
英国企業Yotiのスマホアプリの認証は、IDカードに長い間抵抗を示していた国々の行政機関やビジネスの大規模なアプリケーションですでに採用されています。
こうしたプロジェクトが終了したと思ったころに、リベルランド代表の人たちにも会えました。リベルランドはクロアチアとセルビアの間にある小さな主権国家で革新的、技術的にセキュリティの分散化に価値を置いています。
エストニアの認証用IDカードをテコにしたスタートアップはもっとあるだろうと予想していましたが、私が見つけたのはSmart IDの1つだけでした。これはWebサイトの認証オプションとしてIDカードを必須にできるというものです。
また、SitePoint本社があるメルボルン発の多元的なセキュリティプラットホームにCForticodeのCipheriseがあります。指紋、接続アプリ、QRコード、パズル認証などをセキュリティソリューションに組み合わせて必要なレベルに設定できます。
最後に、構築したプロジェクトの脆弱性をなんとかしたいなら、Secr Secureがあります。Webアプリをスキャンしてセキュリティホールを検出するツールで、ほとんどの継続的な開発プロセスで利用できます。
バイオハッキング
政府がバイオハッキングやインプラントに代表される人間の身体にテクノロジーを応用するものについての定義や規制について検討している間にも、動きは進んでいて意欲的な起業家たちが狙う分野になっています。
EarlogicのTSCは優れたEQアルゴリズムを使って、年齢とともに失われる聴覚の周波数を上げるという、シンプルなアイデアです。従来の補聴器と同じような仕組みですが、TSCはスマホアプリなので専用のハードウェアは必要ありません。
Helixworksには圧倒されてしまいました。生成したDNAを利用したストレージシステムで、有名企業数社で活用されています。使いやすく、長期的に使えるストレージシステムなのですが、刺激的で恐ろしくさえ感じます。
orgamimeはチップに人間の腸をエミュレートする、これまでの概念を覆すものです。これは、ほんとに驚きでした。
https://www.youtube.com/watch?v=pB2-uACCdWQ
2017年に向けて
さて、2017年はどうなるのでしょうか。Webサミットではスケールもさることながら、たくさんのイベントが催され、なにが起こっているか把握するだけでも大変なほどでした。2016年はいろんなことがあり分岐点となる年でしたが、2017年もまだその流れが続くと思われます。
いま私たちの生活はテクノロジーに囲まれていて、良くも悪くもさまざまな可能性に包まれています。これまで以上に私たちのアイデアの可能性について、また自分たちが想像もしなかったような方法でテクノロジーがほかの誰かの手によって活用されるかもしれないことを考えておかなければなりません。
(原文:Web Summit 2016: IoT, Learning, Chatbots, Biohacking & More)
[翻訳:和田麻紀子/編集:Livit]
Image:Web Summit