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ノマドワーカーなのに知らないの? 「ポータブック」発売にかこつけてモンゴル遊牧民の話を聞いてきた

2016年02月12日 11時00分更新

文● 広田稔(@kawauso3)、編集●ハイサイ比嘉

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自然を守るために生まれた遊牧スタイル

――スチンさんが日本に来たっかけは何でしょうか?

 16年前、中国の大学を卒業してから留学生で日本に来て、そこからずっといる感じです。当時、モンゴルにとって日本は憧れの国のひとつでした。日本とモンゴルは文法も似ていて親しみもあった。多神教で、山や川、木にも神様が宿ってるのも日本と同じですね。日本の学校を卒業してから1年半ぐらい就職して、そこから独立して小さな会社を始め、事業のひとつとして昨年1月からこのお店を始めました。

――日本からすると、モンゴルは遊牧と相撲(ブフ)のイメージが強いです。遊牧民は今もいるんですか?

 都市化が進んでいますが、もちろんいますよ。モンゴルは、いわゆるモンゴル国の「外モンゴル」と、中国の自治区にあたる「内モンゴル」のふたつに大きく分かれていて、言葉や生活習慣は全く同じ。外モンゴルでは、人口がだいたい300万人ぐらいなのに、首都のウランバートルに150万人ぐらい住んでて一極集中している。

モンゴル相撲(内モンゴル)用の試合コスチューム(ゾドク)も飾られていた

――半分はウランバートル!

 一方で、国の面積は日本の5倍ぐらいあるからとにかく広い。田舎の方に行けば遊牧民も多く、少なくとも100万人ぐらいはいると思います。なぜ遊牧するかといえば、1ヵ所にとどまっていたら牧畜が草を食べつくしてしまうので、季節によって場所を変えているんです。冬は寒いので山の陰にあたる暖かいところ、夏はもっと涼しいところといった感じで選んで、家畜と共に移動します。

――そこまで広いと、土地という概念はあるんですか?

 もちろんあります。町とか県の範囲があるので、むやみに移動して草を食べさせちゃダメ。みんな境界をわかっていて、そこを越えて食べないように誘導していくんです。GaLa店内のテレビではモンゴルの風景を映してますが、うちの自宅のすぐ近くで100kmぐらいしか離れてない。

――100kmですぐ近く!?

 モンゴル人にとって100kmはすぐ近く。隣に家がなくて、誰もいないこんな大草原らしい風景がずっと続いてる。だからお客さんをすごく大切にする習慣があって、きちんともてなさないと悪く言われる。

――なるほどー。遊牧民が飼っているのは羊がメインですかね?

 日本人だと羊しかいないイメージかもしれませんが、本当は羊、ヤギ、ラクダ、牛、馬と5種類ぐらい飼ってます。

――ラクダも! 食べられるんですか?

 食べられますよ。そして毛で作った編み物も暖かい。馬は交通手段、ヤギはカシミヤが人気です。もちろん家族によって羊が多かったり、ヤギが多かったりとメインの家畜は違ってきます。メインの食事は羊肉で、冬は牛肉も食べます。ヨーグルトや馬乳酒なども全部手作りです。

左写真の手前に写っているのは、ホルホグ(石焼肉)。真っ赤に焼いた石を鍋に入れて、コンロの火熱と石の熱で肉を焼くという昔ながらの料理。羊肉ではなく、牛肉を使用している。お店の料理は日本人向けにアレンジして食べやすいように調理しているそうだ

右写真は、手前から羊肉春雨炒め、揚げチーズ、ホーショール(羊肉と玉ねぎの刻みを特製生地で包んで揚げた揚げ餃子)、モンゴル岩塩焼きめしなど

――日本人だと穀物が多いです。

 モンゴルの土地は、地面から20cmぐらいまでが固い土で耕作に向いておらず、耕したら砂漠になってしまうところも多いんです。だから土地に負担をかけないように家畜を飼って、さらに同じ場所にとどまると家畜の踏み跡で地面がダメになってしまうので遊牧している。肉が主食ですが、家畜が草を食べているので、その乳製品からビタミンなどを間接的にとってます。

――遊牧は生活の知恵だったんですね!

 モンゴル人は省エネなんです。ゴミとかも、一家族が移動した後は何も残らない。暖をとる燃料も牛の糞を乾かしたもので、乾燥させると草を食べたものだから臭くない。家族が移動すると、残るのが灰だけで、それも1年経つとなくなってしまう。昔から自然を守る意識がすごく強く、王様が「この山は神聖なる山」と決めたら、狩りどころか草一本とってはいけない。モンゴル人は一番自然に優しい民族なんです。

――スゴい……。自分のノマドワークでもお店に迷惑がかからないように気をつけたいところです。

衛星テレビ、ソーラー発電、携帯電話などで近代化

――遊牧民はゲルに住んでるんですか?

 そうです。冬の間はどこかに定住して、夏だけ移動するという人も多いですが、そうしたときにもゲルを持って行く。もちろん冬もゲルに住んでいる人もいます。家族の収入とかによっても異なりますが、1家族でふたつか3つ持っています。

GaLa店内のゲル風装飾は、なんと、ダライさん自身が3ヵ月くらいかけてすべて作ったのだそう。つなぎ目が鋲ではなくヒモで止めてるので、全部たためるようになっている

――寒くないんですか?

 真ん中にストーブがあって、フェルト製の分厚いものを使ってるので結構暖かい。モンゴル自体の寒さはすごく厳しいですよ。10月から雪が降ってしまって、冬はマイナス20度ぐらいが平均。この間寒波が来たときにはマイナス50度でした。唾を吐いたら地面に着く前に凍ってしまう。

――すごい(笑)

 でも乾燥しているので、日本とはちょっと違います。日本は湿気が多いので、マイナス2、3度でもかなり寒く感じますよね。

――冬の間って何をしているんですか?

 小さな頃はテレビがなかったから、ラジオを聴いていました。あとはトランプで遊んだり、本を読んだりとか。寝るのも午後8時とかで早かった。電気が通ったのが1986年でした。でも日本が便利になったのもこの50、60年ぐらいですよね?

――そうですよね。そういえば、ゲルを使う方々は電気はどうしてるんですか?

 今はソーラーパネルとか、風力とかで発電してます。お互いの家の距離が離れすぎて、電線を引くのが無理なので。電話も固定電話が普及する前に、みんな携帯を持っちゃった(笑)。ウランバートルなどの都会ではパソコンもスマートフォンも持っていてメッセージをやり取りしてたりする。

――なんか急に近代化しましたね!

 ここ10年ぐらいですごく発展しました。ただ、携帯電話でも電波が入るかどうかが大変。山の上に立ってる電波塔を考えて、みんな高く持ち上げて「あっ、電波きた」とか。

――(笑)

 朝、家畜に餌を食べさせるときにもスマートフォンを持って行きますし、若い人は馬の代わりにバイクで出かけることもよくあります。車も人気で、燃費がいいので、モンゴルでは日本の中古車がよく使われています。

――意外! 遊牧民の家電事情はどんな感じでしょうか?

 洗濯機は都会はまだしも、田舎はまだ手で洗っていると思います。テレビはみんな持ってて、電波を拾うためにでかい衛星テレビのパラボラアンテナを使っています。日本のテレビ番組も映って、相撲が大好きだからみんな生中継で見てます。だからモンゴル人は日本人よりも相撲取りの名前を知ってる。

――スゴい(笑)。確かに「モンゴル ソーラー」や「モンゴル パラボラ」で画像検索すると出てきますね! IT化されてる!

 ITの話で言えば、その「ポータブック」が搭載しているWindows 10や、スマートフォンでも対応しているモンゴル文字が面白いと思います。縦書きでつなげて書くんです。世界中でモンゴル文字だけ縦じゃないとダメ。チンギスハンの時代から使っていて、無形文化遺産に登録されています。外モンゴルはロシアの影響でキリル文字を使っていたんですが、やっぱり自分達の文化を大切にしたいということで、去年法案が制定されて2025年から復活させて使おうと試みています。

向かって左側に縦に書かれているのが、モンゴル文字。“行”については、左から右につづるとのこと

――面白い! うーん、やっぱり自費でもモンゴルに行っておけばよかったかな……。

 機会があったら、夏の6月~8月の期間にぜひ行ってみてください。日本との価値観の違いに驚きますよ。

(次ページに続く)

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