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トヨタの自動運転は「お抱え運転手」と「守護天使」の組み合わせで実現する:GTC2016レポート

2016年04月13日 14時00分更新

文● 塩田紳二 編集● ASCII.jp

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 GTC2016最終日の基調講演には、米国Toyota Research Institute, Inc.(TRI)のCEOを務めるギル・プラット(Gill Pratt)氏(写真#%GP%#)が登場した。

基調講演を行ったTRIのギル・プラット氏

 TRIはトヨタ自動車が米国に設立した人工知能技術の研究・開発を行なう会社だ。CEOのプラット氏は、米国防省のDAPA(Defense Advanced Research Projects Agency、インターネットの基礎を作るなど国防省の研究開発を管理する部局)で、災害救助ロボットの競技「DAPA ロボティクス・チャレンジ(DAPA Robotics Challenge。DRC)の責任者を務めた人物。米国のロボット開発の多くを知る人物だ。

 基調講演のタイトルは「Power, Parallel Autonomy、and People」で、大きく3つのパートにわかれていた。まず、最初のPowerでは、プラット氏は、人間のエネルギー消費が30W程度であると述べ、コンピューターや自動車や他の乗り物との比較を行なった。その中で、DAPA時代のプロジェクトとしてビデオの認識を行う「Neovision2」プロジェクトや「神経形態学」を利用した生物の脳を模倣するハードウェア「DARPA SyNAPSE」プロジェクトを紹介した。

圧倒的に効率的な人間の脳
IBMの最新チップはかなり効率化が進んでいる

 人間の脳とコンピューターでは規模で2万倍(人間の脳のシナプスは10の14乗個に対して、Xbox OneのCPUは5×10の9乗)、消費電力はなんと5億分の1(人の脳が30W程度で動作しているのに対して、IBMのBlue Gene/Qが1000分の1秒当たり800万ワット)と大きな差があることを示した。これに対してDAPA SyNAPSEプロジェクトで開発したIBMのTrueNorthチップは、1シナプス当たりで人間の脳の1000倍程度に収まったという。

人間の脳とコンピュータの比較。人間の脳のほうがコンピュータよりも複雑さでは2万倍あるのに、消費電力は5億分の1、重さは3億分の1しかない

DARPAのSyNAPSEプロジェクトで開発したIBMのTrue Northチップ。人間の脳を模倣し、50億個のトランジスタで2.5億のシナプス(人間の40万分の1)を実現。消費電力は、人間の脳の1000の1までに近づいた

コンピュータと人間が
どうスムーズに協力し合うのか

 2つめのパートは「Parallel Autonomy」。これは、制御を移行する時に発生する「Handoff問題」を扱ったものだ。ここでプラット氏は、自身が関与したDRCの話をし、その制御モデルが「SERIES AUTONOMY」(連続的自律)だという。

 リモコンで動くロボットを考えると、制御装置とロボットの間でコミュニケーションが行なわれているが、そのコミュニケーションを減らせるようしていくことが「自律性」となる。ロボット側が環境などを認識して、実現・実行手段を考えて動作する、つまり人が出す指示の量や具体性を減らせるようにするという自律性の作り方だ。この場合、人間はコマンドを与えて、ロボット側に制御を任せる「Handoff」を行なうわけだ。

 これに対して、「Interleaved Autonomy」というものもある。現代の飛行機を操縦するような制御だ。簡単な部分は機械に任せるが、困難な部分は操縦士が行うようなやり方だ。飛行機の自動操縦もこうした自律性の1つだといえる。このときの制御の受け渡しは、飛行機の操縦と同じく、「あなたに制御を渡します」「私が制御しています」といった会話でHandoffを行う。

 もう1つの自律性がParallel Autonomyだ。これは、たとえば、子供にゴルフを教えるときのように、動きをガイドする形で支援する方法だ。この方法では相手の自主性にまかせておき、必要なところで、向きや動かし方を変えるという方法になる。

トヨタが自動運転で優先するのは
安全、環境、モビリティ、そして楽しさ

 そしてプラット氏は、TRIへ入った自分自身の紹介を行なう。このときに会長の豊田章男氏から示された自動運転への優先順位は、「安全性」「環境」「すべての人の移動性(機動性)」「Fun to Drive」の4つだったという。最後のフレーズは日本ではトヨタのテレビCMでよく知られているが、米国では使ってないのか、GTCでは日本人にしか受けていなかったようだ。

トヨタCEOの豊田章男氏がプラット氏に提示した優先順位。「安全」「環境」「すべての人のための移動性」、そして「Fun to Drive」だ

 そして自動運転を考えたとき、SERIES AUTONOMYは「お抱え運転手(Chauffer)」、PALLRALLEL AUTONOMYは「守護天使(Guardian Angel)」を目指すことになる。具体的には、SERIES AUTONOMYは、クルーズコントロールに始まり、ハイウェイでの自動運転、低速、中速の自動運転機能となり、最終的には、運転手のように目的地を告げれば、連れて行ってくれる機能に利用される。

自律制御には「SERIES」「INTERLEAVED」「PARALLEL」の3つのパターンがある

SERIES型の自律制御は「お抱え運転手」、PARALLEL型は「守護天使」を目指すことになるという

 これに対して、Parallel Autonomyはアンチロックブレーキ(ABS)に始まり、自動ブレーキ、レーン逸脱警告機能やレーン維持機能などを経て、衝突回避アクセル機能などとして発展していく。この両者の組み合わせが「自動運転車」の最終的な姿になるという。

お抱え運転手型制御と守護天使型制御のどちらか一方ではなく2つを組み合わせることが最終的なゴールになるという

 TRIの目標は、Guardian Angelによる「安全性の向上」、Chaufferによる「アクセス性の向上」そして自動運転技術の「屋外から室内への展開」にあるとした。つまり技術的なゴールとしては、単なる自動運転車の開発だけでなく、ロボット技術の総合的な応用までを考えているというわけだ。

TRIの自律制御は、安全性と使いやすさを高め、さらにその技術を屋外利用だけでなく、屋内利用にも利用できることを目標としている

最終的にはさまざまな企業や人間との間での
協力と競争で自動車は進歩する

 3つめの話題は「People」。ここでプラット氏は、TRIのこれまでの2つの拠点にくわえて、3つめの施設をミシガン州アナーバー市(Ann Arbor、アン・アーバーとも)に設立することを発表した。TRIはすでにパロアルト(カルフォルニア州)、ケンブリッジ(マサチューセッツ州)に拠点を持っているが、3つめを作ることを基調講演で正式発表した。

トヨタは、人間がどのように振る舞い、機器を扱うのかを研究するために巨大なシミュレーターを開発した。この開発には、NVIDIAの協力があったという

 またプラット氏は、「協力と競争」(CO-OPETITION)が進歩を加速するとし、1950年にトヨタの社長の豊田英ニ氏がフォードの工場を見学に訪れた写真を示した。そして自動車メーカーだけでなく、IT起業や政府、ハードウェアメーカーなどが「建設的」な競争と協力を行うことを望むとした。なぜ協力するのかといえば、世界では自動車事故で年間120万人が亡くなっていて、自動車の進歩がこうした事故を減らすことに寄与できるからだとした。

プラット氏は、ミシガン州に3つめのTRIの開発拠点を設置することを発表した


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