クロスクラウド戦略が見えたVMworld 2016レポート 第4回
VMworld 2016で発信したかったメッセージの意図とは?
「SDDCが完成形に近づいてきた」ヴイエムウェア三木会長が語る
2016年09月05日 07時00分更新
ヴイエムウェアが、2016年8月29日から9月1日(現地時間)まで、米ネバダ州ラスベガスのマンダレイベイホテル&コンベンションセンターにおいて開催した「VMworld 2016」は、「be_TOMORROW」のテーマ通り、VMware Cross-Cloud Architectureと呼ぶコンセプトを発表するなど、同社が提案する「明日」を示すものとなった。VMworld 2016に参加したヴィエムウェアの代表取締役会長である三木泰雄氏に、現地でインタビューを行ない、今回のVMWorld 2016のインパクトなどについて聞いた。(以下、敬称略)
過去に言ってきたことが現実になってきた
――今年のVMworld 2016のポイントはなんですか。
三木:ひとことでいえば、ヴイエムウェアが過去から言ってきたことが、現実になり、その完成度が高まってきたという点です。そして、これまでは少しぼんやりしていた方向性が、はっきりしはじめてきたともいえます。
具体的には、いままでのクラウドの議論は、AWSか、VMwareベースのクラウドかといったような分類で行なわれていたものが、それぞれをつなげてマルチクラウドで利用するといった環境が、現実のものになってきています。数年前には、プライベートクラウドでSDDC(Software-Defined Data Center)を活用しようという提案であったものが、ハイブリッドクラウドへと移行し、その先にはメガクラウドとの接続も行なわれている。こうしたユーザー自身の環境変化を捉え、ヴイエムウェアが打ち出していくクラウド戦略が、よりクリアになったといえます。
また、ハイパーコンバージドインフラストラクチャーの領域においては、コンピューティングとストレージの仮想化だけでは十分な威力が発揮できなかったものが、ネットワークも加わり、ここおいても完成系の姿が見え始めてきた。ネットワークの仮想化は、これからのキーになっていくのは間違いありません。
――仮想化がコンピューター、ストレージ、ネットワークの三位一体の仮想化が完成に近づいてきたわけですね。
三木:今回のVMworld 2016では、コンピューティング、ストレージ、ネットワークが、それぞれが独立した形で仮想化するだけに留まらず、統合する姿を見せることができるようになった。ここでも、これまで言ってきたことが現実になり、方向性がはっきりしてきたと言えます。
2011年に、SDDC担当エグゼクティブバイスプレジデントのラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)が、SDDCのコンセプトを打ち出し、それから5年を経過しました。今回のVMworld 2016では、新たにCross-Cloud Architectureを発表しました。これに則った製品が出てくるのはこれからであり、まだコンセプト的な部分もありますが、方向性は明確に示せたといえます。
基調講演の内容も、過去からの継続性が保たれており、SDDCのメッセージが完成系になってきたことを感じます。完成系の姿と、将来の方向性を明確に示したのが、今回のVMworld 2016のポイントであったといえます。
――日本からも、パートナーや顧客など、250人以上が参加しました。
三木:パートナーにとっても、顧客にとっても、ネットワークの仮想化に関するメッセージは強く響いたのではないでしょうか。これから、パートナー企業にとっても大切なのは、ネットワークのエンジニアをもっと育成していくことだといえます。それは、ここ数年、私がパートナー各社にお願いしていることでもあります。
今回の発表でもわかるように、コンピューティングとネットワークの垣根がなくなる世界が訪れています。しかし、それぞれのエンジニアは別々で、組織も別々となっています。両方がわかるエンジニアを育成して、組織も一体化していかなくてはいけない。これは重要な要素だといえます。
動きの速いパートナーのなかには、こうしたことに積極的に取り組んでいる例がすでに出ています。VMworld 2016に参加しているパートナーと話をしても、「コンピュータのエンジニアにはネットワークを勉強しろ、ネットワークのエンシニアにはコンピュータの勉強をしろと言っている」という声があがっています。そうしたパートナーが増えてくると、顧客に対しても、両方をまたがった提案ができるようになりますし、ビジネスチャンスも広がり、マーケットも拡大すると考えています。これは、今後のVMwareの強みになります。いち早く統合した姿を示すことで、実際に活用するためのノウハウが蓄積され、それがVMwareの差別化につながるからです。
各社の強みが活きるパートナーシップを構築する
――今年2月に発表したIBMとの協業についても、VMworld 2016では積極的な情報発信がみられました。ここは日本との温度差を感じた部分でもありましたが。
三木:IBMは、vCloud Air Networkパートナーであり、IBMは、VMwareのSDDCのスタックを活用して、SoftLayerベースのクラウドサービスを提供しています。今回のVMworld 2016では、VMware Cloud Foundationに基づく新しいサービスである「VMware Cloud Foundation on IBM Cloud」の提供を開始するという発表がありました。IBMとの連携はさらに深く進めていくことになります。これは日本でも同じです。
その一方で、vCloud Air Networkパートナーとしては、NEC、富士通、日立、NTTグループ、IIJ、ニフティなどがあり、VMwareベースでのサービスを提供しています。vCloud Air Networkパートナーとの連携という点では、日本はほかの国に比べてもうまくいっています。そのパートナーシップも強化をしていきたいと思っています。Cloud Foundationにおいて、先行したのがIBMです。同じような形で、ほかのパートナーにも、Cloud Foundationによる協業を提案していくことになります。ただ、vCloud Air Networkパートナーに各社において、VMwareの使い方はさまざまで、こうしたパートナー各社の特徴を生かしていきたいですね。エンドユーザーからみれば、サービスが重要であり、そこに、それぞれの会社ごとの特徴を打ち出せると考えています。
――今回のVMworld 2016の成果を、日本のパートナー、顧客に対して、どう発信していきますか。
三木:日本では、11月にvForumを開催する予定です。VMworld 2016で発表されたマルチクラウド戦略やCross-Cloud Architecture、あるいは、ハイパーコンバージドインフラストラクチャーのCloud Foundationなどを中心に紹介していきたいと考えています。VMwareが打ち出してきたコンセプトや方向性の完成度が高まっていることを示すとともに、多くの実績が出ていることも具体的事例を通じて示したいと考えています。特に、日本のユーザーは、どんな導入事例があるのかといったことを重視しますので、そのあたりに力を注ぎたいですね。
ネットワーク領域における事例も、今回はお伝えしたいと思います。ネットワークの仮想化においては、セキュリティ、オートメーション、コンティニュティがキーワードになりますが、すでにそれぞれの領域での事例が、日本で出てきています。
オートメーションでは、味の素がネットワークの仮想化によって、ハードウェア機器を減少させ、運用工数が10分の1にした例があります。また、コンティニュティでは、中国電力が、ネットワーク全体を仮想化して、2カ所の計算センターを1つの仮想環境として統合。片方の計算センターでシステム障害が発生した場合でも、もうひとつの計算センターを活用できるようにしました。さらに、マイクロセグメンテーションの事例も数多く出ています。今年のvForumではそうした事例が数多く紹介したいと思っています。また、コンピューティングやネットワークといった個々の事例だけでなく、それらを統合したものも紹介していきたいですね。ぜひ、楽しみにしていてください。
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