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同時多発テロ事件直後のパリ、現地展示会で見たものは?

2015年12月25日 10時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)、編集●ハイサイ比嘉

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会場には空のブースが目立つ

 パリ入りそのものは問題なかったが、今回の目的である展示会は会場に直接行って自分の目で見ることで、やはりテロの影響は無視できないレベルだと実感した。

 Cartes事務局からはあらかじめ「荷物のチェック体制を厳重にする」との通達があり、会場入りが困難とみて例年より30分以上早めに会場入りすることにした。だが実際には、駅の出入り口で「コートとカバンを開いて見せるように」と簡単にチェックし、あとは展示会場の入り口で簡単な触診によるチェックを行なうのみで、警戒していた割にはあっさりとゲートを通過できて拍子抜けしたほどだ。今回の犯行は自爆テロだったので、爆弾を身に付けていないかだけをチェックしていたらしい。

シャルル・ド・ゴール空港隣にあるParis Nord Villepinteというコンベンションセンターの2つのホールを使って開催されるCartes。数年前のピーク時に比べると、やや規模が縮小している印象を受ける

毎年傾向は若干異なるが、2015年はEMV対応をにらんだICチップ搭載クレジットカードの高速印刷機や新しいタイプのPOSレジが展示内容として目立った

 実際に会場に入ってから驚いたのは、あちこちにブース設置予定場所と思われる巨大な空きスペースがあり、一見展示しているように見えても実際には無人で展示もカラという場所がみられた。展示会場と併設のセミナー会場では、電光掲示板に講演がキャンセルされた旨の掲示が次々出現し、キャンセル表示がない講演であっても、中に入って「なかなか始まらないな……」と思っていたら実は登壇者が来場せず急きょ中止になっていたりと、当初まわる予定だった展示ブースや講演は半分以上がキャンセルという状態だ。

展示と併設のカンファレンス会場では、朝到着すると電光掲示板には続々と「Cancelled」の文字が並ぶ。講演予定者がパリ渡航を中止したためだ

 もともと、フランスで行なわれる講演や会議は、当日のドタキャンや講演者遅刻による登壇順変更が多く、多少のスケジュール変更には慣れていたのだが、さすがに半分以上の予定がキャンセルされるのは想定外だった。

 Cartes事務局が出したデータによれば、2014年開催時は来場者が1万9000人以上で460の出展社だったものが、2015年には来場者が1万5090人で394の出展社へと減少している。来場者は2割強減り、出展社数も同程度減っているようなカウントになっているが、筆者が会場をまわった感じでは展示会場全体が昨年比で小さくなっており、さらに展示をキャンセルして無人のブースが全体の1/3ほどあった。おそらく、2015年の数字は、キャンセルした出展社も一部は参加扱いで集計に含んでいるのではないかと考えている。

 年次開催の展示会自体の盛り上がりは波があるため、今回の発表のように来場者数が昨年比2割減でも不思議はない。だが、会場のそこらじゅうに無人ブースが並んで閑散としている雰囲気は、やはりテロの直接の影響が大きいと考えざるを得ない。

無人の展示ブースを巡る

 皆さんは“無人の展示ブース”と聞いて、どのようなものを想像するだろうか。単に人がいないだけ、あるいはブースそのものが存在せずに空間だけがポッカリと空いているなど、いろいろ考えられるはずだ。今回のCartes展示会場は、そんなさまざまな状態の無人ブースがあり、出展社側の苦労を垣間見ることができて興味深かった。

 まず、テロが発生したのが展示会が開催される週の直前の金曜日夜であり、週末を挟んですぐに展示会がスタートするため、テロを受けて出展社ができるのは実質的に「現地に飛ぶスタッフの旅程をキャンセルする」ことだけだ。展示会では、すべてを自前で用意する出展社もいるが、比較的大きなブースでは業者への委託に頼っている。展示ブースの組み立てのほとんどを業者に委託して実際の展示物のみ持参するケースもあれば、ガラスケースや木枠など展示用のレンタル機材を発注して自分たちで組み立てるケースなどもありさまざまだ。業者をキャンセルできず、出展社に明け渡される直前の状態で放置されたブースが多数散見され、この作業分担範囲が一目瞭然だったことが筆者の興味をひいた。

 東芝や凸版印刷のように、日系企業は比較的ブースが完成しており、展示すべき実物や説明員のみが不在で、あとはスタッフが渡仏できなかったことを告知する貼り紙のみが残された状態だった。一方で、ブースの枠と出展社の名前のみが貼られた状態だったり、あるいはレンタル機材が放置状態でほぼカラのブースには、どこからともなく机や椅子が運び込まれ、来場者が勝手に休憩所や打ち合わせスペースに活用していた。出入り口正面に巨大なブースを構える出展社でも、いくつかは出展をキャンセルしていたケースが見受けられたが、このような無人ブースは比較的出入り口から遠い中小の出展社に多かったように思える。

展示会場をまわっていると、一見すると展示を行っているように見えるが、実際には業者が事前に設置したパネルのみで出展関係者が誰もおらず、出展を中止した旨の貼り紙やリリースが置かれているだけの状態ということも。写真は東芝ブース

凸版印刷のブースの様子

 

展示パネルが設置されているのはまだいいほうで、業者が置いていった展示ケースのみが無造作に配置され、主催者によって「Absent Exhibitor」の札が設置されているのみのブースや、あるいは何もなく空きスペースのみが存在し、誰かが置いたテーブルや椅子を使って休憩スペースとして使われていることのほうが多い

 今年のCartesの傾向としては、これまで毎年参加していたソニーや大日本印刷が出展を見合わせていたり、一時期は入り口真正面で巨大なブースを構えていたGemaltoやG&DのようなICチップのベンダーが昨年から引き続き出展を見合わせるなど、比較的スマートフォンに近かったベンダーが一斉に引いた印象がある。一方で、高速にICカードを発行するDatacardのような大手は引き続きトレンドの中心におり、さらにIngenico、Verifoneといったハンディ端末やカードリーダー系のベンダーや、POSソリューションを開発する新興系ベンダーが多数見受けられるなど、一時期のスマートフォンブームの波は引いたようだ。

今回日系企業の出展社で展示を確認できたのはワコムのみだった

 なお、Cartesは来年2016年から「Trustech」へと名称を変更し、「Cartes」(フランス語でカードを意味する)の名称を冠して20年の歴史を持つイベントから、セキュリティ技術を広くカバーするイベントへとリニューアルを予定している。

Cartesは来年2016年から名称を「Trustech」へと変更し、より幅広いセキュリティ技術を取り扱う展示会となる予定だ

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