3年前、日本一の人口流出都市と名指しされた横須賀市の再生を目指す「ヨコスカバレー」構想。横須賀独特の谷戸地区で廃屋を改装し、仲間と一緒にスマホアプリを開発するタイムカプセルの相澤謙一郎さんもそのメンバーの1人だ。前回の吉田雄人横須賀市長への取材に続いては、地元横須賀を愛し、先頭に立って行動する相澤さんの半生と再生への思いをお届けする。
5軒に1軒が廃屋!横須賀の谷戸を歩く
タイムカプセルの横須賀オフィスはまさに横須賀らしい谷戸地域の中間にある。谷戸とは丘陵を侵食してできた谷を指しており、横須賀では三浦丘陵の谷戸にへばりつくように建てられた一連の住宅地を指す。こう配がきつく、階段と細い路地が入り組んでいるため、高齢者が生活を営むのはかなり困難。道路も階段もコンクリだが、多くの谷戸地区には車が入れないため、横須賀市の職員が人手でゴミを運搬しなければならない。オフィスに着くのには、若者並の体力と地理感覚は必要になりそうだ。
実際、相澤さん、横須賀出身のTIS内藤さんとともに、タイムカプセルのオフィスまで足を運んだが、駅から数分の地点からスタートする急な階段や坂の傾斜に驚く。人がすれ違えないような細い道が蟻の巣のように入り組み、辺りの木々で先まで見通せないところもある。坂を上るとふと畑が開け、先を進むとさらに木々に囲まれた住宅地が続く。まさに迷宮だ。横須賀にはこうした谷戸地域が80箇所近くあり、およそ5軒に1軒という高い廃屋率となっている。タイムカプセルでは、こうした廃屋をオフィス兼社宅として利用している。
とはいえ、東京湾と相模湾に接し、広大な面積を持つ横須賀市の中で、タイムカプセルのある谷戸は駅近のかなりの一等地。横須賀中央駅の隣にある汐入駅やJR横須賀駅からものぼり10分、下りは8分の場所にある。「横須賀中央駅周辺やYRP野比、地元の観音崎周辺などいろいろ考えた結果、やはり駅から10分は外せないなと。横須賀は広いので経路にバスや車が入るだけで、若者が来られなくなる。来られなくなると、僕がやりたかった若者を育てるということができないので、ここにしました」と相澤さんは語る。
マリノス公式アプリで名を挙げたタイムカプセル
坂を上り続けてたどり着いたのは、どう見ても寂れた一軒家にしか見えないタイムカプセルのオフィス。中にはいると、美しくリノベーションされている……ということはなく、やっぱり普通の昭和の一軒家だ。「前に住んでいた人の残地物がフルであったので、それを片付けるだけで1ヶ月かかりました。最低限の掃除をした後、仲間二人で泣きながら机といすを運んでなんとかなりました」(相澤さん)とのこと。車が入れないだけに、オフィス開設も一苦労だった。
畳の部屋に机とイスが並んでおり、普段は4人のメンバーが思い思いに仕事をしているという。「布団があるので、2泊3日の合宿を年間3回くらいやっています。高校生の合宿的な感じで一体感出ますよね。僕はもう1行もコード書かないので、合宿やるときは飯だけ作ってます。若い連中は夜まで仕事してますけど、僕は夕飯終わったら、台所でお酒呑んでますよ(笑)」(相澤さん)という。
相澤さんのタイムカプセルが名を挙げたのは、横浜F・マリノスの公式アプリの開発を手がけたこと。「横浜F・マリノスは横浜の名前でありながら、横須賀もホームタウンなんです。そして、親会社の日産自動車は横須賀の工場で車を作っている。横浜F・マリノスと横須賀市、うちでタッグを組んでアプリを作ったんです」(相澤さん)という経緯だ。
これを機に、同社は読売ジャイアンツ、東北楽天ゴールデンイーグルス、阪神タイガースなどの名だたるプロ球団の公式アプリを手がけるほか、大手企業のアプリ開発でも高い実績を誇っている。「世界で2位のバイクメーカーであるヤマハ発動機の担当の方も、磐田から泊まり込みでここまで打ち合わせ来てくれましたからね(笑)。横須賀の会社だから、横須賀の仕事しかできないというのではダメですよ」と相澤さんは語る。
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