Photoshopの初期のころを振り返ってみます。「Before CS(CSの前)」ということで「BC」と呼びましょう。サードパーティの画像フィルターがとても重要だった時期です。Photoshopをインストールしても、Kai’s Power ToolsやAlien Skin Eye Candyといった優れたサードパーティ製のフィルターがなければ、とても物足りないものでした。
しかし同時に、それは「ワントリックポニー(馬鹿の一つ覚え)」フィルターの黄金時代でもありました。ある特定の方法で特定の効果をもたらすためだけにデザインされた、Photoshopのフィルターです。代表的なワントリックポニーフィルターには次のようなものがありました。
- The Page Curl Filter(ページカールフィルター)
- The Jigsaw Puzzle Filter(ジグソーパズルフィルター)
- The Posterizer Filter(ポスタライザーフィルター)
これらのフィルターは確かに使ってみると楽しいものです。でも本当に実用的で、商業的に使いものになるものだったでしょうか?
いいえ。あまり使えませんでした。
アウトプットがあまりコントロールできなかったので、柔軟性に欠けていました。もっとも、それ以上にジグゾーパズルやページがカールしているデザインの需要はとても少なく、限りなくゼロに近かった、というのがもっぱらの理由です。これらのワントリックポニーフィルターをFox Run Banana Slicerという、美しいガジェットと比べてみましょう。
バナナを10mmスライスに正確にカットしたければ、このバナナスライサーを使えば文字通り数秒で完了します!
注意:ただし、もう少し薄かったり厚かったりするスライスが必要な場合や、曲がっている規格外のバナナを取り扱う場合、Fox Runは使えません!
バナナスライサーのように、ワントリックフィルターもデザインコミュニティではあまり人気が出ませんでした。プロのシェフがバナナスライサーを使わないのと同じように、プライドのあるデザイナーはワントリックポニーフィルターを使うことはありませんでした。たった一度だって、です。
そして私も、ずっとそう信じていました。Prismaが出るまでは。
Prismaっていったいどんなもの?
Prismaは iOSとAndroid対応のスマートフォン用アプリです。自分の写真に画像フィルターをかけるために作られたアプリです。基本的にはInstagramにあるフィルターの進化版だと思えばいいでしょう。
Prismaを使うと、スキルもわずかな調整も必要なく、アーティスティックな表現が手に入ります。フィルターを1つ選んで、「Go」を押すだけです。どう考えても、Prismaはワントリックポニーフィルターが集まったものに見えます。
Prismaを嫌いにならないと…いや、嫌いになりたい、でも嫌いになれない
Prismaでなにができるか見てみましょう。まず、Prismaには無料のフィルターエフェクトが29種類あります。エフェクトは、ハイゼンベルグといった芸術家のような名前やトラバースライン、ゴシック、モザイク、レッドヘッド、イリーガルビューティーなどがあります。
最近撮影した写真を使って、2種類のフィルターを試してみます。きっとPrismaの良さに気づくはずです。
最初のPrismaフィルターは「Heisenberg(ハイゼンベルグ)」というもので、ハードな木版画のようなプリントのようです。
昔からウッドカットプリントは、木の表面の不完全な彫りのカーブを描く曲線ツールで作成されていました。ハイゼンベルグフィルターはこのような彫りを反映しています。
不揃いで粗っぽい見た目ですが、職人の古典的な彫りのデザインは、建造物や都市で開催される社会的な事業や、フィクションライターの文章といったものに添えて使えそうです。
次に、「Composition(コンポジション)」というPrismaフィルターを適用しました。ハイゼンベルグとはまったく違う見た目ですが、フィルターによってフレッシュで力強い画像になりました。称賛しろとまでは言いませんが、個人的にかなり好きな作品です。
「コンポジション」を使うと、最高にオシャレな50年代のジャズの雰囲気に仕上がります。このフィルターは音楽やイベント雑誌に使われる、ビジュアルの特徴を強く際立たせています。
足元のマンホールのカバーの彫りや形を見てください。印象的だと思います。
Prismaの仕組み
PrismaはUI部分がスマホアプリとして動き、画像はPrismaサーバーで処理しているようです。だいたい20~30秒でフィルターがかかった写真が返されますが、サーバーの処理能力が不足しているときはまったく戻ってきません。ワントリックポニーでもPrismaでも、画像変換にコンピューターのパワーをかなり使用することは間違いありません。
フィルターの大部分がアートスタイル(コミックやペンスケッチ)か特定のアーティスト(リキテンスタインやピカソ)をまねしていますが、単なるコピー作品ではありません。
先ほどの例を詳しく見ると、Prismaが独創的なカラーとラインを選んでいることが分かります。どのラインを削除し、強調するか、どのカラーを対比させるかを決めているのです。Prismaのアルゴリズムのアイデアは独創的で、そして繊細です。
口にするのが憚られますが、Prismaはとてもかっこいいアプリです。もともと見た目がイマイチな写真は良くなりませんが、素敵な写真をどこか新しく、人目を惹くものに変えてくれます。
ついにワントリックポニーは、Prismaという馬小屋を見つけました。ポニー、こっちです。Prismaはすばらしい技術です。
(原文:Prisma: The Rise and Fall and Rise of the One-Trick-Pony Filter)
[翻訳:中野汐里]
[編集:Livit]