ひと言で言うと、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の成り立ちと宅配便への取り組み、そして著者の宅配ドライバー助手、物流センターの倉庫係としての体験談が書かれた本だ。本書を一読すれば、宅配便の歴史と実情をすべて理解することができる。
著者は、物流の業界紙の記者時代から数えて、20年以上、宅配便を含む物流業界の記事を書いてきた人物だから、内容が濃い。また、上記の企業に正面から取材するだけでなく、“現場”を自ら体験して本書を書いた姿勢には頭が下がる。その体験談は過酷で、華々しい各社の歴史など吹き飛んでしまうほどだ。
また、著者はアマゾンを始めとするECの送料無料がどんなに物流企業、ひいては現場の人を苦しめているかを繰り返し指摘する。また、「下積厳禁」「ワレモノ注意」「ナマモノ」「横抱え厳禁」などのシールを貼り自分の発送する荷物だけを特別扱いするように要求するなら、その分のその料金を上乗せして荷主が支払うべきだと著者は主張する。「時間指定」についてもそうだ。ある佐川急便のセールス・ドライバーは、自分で指定した時間に受け取れないのなら、一般客から追加料金をもらえば良いと提案する。まさにその通りだ。
物流業界は値下げ競争から抜け出し、料金適正化の流れにある。宅配会社が非情な値下げを要求するアマゾンの宅配から次々撤退する中、どういうからくりでヤマト運輸がアマゾンの物流を請け負っているのか分からないが、料金適正化の流れは推進しなければならないだろう。
本書が刊行された後、日本郵便を含む日本郵政が上場した。しかし、日本郵便の郵便・物流事業は業績好転の兆しが見えていない(YAHOO!ニュースBUSINESSより)。そんな中、上場により多額の資金が流れ込めば、著者は、佐川急便の買収も具体性を帯びてくると指摘する。
著者は、最後に「どれだけコンピューターのシステムやロボット工学などの科学技術が進歩しようとも、物流業務に人手がかかることは変えることができない事実のように思われる」と書いている。しかし、米アマゾンがドローンを使った宅配サービスの特許を取ったり、商品をピッキングするロボットのコンテストが開催されている今、物流の現場が人からドローンやロボットに移っていく趨勢は避けられないように私は思う。それが何年かかるか分からないが、著者が骨身を削って取材した物流の現場は過去のものになるのではないか。
著者はこの発言の根拠を書いていない。人が介在する現場が変わらないなら、根拠を示してほしいものだと思った。
いずれにせよ、ここ数年は宅配ドライバーや物流センターの倉庫係が汗水垂らして働く状況に変化はないだろう。
【著者プロフィール】――――――――――――――――――――――――――――――――――
1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙「輸送経済」の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。主な著書に、「潜入ルポ アマゾン・ドット・コム」「ユニクロ帝国の光と影」「評伝 ナンシー関」「中学受験」など。