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『角川インターネット講座』(全15巻)応援企画 第12回

田中浩也准教授(慶應大学SFCソーシャルファブリケーションラボ代表)、青木俊介氏(ユカイ工学CEO)が語る

Makerムーブメント最前線~これまでの10年とこれからの10年

2015年12月19日 18時00分更新

文● 二瓶朗 編集●村山剛史/ASCII.jp

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進化しないロボットがコミュニケーションに特化する

遠藤 青木さんは「BOCCO」以外にもさまざまなロボットを作っていらしゃいますが、人間みたいに動くほうには行かない?

青木 基本はコミュニケーションにフォーカスしています。「歩くロボット」ってかなり難しいです。ASIMOも2000年ぐらいで歩くようになって、それから小走りできるぐらいに進化するんですが、バック転するほどではないし、ぱっと見それほど変わっていません。

 というのも、肝心のモーターやバッテリーが100年以上研究し尽くされている分野なので、あまり急激な進化がないのです。

 物理的な制約が大きくて、商品レベルでも30分ぐらいしか動かせないのに充電で丸1日かかるロボットっていうのは、ホビイストにしか使えない「おもちゃ」です。もうちょっと、ちゃんと使える「モノ」を作りたくて。

遠藤 田中さんはロボットも興味がないわけじゃないみたいなことをおっしゃってましたけど?

田中 僕は本当は「モノのアップデート」という研究をしたいんですね。いま、ロボットの頭脳に当たるのはソフトウェアなので、いくらでもアップデートできますが、物理的な身体にあたる「外」を合わせてアップデートしたいという気持ちがあります。

 だんだん成長していくとか、だんだん老いていくとか。3Dプリンターがもっと一般化すれば可能になるのではと思うのです。たとえばアップデートパーツのデータが送られてきて、それを各家庭でプリントして取り付けるようなかたちかもしれない。

遠藤 それで機能も変わっちゃう?

田中 機能も変わると面白いですよね。ソフトウェアのアップデートに、ハードウェアのアップデートも連動すると面白くなる。郵送でもひとまずはいいけどやはり処理が大変なので、究極的には3Dプリンターでできたらいいと思うんですね。

青木 3Dプリンターなら回路も印刷できるから、ハードウェア的なアップデートもできますよね。確かに。

アルデバランロボティクスとソフトバンクモバイルが共同開発した「Pepper」。2014年6月5日に販売開始されて以来、定期的に販売されているが即完売状態が続いている

遠藤 ちょっと話が戻りますが、アクチュエーターとかモーターとかは確かに進化しないけど、時代の要請に応えているという意味で象徴的なのがアルデバランロボティクスの「Pepper」ですよね。

 あの会社は四肢が動くロボットも作っているのに、大きな画面が胸に付いてたりして一見すると退化してるみたい。でも非常に評価されている。これは……?

青木 つまり、コミュニケーションロボットだからですよね。

遠藤 コミュニケーションのほうがロボットに求められる価値として当面高いみたいですね。もちろん四肢が動くロボットにも介護とかいろいろ役目があるから忘れちゃいけないと思うけど、当面、市場として成立してメリットも大きいのがコミュニケーションロボットだと。

青木 そう思います。Pepperの場合、カメラも2~3基入っていて、いわゆるKinect的な機能も搭載されています。一昔前だったらそこだけで数十万円という話になるけど、1万円以下のパーツで相手が女性か男性か判別するとかも手軽にできるようになってきました。これはコミュニケーション用途としてはすごい重要だと思います。

 あとは音声認識したデータをサーバーに飛ばして返すことが普通にできるようになったことも大きいでしょう。Pepperやスマホレベルの処理能力でも人間の会話に応対ができるようになったんですから。

世界中のMakerたちは3Dプリンターで何を作っているのか?
3次元データの検索エンジンが教えてくれる

田中 3Dプリンターで全部を作るっていう大仰なイメージより、既存のモノを、ちょっとずつ「アップデート」するみたいな感じの使い方ができないかな、ということに関心を持ち始めてから何年か経ちます。

 最近、研究室の学生と3次元データのサーチ(検索)エンジンを作ってみたんですよ。もう試験利用ができます。慶應大学のサーバーに100万件ぐらい3Dデータをクロールして集めているんです。そこでたとえば「iPhone」って検索すると、今ネット上にあるiPhoneに関する3次元データがわらわらと出てくる。

3次元データの検索エンジン(http://fab3d.cc)で「iPhone」を検索したところ

遠藤 それは公開されてる3Dプリンター用のデータっていうことですか?

田中 そうです。「iPhone」で検索すると、世界中でみんながアップしている「iPhone」がらみの「STLファイル」が出てくるんですよ。このサーチ(検索)の結果を見ていると、世界中の3Dプリンターでどんなものが出力されているかが良く見えてくるんです。

遠藤 3Dプリンターで今なにが流行ってるかみたいなことですか?

田中 はい。やっぱり、割と改造パーツやアタッチメントが多いなと。たぶんPepperも出てくるんじゃないかな。あ、「Pepper」で検索すると「コショウ入れ」ばかり出てくるな(笑)。

 あとは著作権とライセンスの問題をクリアして、利用者がデータをダウンロードできるシステムにしたいと思っています。他方、自分たちでもオープンに使える3Dデータの「図鑑」サイトをつくろうとしています。動物や植物のデータなどを公開していて、「ロボット」のジャンルはまだないんですけど、これから作ります(笑)

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(次ページでは、「Makerムーブメントを下支えする企業のオープンイノベーション」)

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