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鴻海とシャープ、買収契約に正式調印

2016年04月02日 23時30分更新

文● 大河原克行 編集●南田ゴウ

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 シャープと鴻海科技集団(以下、鴻海)は4月2日、大阪・堺のグリーンフロント堺内の堺ディスプレイプロダクトにおいて共同会見を行なった。シャープの高橋興三社長、鴻海科技集団の郭台銘(テリー・ゴー)会長兼CEO、鴻海科技集団の戴正呉副総裁が出席。会見の冒頭、鴻海によるシャープへの出資について正式に調印した。

鴻海科技集団とシャープによる調印

 シャープは3月30日に、第三者割当による新株式(普通株式およびC種類株式)の発行を行なうことを発表。これを鴻海が取得することで正式に調印した。鴻海の出資額は約3888億円となり、シャープの株式の66.07%の議決権を得て買収することになる。

 シャープは2月25日に、鴻海が提案していた経営再建策を受け入れることを取締役会で決議。第三者割当増資を行なうことを発表していたが、それに合わせてシャープが鴻海に提出した偶発債務に関して調査を行なう必要があるとして最終契約を保留。シャープ側の2月末までに決着をつけたいという目論見は実現せず、約1ヵ月遅れでの正式調印となった。

鴻海科技集団の郭台銘会長兼CEO

 当初こ出資規模は約4890億円としていたが、経済環境の悪化などを理由に見直しを行ない、約1000億円減額した形に落ち着いた。鴻海科技集団・郭台銘会長兼CEOは「3888億円の出資額は契約をしたものであり、今後減額をすることはない」と強調した。

 なお、出資に関する正式調印のほか、シャープが創業者である早川徳次氏ゆかりの場所に、早川徳次記念館として高齢化社会に貢献する実験的なスマートホームの建設することに関して、鴻海が資金面で支援することを約束する覚え書きの調印も行なった。

鴻海科技集団の戴正呉副総裁

 鴻海科技集団・戴正呉副総裁は、ニトリに売却が決定している大阪・西田辺の本社ビルについて「できれば買い戻したい」と発言。「あの場所は、シャープの歴史のある場所である。それが無理ならば、隣に68年の歴史を持つ1800平方メートルの面積がある場所を持っており、ここに新しい建物を建設。最上階に創業者の早川徳次氏の博物館を必ず作りたい。さらにスマートハウス、エコハウスの展示スペースも作りたい。これもシャープが目指す道のひとつになる」と語った。

シャープの高橋興三社長

 午後3時から開催された会見で、シャープの高橋社長は「鴻海との新たな戦略的提携を推進する一環として、EMSの世界最大手である鴻海からの資本提携を軸とした、広範な戦略パートナーシップの提案を受け入れることにした」とコメント。

 「シャープの事業拡大に寄与するとともに、財務体質の改善にも貢献することになる。近年、抑制せざるを得なかった新たな成長に向けた投資を行なっていくことができる。また、鴻海が保有する世界最大の生産能力、グローバルな顧客基盤と、シャープが持つ革新的で、実績のある技術と開発力の融合を図ることができ、販売量の拡大、新たなサプライチェーンや製造能力の活用など、グローバルに競争力が強化される」(高橋氏)。

 今回の提携では、今後もシャープブランドを維持すること、従業員の雇用を原則として維持し、シャープを企業として存続させて企業としての一体性も維持していくことも明らかにした。「今回の案件は買収ではなく、投資であると言われている。買収が完了したので、後は任せるということは考えていない。自分が立っていかなくてはならないと考えている」(同)

 高橋社長は「1974年に鴻海を創業したテリー・ゴー氏は、最も競争が激しいIT分野において、世界的な成功実績を積み重ねてきた企業家である。興隆するアジアの勢いとスピードそのものといえる会社である」と評し、「鴻海とともに、日本および世界の様々な企業と連携することで、共同研究開発を積極的に進め、技術開発を促進することで電機産業の発展に貢献していく。単に生産面の強さだけではなく、ナノテクノロジーなどの最先端技術も持つ企業である。新たなシャープ・鴻海連合を結成するなかで、お互いの企業文化を尊重し、認め合うことで、両社が持つ創意の遺伝子とベンチャースピリットの融合を図り、アジア初の新たなプロダクトイノベーション、開発、製造の姿を示したい。シャープ自らが脱皮し、これから10年、100年に渡って、世の中に無くてはならない会社になるために、新たな価値を提供する企業を目指す」と述べた。

 一方、鴻海の郭会長兼CEOは「今日は、シャープにとっても、鴻海にとっても重要な一日になる。シャープは技術のイノベーターとして、リーダーとして果たしてきたことに敬意を表する。創業者の早川徳次氏のイノベーションに対する意思は、今でもシャープ社員の間に息づいている。初のシャープペンシル、ラジオ、電卓、白物家電の参入など、イノベーションの企業であることを証明してきた。このイノベーションのDNAがあるから、私はシャープが大好きである」と語った。また、シャープ製の冷蔵庫を30年使用している友人がいることを引き合いに出しながら、「シャープといえば品質である」とコメント。「シャープの技術者には、不屈の精神がある」(郭氏)

 「シャープに出資するのは価格の問題ではなく、会社の価値の問題であり、ともに生み出していく今後の価値が重要である。2012年に堺ディスプレイプロダクツに出資して以来、シャープの技術文化と、技術進化の取り組みには尊敬の念を抱いてきた。8Kディスプレーをシャープといっしょに世界中に紹介できることを誇りに思っている。105年の歴史を持つ日本の企業を台湾の企業が買収する理由は、世界がフラット化し、企業には国境がなくなってきている点が大きい。世界中にいる株主に対する利益を最大化することが重要。シャープは日本の企業ではなく、グローバルな企業である。鴻海も台湾企業ではなく、中国企業でもない。グローバル企業である。グローバル企業どうしが独自のリソースを持ち寄り、お互いに補完しあい、成功できるということがわかった上で出資するものである」(同)

 郭会長は、次世代IGZOや有機ELなどのディスプレー技術や、カメラモジュールやセンシング技術にも投資をしていく姿勢を示したが、「多くの人がこれからは有機ELが重要だというが、私がエンジニアであったらIGZO技術に注目してほしいと思う。IGZO技術は世界トップの技術である。コスト削減効果という点では、IGZOを押したい。VHSとベータの戦いでは、技術的に優れたベータよりもビジネス面で優れたVHSが勝った。将来的にはIGZOが60%、有機ELは40%ということになるだろう。新たな技術において勝つ企業は、早く動いた企業である」と語った。

 その一方で「この戦略的投資における課題を甘く見ることはないが、方向性と競争力を持つ限り、景気が悪いことを恐れることはないと考えている」とも述べている。「鴻海とシャープは文化的な違いがあるからこそ、うまくいくと考えている。これは物理的な境界があるということではない。両社の違いこそが資産である。鴻海には100万人以上の従業員がいて、国籍はさまざま。シャープにも世界各地にさまざまな人がいる。それを生かすことができる。両社の文化に違いがあるからこそ、スピード、品質、コストを追求し、イノベーションを進め、製品の開発、製造に集中できることができる。違う文化を活用することで、シャープを新たな段階へ持って行くことができる」(同)

 「私たちは世界で最も優秀な企業と仕事をしていることを誇りに思っている。この最も優秀な企業は、最も難しい顧客ともいえる。厳しさを持たないとベストな企業にはならない。私たちは、常にお客様からの挑戦を受け続けている。鴻海がこの業界でリーダーになることができたのは難しい顧客がいたからだ。この顧客の存在が、当社がさらに上を目指すことにつながった。私たちは顧客の要求によって、さらなる成長ができる。企業文化が違っても、それを活用して、お互いをより高いところに引き上げることができる」と語り、アップルの存在が同社の成長の源泉になっていることを示した。

 そのほか「いまの鴻海は、罠にかかった鰯(いわし)の群のなかにいる、一匹のナマズのようであると言われた。鰯は賢明に泳がなくては、そのナマズに喰われてしまう。だが、私は、鴻海がナマズだとは見ていない。変化のための触媒であるとは見ている。シャープにおいて変化を促すことができなければ、グローバルの競合他社が私たちを生きたまま食べてしまう。つまり、我々も賢明に泳ぎ続けなくてはならない」と述べた。

 郭会長はシャープの再建計画の基本的姿勢についても言及。「中国の格言に、高い山と対峙する際に最も怖いのは、ロードマップを持たないことである。私自身、ロードマップを持っていなければ、この重要な投資をするためにここまで労力をかけ、長い道のりを辿ってくることはなかった。再建の方向性は明確である。まず、シャープが技術をスピーディーに、コスト効果のある形で、最高の品質で、商品を投入できるための支援に集中する。それにより、シャープが再び先端的な、消費者向けのグローバルブランドになれるようにサポートしていく」(同)

 シャープの黒字化の時期については明確にはしなかったが、「2年と思っていても、日本人の文化では4年だというだろう。日本人はシャープのブランドが好きであり、シャープブランドを日本人がサポートするように、鴻海もシャープブランドをサポートする。優れたシャープ製品が登場し、これを購入してもらえれば、短期間で黒字化することが保証できる」と語った。

 シャープの従業員に対する呼びかけとして、「今日という記念すべき日に、シャープが今後100年繁栄できることを確実にするための一歩を、踏み出していただきたい」とした。

 鴻海では、毎年個人の成績を理由にレイオフする人員が3~5%に達していることを示しながらも、「日本では、最善を尽くしている人たちは維持するようにしたい。若い人でも適職についていない人がいる。チャンスを与えて、残ってもらうようにしたい。適切な責任とポジションを見つけるように努力する」としたほか「シャープには、技術の統合がうまくできていないという課題がある。全体を見渡す人がいない。シャープはディスプレー技術は優れているが、電話の技術は優れていない。これは電話のチームに優秀な人がいないわけではなく、適材適所になっていないことが原因。複数のチームを管理する役職が必要だと考えている」と指摘した。

 会見は異例の土曜日の開催になったほか、調印式の実施や進行を日本語と英語の逐次通訳で行なったため、2時間40分以上に渡るものになった。


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