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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第55回

劇場版BD発売中! 今あらためて「大洗」と「ガルパン」を考える

ガルパン杉山P「アニメにはまちおこしの力なんてない」

2016年08月06日 17時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII.jp

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(C) GIRLS und PANZER Film Projekt

杉山 ただ、町の人たちは今まで著作権など気にしたことがなかったわけです。そこの理解をしてもらうのは大変だろうなと思いました。たとえばあるお店が、あんこうチームなどのマークを冠した商品を作って売るといったことを始めたわけです(笑)

 ホントはそれはダメなんですが……常盤さんと話をしていたのは、そういうケースに関しては、応援してくれているわけだし、その自主的な応援の気持ちは大事にしたい。しかも値段も安いものだから、これについては「いまは片目をつぶっておきます」と。

―― というと?

杉山 商工会などできちんと版権処理の窓口を設けて――これはいずれ設けるつもりではいましたので――それが軌道に乗った段階で、少しずつ正常化していきましょうと。

―― つまり大きな企業以外は、商工会で版権の利用申請受付と利用状況をまとめてレポートし、それを元にバンダイビジュアルさんから商工会へ請求が届き、商工会がお支払いする、という流れですね。

杉山 しかし大洗に行って、実際に商品を手に取ってみるとわかりますが、ほとんどロイヤリティーが乗っていないような金額で商品が販売されています。そんな商売っ気のなさがファンに受け入れられた――つまり『俺たちをカモにしようとしている』と思った途端にファンは一気に離れるんですけれど、逆に「こんな値段でいいの?」という声が多かったんですよ。

 得てして、キャラクターを載せて値段を上げるという商売をしがちじゃないですか。ですが大洗は食べ物も含めてものすごく物価が安い。その上に(ライセンス料が)載っかっても、それこそデザインを変更した包み紙の実費分くらいしか上がってないんです。

大洗の商店では、それぞれ工夫をこらしたオリジナルグッズが販売されている(撮影:佐藤ポン)

―― ファンはわかりますよね。普段他のキャラクターグッズも買っていますから。

杉山 これもラッキーなことに、ガルパンのファンって30代後半以上だったんです、最初のコアな人たちは。

 社会で仕事をしている人たちが中心なので、原価というものに理解があるわけです。だから「えっ! こんな安くていいんですか?」となる。この人たちは儲ける気がないのかもしれない(笑)という風に理解してくれたのだと思います。これが高校生とか大学生とか、社会に出ていない子たちが中心の作品だったら、たぶんこうはならなかったでしょう。

 典型的な例がウスヤさん(ウスヤ精肉店)という、劇中にも登場する串カツを売っているお店です。最近は大晦日にガルパンファンが、磯前神社で初日の出を見ようということで夜明かしをするんですね。年末の海のそばだからものすごく寒い。そうしたらウスヤさんは朝の5時まで店を開けてくださったんです。ファンが暖まれるようにって。串カツも売るんですが、一緒に甘酒を振る舞っちゃうんですよね。

―― 無料で……。

杉山 それ、下手をすると赤字でしょ、と。でもそれをやる人たちなんですよ。誰から頼まれるでもなく、自分たちでやり始める。そういうことをしてくれる町だからこそ、「ガルパンがきっかけだけど、大洗が好きで、どこそこの商店のおばちゃんに会いに来ました」って、ファンが手土産持っていくわけですよ。

 それは、やっぱり作品を作る上で予想もしていなかったし、こうしてくださいなんて一言も言っていないし、言ったところでできることではありません。本当に偶然と、町の人たちのホスピタリティーがあったからこそですね。こんなこと、企画の段階から仕込めないですよ(笑)

(撮影:佐藤ポン)

ガルパン「後」の大洗

―― たくさんの幸運もあったと。とはいえ、先ほど杉山さんが仰ったようにコンテンツはいつか終わる、つまりガルパンブームもいつかは過去のものになります。そうなったときでも、作品ではなく“町のファン”が生まれていれば繰り返し足を運んでもらえる、つまりおカネを使う。……場所によっては移住する人もいらっしゃったりという話もありますが。

杉山 大洗にも20人くらい移住した人がいますね。

―― 自治体が制度を整備したわけではない、そこに暮らす人たちが自主的に始めた取り組みであったわけですが、“結果的に”まちおこしになった、ということですね。

杉山 結果として、移住者が増え、週末ごとにファンがやってきて楽しみ、おカネを使ってくれるということがまちおこしだと言えば、まちおこしだと思いますが……。“興し”という言葉って意図的なものだと思うんです。意志がそこに感じられるんですよね。だからそういう意味では違和感はありますね。

 大洗って、もともと観光地で、ホスピタリティーが高く、年間を通じてイベントが多いんです。いろんな仕掛けをしてお客さんを誘引する努力をしてきた町なので、ガルパン1つに町の命運を委ねる気はないと思います。

 そんなことされても我々も困るし、そんな気はなくて、おカネ・経済効果を度外視してみんなでガルパン面白いねって言ってくれる町だから、ファンが安心して来られるということだと思うので。たぶん、いまでもガルパンを使って町をどうのこうのというのは、意識していないんじゃないかな……。

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