仮想現実(VR)はいま、ちょっとしたホットトピックになっています。私もまた、VRのような新興技術のニュースについて週刊ニュースレターにまとめたり、VRやVRの持つ可能性、VR体験の作り方についてイベントで話したりと、VRには多くの時間を費やしてきました。たくさんのVRヘッドセットと出会い、ほとんどの人が知らない現実をシェアしようと思ったのです。それは、VRヘッドセットは思っているよりたくさん出回っており、これから発表されるものもまたたくさんあるということです。この記事では私のおすすめを有名なものから紹介していきます。
Oculus Rift
Oculus Riftは、VRトレンドの火付け役になったVRヘッドセットです。このヘッドセットは、思っているよりもずいぶん前に発売されています。2016年に世界中の熱心なVR導入者向けにOculus Rift Consumer Editionが発表される前には、2013年にKickstarterの支持者向けにリリースされたDevelopment Kit 1(DK1)や、2014年に発表されたOculus Rift Development Kit 2(DK2)がありました(その間、未発表のプロトタイプもありましたが、話をシンプルにするために開発者向けにリリースされたヘッドセットに限定します)。
Oculus RiftそのものはPCに接続された状態で動作しますが、現在OS Xのサポートは終了しています。正直に言うと、この記事で紹介しているVRセットにOS Xで動作するものはありません。ちなみに、VRアプリはOculus Storeからインストールできます。
では、Oculus Riftはほかのヘッドセットにはない、どのようなことができるのでしょうか? それを端的に以下にまとめました。このまとめ方は、これから紹介するほかのVRヘッドセットでも共通です。
- 解像度:1080×1200ピクセル(片目)
- 視野角:110度
- ディスプレイ技術:OLEDスクリーン1個(片目)
- リフレッシュレート:90 Hz
- ヘッドフォン:ヘッドセット内に統合
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:ほとんどは座式かスタンディング式。ルームスケール用の追加センサーが購入可能(2016年10月に発表)だが、実際にOculus Riftのゲームにルームスケールのものがいくつあるのかは把握していない。基本的に、Oculus Riftは1つの場所からスタンディング式または座式で楽しめるVR体験に集中している
- コントローラー:2016年6月からOculus Touchハンドヘルドコントローラーの注文が始まった
HTC Vive
HTC Viveはテクノロジー/ゲーム業界以外ではあまり知られていませんが、人気急上昇中が納得できる仕様です。ViveはHTCとValveのパートナーシップによって誕生し、2015年3月に公式発表されました。Viveで一番気に入っているのは、最大15×15フィートまでの空間を自由に歩き回れるようにしてくれる「Lighthouseセンサー」が同梱だという点です。VRを体験しながら歩き回れるという特徴は「ルームスケール」と呼ばれています。
また、コントローラーが2つもついてきます。このおかげで、Viveアプリやゲームのほとんどで、その世界観に完全に溶け込めます。VRの中を歩き回ったり別のアングルから見てみたり、2つのコントローラーを使ってVRの世界にアプローチしたりできるのです。VRアプリで気に入っている1つ、Tilt Brushでは空間に絵を描けます。文字通り、身の回りの空間に描いた絵をすべてのアングルから眺め、音楽に反応させられるのです(最新のアップデートによる新機能)。本当にすばらしい機能です。
Oculus Riftと同様、HTC ViveはPCに接続した状態で動作します。HTC Viveゲーム・VR体験はStreamまたはViveの独自ストア「Viveport」から購入できます。たとえば、Viveのコントローラーが必要なアプリの場合、アプリとの互換性はないなど、StreamのVR体験はアプリの使用条件にもよりますが、ほかのVRヘッドセットでもプレイできるようになっています。
- 解像度:1080×1200ピクセル(片目)
- 視野角:110度
- ディスプレイ技術:OLEDスクリーン1個(片目)
- リフレッシュレート:90 Hz
- ヘッドフォン:外部ヘッドフォンの接続が必要
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:HTC Viveのルームスケール能力は特に有名
- コントローラー:ハンドヘルドコントローラー2つが付属
ソニー PlayStation VR
VRはこのクリスマスまでに多くの家庭で見られるようになるでしょう。PlayStation 4に接続した状態で動作し、コントローラーはあまり進化していない感じです。Oculus Rift、HTC Viveよりは安価なものの、その分機能も完全ではありません。そうはいっても、ソニープラットホームで遊べるゲームのことを考えれば、若干見劣りのするスペックにも目をつぶれるかもしれません。というのは、ソニーはゲーム開発業界に多くのパートナーを抱えているからです。Batman、ArkhamVR、Resident Evil 7をVRでプレイできるとしたらそれは楽しいことでしょう。各ゲームのVR互換性、コントローラーの条件などは異なるので、詳しくはゲームの箱の記載を確認してください。
- 解像度:960×1080ピクセル(片目)
- 視野角:100度
- ディスプレイ技術:OLEDスクリーン1個(片目)
- リフレッシュレート:120 Hzから90Hzまで変化
- ヘッドフォン:外部ヘッドフォンの接続が必要
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:ソニーでは、VR体験のほとんどは座った状態でプレイするよう推奨している。HTC Viveのルームスケールのように歩き回れない
- コントローラー:ゲームでは通常のPlayStationコントローラーも使えるが、別にPlayStation Move用のコントローラー1つか2つを買うという選択肢もある。ヘッドセットにも同梱されてくる。また、一人称視点のシューティングゲーム「PS Aim Controller」も近々発売になる
Google Cardboard
Google Cardboardヘッドセットは、もともとは本物の段ボールで作られていたポータブルヘッドセットです。私が会った人のほとんどが、いろいろなVRヘッドセットがある中でもこれは試していました。ヘッドセットそのものにいろいろな機能があるというよりはスマートフォンを差し込んで、スマートフォンがアプリを動作させるという仕組みです。ほとんどの場合VRアプリケーションディスプレイは片目ごとに分割スクリーンビューで2つの画像を表示しますが、Google Cardboardでは2つのレンズ越しに画像や映像を見ます。価格は20ドル程度で、これからもっと安くなると予想できるので、VRを一番安く簡単に試す方法です。
Google Cardboard方式のヘッドセットは、Aldi、Lincraft、Tesco、Walmart、Costcoなどいろいろな場所で売られています。取り扱っている店すべてのリストを作ったらこの3倍以上になるくらいです。Google CardborardのアプリはGoogle Playstoreから購入ができ、またスマートフォンのブラウザーから見られるVR、WebVR体験Google Cardboardなら簡単に試せます。
- 解像度:スマートフォンのスペックによる
- 視野角:90度
- ヘッドフォン:外部ヘッドフォンの接続が必要。またはスマートフォンの音量は上げたほうがよい。Google Cardboardスタイルのヘッドセットの中には、ヘッドフォンのジャックをスマートフォンにつなげるように穴があいているものもあるが、あいていないものも多いので要注意
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:座式またはスタンディング式。ルームスケールには対応していない
- コントローラー:トリガーアクション用のボタンがついているものもあるすが、最近のGoogle Cardboardヘッドセットでは徐々に見られなくなってきている
Google Daydream View
Google Daydream Viewはグーグルが発表したGoogle Cardboardヘッドセットの後続モデルです。使用できるのはAndroid 7.1に搭載される予定のVRプラットホーム「Daydream」と互換性があり、最近発売されたスマートフォンのみとなります。グーグルではスマートフォン製造業者対象に、Daydreamとの互換に必要なソフトウェア・ハードウェアの規格を発表しています。Daydream VRのヘッドセットは2016年11月後半に入手可能となります(この記事の公開、数か月後に読む人もいると思うので、2016年11月時点と言っておきます)。
ほかのメーカーもDaydreamとの互換性のある独自ヘッドセットを製造できますが、「Daydream View」ヘッドセットはグーグルから初めて公式にリリースされたヘッドセットでもあります。素材には軽量の布を採用しており、いままでに私が聞いた中でもっとも付け心地の良い素材で作られたVRヘッドセットと言えそうです。
- 解像度:スマートフォンのスペックによる
- 視野角:詳細については未発表
- ヘッドフォン:外部ヘッドフォンの接続が必要。ヘッドセットの写真からすると、外部ヘッド接続用のヘッドフォンジャックがある
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:いまのところはGoogle Cardboardと同様で、座式またはスタンディング式で、ルームスケールには対応していない
- コントローラー:ワイヤレスコントローラーが1個付属。Daydreamヘッドセットのデザインでは基準となりそうだ
Samsung Gear VR
Gear VRヘッドセットはGoogle Cardboardヘッドセットによく似たモバイルVRヘッドセットで、Samsung・Oculusのパートナーシップで実現しました。しかし、Gear VRヘッドセットにはヘッドセットの位置をトラッキングする追加トラッキングもついており、スマートフォンそのものよりも正確なトラッキングができます。ヘッドセットのバージョンにも、「Innovator Edition」ヘッドセット、「Consumer Edition」ヘッドセットがそれぞれ2種類といろいろあります。「Innovator Edition」の第1弾はSamsung Galaxy Note 4のみとしか互換性がありませんでしたが、最新の「Consumer Edition」はS6、S6 edge、Note 5、S7、S7 edgeと互換可能です。Note 7の安全問題に関してですが、Note 7はGear VRではスマートフォンとして動作しないようにしているので安心かもしれません。でも、まだNote 7を持っているなら…、本気で返品したほうが良いと思います。
Gear VRは、高品質のVRアプリを独自プラットホームで動作させる達人技に成功しています。Gear限定のVRライブストリーミングイベントも多く開催されています。また、Samsungのスマートフォンを購入すると無料でついてくることが多いため、すでに多くの家庭で見られるようになっています。
- 解像度:1280×1440ピクセル(片目)
- 視野角:古いものだと96度だが、2016年の最新モデルでは101度
- ヘッドフォン:外部ヘッドフォンの接続が必要
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:いまのところはGoogle Cardboardと同様で、座式またはスタンディング式で、ルームスケールには対応していない
- コントローラー:ヘッドセットにボタンが搭載されている
OSVR
OSVRは「Open-Source Virtual Reality」の略で、その理念もまさにその通りです。「多種多様なブランドや企業の技術をまたぐ普遍的なオープンソース型VRエコシステムの構築」を狙っており、SensicsとRazerによって共同開発されました。その目的はVRをPCエコシステムと同じように、いろいろな種類のヘッドセットやコントローラーなどを接続できるオープンソース型のエコシステムにすることです。その最初のヘッドセット「HDK 1」は2015年に、最新の「HDK 2」は2016年に発表されました。
最新のOSVR HDK2のスペックは以下の通りです。
- 解像度:1200×1080ピクセル(片目)
- 視野角:100度
- ディスプレイ技術:OLEDスクリーン1個(両目)
- リフレッシュレート:90 Hz
- ヘッドフォン:外部ヘッドフォンの接続が必要
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:座式・スタンディング式のみ
- コントローラー:現時点でコントローラーはなし
Mattel View-Master
Google Cardboard型のヘッドセットはすでに店頭で買えるようになっていますが、MattelのView-Masterヘッドセットは独自のVR体験エコシステムを持っているので別のリストに入れました。子供たちはもうこのヘッドセットを持っていて、もっとコンテンツを欲しがっている状態です。VR開発者のみなさん、チャンスです!
- 解像度:スマートフォンのスペックによる
- 視野角:90度(Google Cardboardと同じ)
- ヘッドフォン:現状ではヘッドフォン接続ができないが、今後、ヘッドフォンジャックつきのものが出てくる可能性がある
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:いまのところはGoogle Cardboardと同様で、座式またはスタンディング式で、ルームスケールには対応していない
- コントローラー:View-Masterにはボタンがついているのでとても安心
Pico Neo
Pico Neoは、OculusとGoogle Cardboardを掛け合わせた感じのヘッドセットです。Android 6.0を搭載しスマートフォンと情報共有するチップが内蔵されているので、スマートフォンを取り付けるというよりは、ヘッドセット単体がスマートフォンと同じような形でプロセス処理をしています。PCと接続しなくても動作しますが、つないだほうがより幅広いVR体験を楽しめるようになっています。
- 解像度:1200×1080ピクセル(片目)
- 視野角:102度
- ディスプレイ技術:AMOLEDスクリーン1個(片目)
- リフレッシュレート:90 Hz
- ヘッドフォン:ヘッドフォンジャックがあるので、自分のヘッドフォンをつなげられる
- 座式・スタンディング式か、ルームスケールか:座式・スタンディング式のみ
- コントローラー:D-Pad式のコントローラーが使用可能。またコントローラーはPlayStation Moveに酷似していて、PlayStation風のカメラもついている
Dlodlo
中国発の一風変わった名前のVR会社。VR愛好家の中でもその名前を聞いた人はほとんどいないと思います。そのDlodlo Glass H1ヘッドセット(Dlodloの発音は「ドド」になると聞いています)はGear VRによく似た形で、使うにはスマートフォンが必要で、ヘッドセットのトラッキングを改善するセンサーを搭載しています。
しかし、Dlodlo V1でとにかくすばらしいのはデザインです。少し分厚いサングラスのような外見(厚さは16ミリ)で、重さはなんとわずか88グラム。ケーブルでPCまたはスマートフォンに接続して使えるようになります。聞いたところでは、サングラスのようなデザインなのでしかたありませんが、ヘッドセットに外からの光がたくさん入ってきてしまったVRとしてはよくありません。また、顔に巻き付けるタイプのものではないため、頭の上で安定しないそうです。それでも、結局はVRヘッドセットとしては比較的携帯性に優れているということもあり、その欠点をカバーして余りあるほどのメリットがあります。
- 解像度:1200×1200ピクセル(片目)
- 視野角:105度
- ディスプレイ技術:カスタムLCDスクリーン1個(片目)
- リフレッシュレート:90 Hz
- ヘッドフォン:自分のヘッドフォンをスマートフォンにつなぐ形らしいが、Kickstarterで独自のワイヤレスヘッドフォンも販売している
- コントローラー:コントローラーはまだ出ていない。しかし、KickstarterのFAQページに、「D1・V1のVR体験のさらなる進化を目指し、ジェスチャー認識・空間分析機能を間もなくリリースする」とある
発売予定のヘッドセットはまだまだたくさんある!
シャープのプロトタイプ
シャープが発表したVRヘッドセットのプロトタイプのディスプレイ解像度はなんと片目1920 x 2160ピクセルと、これまでに紹介した既存のVRヘッドセットの解像度をすべて上回っています。しかし、両目で4Kという解像度には最高レベルのPC設定が必要になりそうです。
マイクロソフトがHP、Dell、Lenovo、Asus、Acerとパートナーシップを結ぶ
つい先週、HP、Dell、Lenovo、AsusそしてAcerの5社がマイクロソフトと提携し、各社がそれぞれPCとの接続型のVRヘッドセットを開発していることが発表されました。
これらのヘッドセットで一番すばらしいのは、マイクロソフトがHoloLensを使ってヘッドセットの空間位置情報を追跡する「インサイドアウト」トラッキングについてこの5社とライセンス提携をしたことです。これで、RiftやViveとは違い、外部センサーがなくても位置情報のトラッキングができます。それだけでなく、ヘッドセットはすべて299ドルからと手頃な価格販売されます。
VaiaVR
SteamVRのゲームタイトルと互換可能な、モバイル版ルームスケールVR体験ができるヘッドセットが登場する模様です。コードやLighthouseセンサーのないViveといった感じがします。まだ初期段階ですが、期待感は十分高いプロトタイプです。VRFocusによると、Dacuba 6-DOFトラッカーはスマートフォンの内蔵カメラを使い、ヘッドセットの位置や向きを1秒に60回感知するとのことです。
FOVE
近い将来リリースされる予定で、今週には先行予約がスタートします。アイトラッキング機能搭載で、ヘッドセットがユーザーの目がどこを見ているか感知できるという点がFoveヘッドセットのおもしろいポイントです。理論的には、視線の向きによってVR体験が変化するということになります。また、視線の先にあるテクスチャーやコンテンツを高画質で描画し、見ていない場所は低画質で描画する「Foveated Rendering(中心窩適応レンダリング)」という機能も搭載されています。
Snapdragon VR820 Reference Platform
Qualcommはほかのメーカー向けのスマートフォンのレファレンスデザインを作成していますが、時代の流れを受け、VRヘッドセットのレファレンスデザインも作り上げました。Foveと同じアイトラッキング機能、最大解像度が片目で1440×1440ピクセルのAMOLEDディスプレイも一対で搭載しています。さらに、単純なAR体験を可能にする外部フォワードフェイシングカメラ、そしておそらく追加トラッキング機能も搭載されます(マイクロソフトのコンセプトと似た感じです)。マイクロソフトのリファレンスプラットホームに登場予定のHP、Dell、Lenovo、Asus、AcerのVRヘッドセットとまったく同じように、Snapdragon VR820のリファレンスプラットホームも独自VRヘッドセット製造もしているスマートフォンメーカー向けになる模様です。もうすぐ非常に多くのVRヘッドセットを目にするようになると思われます。
Intel Project Alloy
2016年8月、インテルも同社のRealSense技術を使用した、センサーのいらないオールインワンのVRソリューションを発表しました。ヘッドセット上のRealSenseカメラによってユーザーが自らの手を使ってVRを体験でき、さらにルームスケールで歩き回っているときに周りの壁や障害物にぶつかるリスクを防げるようになっています。ヘッドセットそのものに演算能力が搭載されているので、PCに接続する必要もありません。先に上げたマイクロソフトやQualcommのように、ライセンス提携を視野に入れた技術です。
最後に
今日、思っているよりもずっと多く、信じられないような数のVRヘッドセットが出ています。有名どころのGoogle Cardboard、Gear VR、Oculus Rift、HTC Viveだけではありません。それだけでなく、あと数か月または数年でリリース予定のものもさらにたくさんあります。トラッキング機能の改善(特に、外部センサー不要の「インサイドアウト」トラッキング)や、VRの可能性を一新する「アイトラッキング」機能など、VRの分野はドキドキするような潜在力を秘めています。まだVRヘッドセットを持っていない人にとっても、VRをまったく試したことがない人にとっても、たくさんの選択肢があるのです。
(原文:There Are More Virtual Reality Headsets Than You Realize!)
[翻訳:加藤由佳/編集:Livit]