豊富なユースケースに新技術を“プラス1”して提案する
――次に、アバナードが支援する顧客のデジタル化について教えてください。具体的にどのような領域でデジタル化を支援しているのでしょうか。
クマール氏:具体的には「デジタルカスタマー」「デジタルワークプレイス」の2分野を中心として、顧客のデジタル変革をサポートしている。これはあらゆる業種や企業規模、国の顧客に対して提供可能だ。
デジタルカスタマーの領域では、あらゆるタッチポイントにおいてカスタマーエクスペリエンスを変革することで、カスタマーに喜びをもたし、好印象を持ってもらうことを目的としている。顧客データからもたらされる全方向的なビュー(360°ビュー)に基づいて、エクスペリエンスデザイナーが中心となって顧客を分析し、いかなるタッチポイントでも満足していただけるようなカスタマーエクスペリエンスを構築していく。
たとえばわれわれは、ある銀行顧客のために、機械学習を採用したカスタマーアナリティクスのアプリケーションを開発した。店舗窓口、電話、Webサイト、いずれのタッチポイントであっても、その顧客に対して次に取るべき「最良のアクション」をリアルタイムに提示するものだ。そのアクションに対し、カスタマーがどういう反応を示したかというデータも収集し、次のアクション提案につながる。
――なるほど。今挙げられた例では機械学習が採用されていますが、ほかにも新しいテクノロジーを活用した事例はありますか。
クマール氏:物理デバイスを通じて膨大なデータを収集できるIoTも、デジタルイノベーターにとっては重要な要素だ。
たとえばある鉱山会社では、ブルドーザーなどの重機、あるいは鉱山そのものに据え付けられた多数のカメラやセンサーが送信するデータを、Azureクラウドで収集し、分析している。分析後の情報は、現場監督が持つWindows Mobileデバイスに送信される。これにより、現場作業の生産性も安全性も、さらに各重機の稼働率も向上した。それまでは“紙ベース”で現場管理を行っていたわけで、これはIoTとクラウド、モバイルデバイスの活用で実現した“まったく新しいシナリオ”だと言える。
アバナードでは、29カ国に展開する当社全体をカバーする巨大なユースケースライブラリを構築している。業界別、目的別、テクノロジー別に、成功のノウハウを蓄積してきたわけだ。
――顧客に新しいシナリオを提案する際には、過去のユースケースや海外のユースケースを紹介できるのが強みになりますね。
クマール氏:もちろんだ。ただし、われわれは常に“N+1”のアプローチで提案することを心がけている。これまでのユースケースを単純に他の顧客へと流用するのではなく、そこに1つ新技術をプラスしてみたらどうだろう? というアプローチだ。たとえば、過去のユースケースにマイクロソフトの「HoloLens」をプラスしたら、あるいはビーコンをプラスしたら、といったことを考える。
あるワイン会社の顧客の事例を紹介しよう。このワイン会社では、農場にドローンを飛ばして情報を収集し、その年はどの農場からどの種類のブドウをどの程度買うか、それをどんな種類のワインに仕上げてどこに売るのが最適か、といったことを分析、決定するソリューションを利用している。このように、デジタル化の取り組みはあらゆる領域の企業で進められている。
デジタル化はすべての企業が取り組まなければならないテーマ
――「デジタル変革」「デジタル化」といった言葉は、日本でもこれから取り組むべきビジネス課題として大きく取り上げられるようになっています。ただし現実には、具体的に何をすべきか? という部分で立ち止まっている日本企業が多いと思います。
クマール氏:われわれのグローバル調査(Global Study on Smart Technologies and Digital Ethics in the Workplace)でも、“スマートテクノロジー”(これまで人間が担ってきた労働や業務判断をコンピューターやマシンで置き換える技術)への投資率において、日本企業(70%)は世界平均(93%)に遅れていることがわかっている。しかし、とりわけ日本では企業の生産性向上が社会的要請にもなっており、機械学習やロボティクスなどの取り組みは必須のはずだ。
「デジタル化」「デジタル変革」という言葉にややうんざりしているかもしれないが、これは架空の概念ではなく、まさに今起きている現象なのだ。したがって、企業が今ここで一歩を踏み出さなければ、取り残されてしまう。
デジタル化を進めなければならないのは、何もUberやAirbnbと競合する業界の企業だけではない。ここまで事例を紹介してきたように、多くの企業が日々の事業プロセスやオペレーションのデジタル化を進めている。あまねくすべての企業がデジタル化を進めていかなければならない、そういう時代だということを理解してほしい。